ハンガウトです。私が独立開業後、初めて個別相談に取り組んだ子で、3歳から30歳頃までおつき合いした自閉症男子。彼には、「自閉症ってこういうものか」ということを、たくさん教えてもらったのですが、その一つを紹介します。
ご多聞にもれず、幼児期はパニックも頻発、いろいろなこだわりもありましたが、初対面のときから、「自閉症のくせに、妙に人なつっこいな」という印象でした。喋ろうとはするのですが、発音器官に何も問題はないのに、なぜかすべての音が母音化してしまい、こんにちはと言えば「オンイイア」、おまんじゅうを食べたいときは「オアンウウ」といった具合。だから、慣れた人で前後の文脈が解っている場合は理解できますが、ふつうは通じません。しかも一度でも「え?」と聞き返せば、もう絶対に喋ろうとしません。
そんな彼でしたが、ご両親の教育方針で、小・中学校とも支援級で過ごし、高校は夜間高校へ通いました。おかげで、昼間働いている大人たちに囲まれて、とても楽しく過ごし、卒業後には結婚式にも招待されました。そのくらい周囲の受け入れが良かったわけですが、彼自身に可愛がられる素質があったとも言えるでしょう。
小学校最初の数年間は、まだパニックもあったので、授業中校内をウロウロ歩き回るのも放任。そこで「授業中は、たとえつまらなくても、着席していることが、最低限のルールだ」と徹底的に教え込み、高学年の頃には、一応着席しているようになりました。とはいっても、自分の好きなことをしているだけですが…。
もともと英語が好きなのか、中学になってから、リングに綴じた単語カードを2冊は憶えました。たとえば、「本は英語で言うと?」→「ウッウ」(Book)、「じゃあ、リンゴは?」→「アッウウ」(Apple)と応えます。ところがその逆、「Bookは、日本語で言うと?」は、応えられません。
実は、自閉症児者が一般的に、母国語よりも第2外国語のほうが得意だというのを、ご存じですか? これは、全世界共通です。たとえば英語圏の子なら、英語よりフランス語やドイツ語のほうが得意なのです。おそらく、母国語は自分が不得意だと承知しているので、外国語のほうが気ラクなのだろうと私は考えていますが、真相は解りません。
中学に進学してしばらく経った頃です。せっかく好きな英語の授業があるけれど、はたして授業を聴いているのだろうかと疑った私は、ある日、会った途端に、「What's your name?」と言いました。もちろん半分冗談のつもりだったのですが、彼は「アオエーウ〇〇」(○○は自分の名前)と、言ったのです。私には「マヨネーズ〇〇」と聞こえました。おそらく彼の耳には、My name is が、マヨネーズに聞こえていたのでしょう。しかもちゃんと、自分の名前を文末につけて応えたのです。
もう、ビックリでした! ちゃんと聞いて、内容を理解しているんだということを、思い知らされました。ちょっと見には授業など参加していないようですが、きちんと聴いて、解っていたのです。
もちろん、客観的事実として、彼がそう言ったのかどうかは証明できません。けれども、私はそう信じているし、会話とは所詮そんなものだと思っています。発した言葉が事実かどうかは、あまり関係無いのです。
たとえば、私が友人に何か頼み事をしたとき、相手が「いいよ」と返事してくれたとします。そのとき、必ず言葉通りに解釈するでしょうか? 相手の表情、態度、雰囲気などで、「口ではそう言ってるけど、ほんとはイヤなんだな」と、察するかもしれません。それは諸々の状況によって違うはず。
言語の専門家によると、私たち一般のおとなでも、会話において言語の果たす役割は、30%にも満たないのだそうです。実際のところ私たち人間って、言葉以外の部分でコミュニケーションが成り立っているのですね。だから、自閉症の人たちともちゃんと気持ちが分かり合えると信じて、おつきあいしています。
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