以前、成人の障害者施設(生活介護施設)で働いていたはぐはぐです。
今回はその施設での心のケアの実践をご紹介します。
Ⅾさんは、32歳の重度知的障害を持つ女性。
自宅でご家族と生活していますが、日中は生活介護施設に通ってこられています。
Ⅾさんは、嫌なことがあると、手に届く範囲のものを投げ、机をひっくり返し、ロッカーを蹴り倒し、止めに入った職員の髪を引っ張り、かみつく行動が見られ、そうなったらとりあえずほかの利用者さんを違う部屋に避難させて、Ⅾさんの嵐が去るまで誰もケガが無いように、よけるしか方法はありませんでした。
職員もどう対応していいかわからず、ほとほと困っていました。
ある日、Ⅾさんの大切なピンクの傘がなくなりました。自宅を探しても、施設を探しても、どこにも見当たりません。Ⅾさんは爆発寸前で、すごい形相で物を投げ「傘~!」と叫んでいます。
そこで、対人援助技術「心のケア」を学びだしたところの私と、いつもⅮさんのお世話をしている支援者のSさんが、Ⅾさんの肩を両側で支え、しっかりと保持しながらお話が始まりました。
最初は、かなりの錯乱状態で、抑え込まれるような形になった私たちに対して、噛もうとしたり、腕を振りほどこうとしたりの行動を繰り返してました。そこで、「カサがなくなったんだね。それは悲しいね」という言葉を、やや大げさに繰り返すと、「え!?」という表情で少し力が緩みますが、まだしばらくは逃げよう、噛もうとする動作が続きました。
「カサがなくなってとても悲しい」「大好きな傘がなかったらとっても困る」「心配」「不安」などの言葉をつづけるうちに、本人の口からも「どこに行ったの~ピンクのカサ~」という叫び声が出るようになり、その頃より、噛もうとする動作はなくなってきました。
「返せ~、どこ~」などの言葉に対して、悲しみ、苦しみそれと今までたくさん我慢してきたこと、スタッフはそんなけなげで頑張っているⅮさんが大好きだよと、話を進めていくと体の力がどんどん抜けていきました。
そこで、ピンクの傘をどうするか話し合っていきました。
支援者S「カサはもうないよ」
Ⅾさん「返せ~ピンクのカサ~」
支援者S「新しいのかってもらおうよ」
Ⅾさん「いや~ピンクの傘、絵、絵」
支援者S「絵を描くの?」
Ⅾさん「絵・絵」
支援者S「自分で絵を描いて傘を作るの」
Ⅾさん「はい」
支援者S「どんなカサにしよう?」などの会話を進めていきました。
途中、感情が高ぶってそうな部分に、私が部分的に介入して気持ちの発散を手伝っていきました。
しばらくすると、傘の話をしてもⅮさんの力が抜けて、なんだかもう大丈夫と感じたので、「もしかして噛まれるかも…」と感じながら手を放しました。
ですが、Ⅾさんは、とてもすっきりした顔で、支援者Sさんとともに、ワープロに座り(Ⅾさんはワープロで文字を打つのが好きです)、
「かえせ、かさ」
と打って、2人で仲良く「かえせ~かさ~」と、にこにこしながら叫んでいました。
とても暖かい空気に包まれた二人を見て、私も、ほかのみんなも、ほっと胸をなぜおろしました。
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