つらつら日暮らし

菩薩戒授与に於ける三師について

この辺は以前、【『観普賢菩薩行法経』に見る菩薩戒について】という記事でも採り上げたことがあるのだが、今日はまた別の観点から取り上げてみたい。

 爾の時に行者若し菩薩戒を具足せんと欲せば、応当に合掌して、空閑の処に在って遍く十方の仏を礼したてまつり、諸罪を懺悔し自ら己が過を説くべし。
 然して後に静かなる処にして十方の仏に白して、是の言を作せ、諸仏世尊は常に世に住在したもう。我業障の故に方等を信ずと雖も仏を見たてまつること了かならず。今仏に帰依したてまつる。
 唯願わくは釈迦牟尼仏正遍知世尊、我が和上と為りたまえ。
 文殊師利具大悲者、願わくは智慧を以て我に清浄の諸の菩薩の法を授けたまえ。
 弥勒菩薩勝大慈日、我を憐愍するが故に亦我が菩薩の法を受くることを聴したもうべし。
 十方の諸仏、現じて我が証と為りたまえ。
 諸大菩薩各其の名を称して、是の勝大士、衆生覆護し我等を助護したまえ。
 今日方等経典を受持したてまつる。乃至失命し設い地獄に堕ちて無量の苦を受くとも、終に諸仏の正法を毀謗せじ。
 是の因縁・功徳力を以ての故に、今釈迦牟尼仏、我が和上と為りたまえ。
 文殊師利、我が阿闍梨と為りたまえ。
 当来の弥勒、願わくは我に法を授けたまえ。
 十方の諸仏、願わくは我を証知したまえ。
 大徳の諸の菩薩、願わくは我が伴と為りたまえ。
 我今大乗経典甚深の妙義に依って仏に帰依し、法に帰依し、僧に帰依すと、是の如く三たび説け。三宝に帰依したてまつること已って、次に当に自ら誓って六重の法を受くべし。
    『観普賢菩薩行法経』


それで、上記内容は、三帰依でありつつ、同時に三師拝請というべき内容である。本来、仏教に於ける受戒作法には、三師の臨席が不可欠であり、一般的には和上(戒師)・教授師・羯磨師となる。然るに、菩薩戒の場合、その授与を巡っては、何故か我々の心念上の三師に仰ぐことになる。

例えば、天台宗の祖師である荊渓湛然が編んだ『授菩薩戒儀』には、この三師を以下のように示す(引用はしないが、南岳慧思作とされる『受菩薩戒儀』でもほぼ同じ)。

 弟子〈某甲〉等、奉請す。釈迦如来応正等覚を我が和上と為す。我れ、和上に依るが故に、菩薩戒を受けることを得。慈愍なるが故に〈礼一拝〉。
 文殊菩薩を羯磨阿闍梨と為し、弥勒菩薩を教授阿闍梨と為し、一切の如来を尊証師と為し、一切の菩薩を同学等侶と為す。
    訓読は拙僧


以前から菩薩戒の三師の典拠がどこかな?と漠然とは思っていたが、今回調べて、『観普賢菩薩行法経』であると理解出来た。同経は、天台智顗などが「法華三部経」の一と定めている関係で、いわゆる「仏経」として認識されていたであろう(事実かどうかは別問題。いわゆる書誌学が成立した昨今にあっては、本経を釈尊直説と認めるのは、信念だけであろうか?)。そうなると、ここから菩薩戒に於ける三師も定まった感がある。

ところで、他にも典拠はある。以下の一節などはどうか?

我が釈迦牟尼仏を請して、当に菩薩戒の和上と為すべし。
龍種浄智尊王仏、当に浄戒阿闍梨と為すべし。
未来導師弥勒仏、当に清浄教授師と為すべし。
現在十方の両足尊、当に清浄証戒師と為すべし。
十方一切の諸菩薩、当に修学戒伴侶と為すべし。
    『大乗本生心地観経』巻3「報恩品第二之下」


2行目に出ている「龍種浄智尊王仏」とは文殊菩薩のことらしい。中国清代に編まれた註釈書には「龍種浄智尊王、即ち、文殊大士已成の仏号なり」とあって、文殊菩薩の仏陀名だとしている。とはいえ、他には見えない見解のようで、恐らくは、浄戒阿闍梨を羯磨阿闍梨と見做して、「龍種浄智尊王仏」をとにかく文殊菩薩として解釈したような印象である。

なお、曹洞宗の授戒会では、三師を以下のように定めている。

得戒本師釈迦牟尼仏
羯磨阿闍梨文殊菩薩
教授阿闍梨弥勒菩薩


よって、先に挙げた文献などを受けていることは明らかである。それでは、いつ頃から採用されたかについてだが、曹洞宗で現存する授戒会作法として古い方になる指月慧印禅師『開戒会焼香侍者指揮』には残念ながら該当する記述が無いようだ。しかし、その後は確実に採用されているため、どこかの段階では採用されたものだろう。

こういう当たり前と思っていることでも、その都度勉強し直す必要があると改めて認識した次第である。

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