それで、ちょっと調べてみた。
繰り返しになるが、山内の伽藍としては観音堂（清水寺からの御分霊という伝承がある子安観音）は、本堂や庫裏とは別に設置されてはいるが、その内部にあるのは観音像2体と、観音堂を建てる際の寄進者の位牌くらいである。本堂を見てみても、当山は本尊が観音菩薩なのであるが、その後方両脇に達磨尊者や招宝七郎大権修利菩薩が安置されており、また、別格として不動明王の古像がある。しかし、これらは鎮守神ではない。
今回調べたところ、拙寺には古い回向帳（『早朝大回向』文久2年［1862］8月書写）が残されている。拙寺は歴代に、大本山總持寺に輪番住職で上った住職がいるので、この回向帳もおそらくは『瑩山清規』の影響を受けた内容となっているのだろう。それは、回向文の中に、古い唐音の読み方がルビで振られているためである。
そこで、本書に収録されている「鎮守諷経」からは、以下の通りの神明の名称が確認された。
・当山鎮守仏法大統領白山妙理大権現
・龍天護法善神
・伊勢大神宮
・八幡大菩薩
・春日大明神
・大聖不動明王
・北野天満大自在天神
・秋葉山権現
・三宝大荒神
・金毘羅山大権現
・当国一宮塩竃六社大明神
・竹駒稲荷大明神
・金華山大弁財尊天
・東方薬師瑠璃光如来
・湯殿山月山羽黒山大権現
・熊野山大権現
・山王大権現
・愛宕山大権現
・福乙満虚空蔵大菩薩
・観世音菩薩
・当村之鎮守御嶽山蔵王権現
以上である。なお、最後の「御嶽山（みたけやま）」は、拙寺がある地元の山名で、長野県・岐阜県にまたがるいわゆるの「御嶽山（おんたけさん）」のことではない（まぁ、御嶽山の影響で名前が付いたことまでは否定しない）。それで、この鎮守諷経は、『般若心経』と『消災呪』のみで行うものであるが、最初に回向する対象として、やはり当山の鎮守が「白山権現」であることを示している。
こうなると、最早、当山では江戸時代末期には既に、白山権現を鎮守としていたことが分かるのである。なお、この回向帳は写本であるので、その前も同様だったのだろう。
ところで、「鎮守諷経」について少し調べてみたのだが、『瑩山清規』には「鎮守諷経」という名称自体は出て来ないが、瑩山紹瑾禅師（1264～1325）ご自身、「白山の氏子」とまで自称（『洞谷記』）されるくらいであるから、もちろん「白山妙理大権現」を回向の対象とした諷経は行われている。そして、中世には「鎮守諷経」という名称が見られる清規も編集されるようになる。ただし、その段階では寺院によって日付が異なるとだけ示した。
それから、江戸時代の面山瑞方禅師『洞上僧堂清規行法鈔』巻2「月分行法」を見ていくと、15日の項目に「鎮守諷経」が見えるが、「コノ日、山門前鎮守諷経アリ、楞厳或ハ大悲等ニテ回向」とある。回向文は以下の通りである。
鎮守 神功浩浩、聖徳昭昭、凡有祷祈、必蒙感応、仰冀聖聡、俯垂昭鑑、山門毎遇斯辰、合山清衆、粛詣霊詣祠諷誦、〈経号〉、所集殊勲回向、当山鎮守、〈某神〉、伊勢太神宮、白山妙理大権現、稲荷大明神、当国〈宗廟某神〉、一切護法、龍天善神、福徳無辺、増加威光、所冀、山門繁栄、法輪常転無礙、国家安泰、皇図鞏固不傾、三宝増光輝、四民弥豊富。
こちらでは、当然ではあるが、鎮守は各寺院に祀られている神の名前を唱えるわけで、「某神」となっている。そして、問題の、白山妙理大権現は文中に入ってしまっている。しかし、これからすれば、拙寺はやはり、「某神」のところで、白山権現を唱えているということは、鎮守で間違いなかったのか。
こうなると、白山権現の位牌くらいは寺内のどこかに安置しておいた方が良さそうだ。それとも、まだ発見できていないけど、どこかにあるのかな？拙寺は、現在の名前になったと推定される江戸時代初期から、一度も火災には遭っていないとされるので、神像なり、位牌なりがもし存在していたとすれば焼失はしていないはずだが、この辺は当山住職・檀信徒の皆さまと、今後の安置について検討したいところである。
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