つらつら日暮らし

諦忍律師『盆供施餓鬼問弁』を学ぶ3(令和4年度八月盆⑤)

今年の盂蘭盆会に関する記事は、江戸時代中期に活動した真言宗系の学僧・諦忍妙竜律師(1705~1786)の『盆供施餓鬼問弁』(明和2年[1765]版)を学んでみたい。なお、この文献については、当方も版本を持っていて、それを参照しつつ記事を書いてみたいと思っている。

〇問、法苑珠林に大盆浄土経と云を引て仏在世広大無辺の盆供の事を明せり、然るに大蔵目録を捜れども此経なし、如何。
 答、此は是偽経なり、道世誤て引のみ、大凡そ盆供の事は世流布の盂蘭盆経より外は、一切依用すべからず。
    『盆供施餓鬼問弁』1丁裏、カナをかなにするなど見易く改める


こちらだが、実際に典拠となる『大盆浄土経』から引かれたとされる文章を見てもらった方が早いと思う。

 問うて曰わく、七月十五日、既に開道俗の盆を造りて献供することを開く。未だ知らず、宝盆を造りて種種の雑珍を仏に献ずることを得るや、不を以てするや。
 答えて曰わく、並びに得たり。若しくは小盆報恩経に依れば、略して宝物無し。大盆浄土経に依れば、即ち有るが故に。十六国王聞仏の目連の母を救いて三劫餓鬼の苦を脱して人道中に生まれて母子相見することを説くを聞く。時に瓶沙王、即ち蔵臣に勅して、為吾が為に盆を造る。蔵臣、勅を奉じて、即ち五百金盆、五百銀盆、五百瑠璃盆、五百玻璃盆、五百瑪瑙盆、五百珊瑚盆、五百琥珀盆を以て、各各、百一味の飲食を盛満す。事事、法の如し。将来して仏及び僧に献ず。此に准じて定めて得。
    『法苑珠林』巻62「祭祠篇第六十九・献仏部」


このように、『大盆浄土経』という経典について引用し、その中で、瓶沙王が蔵臣に勅して、金や銀などの盆をそれぞれ500器作らせたことなどを示している。このような引用文があると、さも『大盆浄土経』という経典があるように思えてしまうが、実は、『法苑珠林』を除いて、引用例などが無い。

つまり、どういった経典であるのか不明である。

そこで、先の通り、『盆供施餓鬼問弁』では、「大蔵目録」を見てみたけれども、該当する経典が無いと指摘しており、それに対して、諦忍律師はこの経典は偽経であるし、盆供養については『盂蘭盆経』に依拠すべきだとしているのである。そこで、『法苑珠林』と同時代に成立した『大唐内典録』(道宣編)を見ていくと、以下の記述がある。

盂蘭盆経〈一紙又別本五紙云浄土盂蘭盆経未知所出〉
灌臘経〈二紙一名般泥洹後四輩灌臘経〉
報恩奉盆経〈二紙上三経同本異出〉


だいたい、この3つの経典が、ほぼ同じ『盂蘭盆経』及びその異訳として位置付けられている。それから、『浄土盂蘭盆経』というのも名前が出ているのだが、上記の段階で既に、「未だ出る所を知らず」とある通りで、詳細は不明らしい。そして、先に挙げた『大盆浄土経』という経典との関係は、全く分からない。

なお、『法苑珠林』で『大盆浄土経』から引用されたという文章は、他では見られないものであるから気にはなるのだが、そうであるが故に、偽経として疑われるのは仕方ないところである。また、『盂蘭盆経』には、上記の通り異訳もあるので、【盂蘭盆会に因んだ学び(令和4年度版3)】で見ていただければと思う。

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