つらつら日暮らし

円照上人による東大寺戒壇院復興について

東大寺には鑑真和上によって、大仏殿前で受戒が行われた後、その時に用いた土を運んで大仏殿の西側に戒壇院(戒壇堂)が建てられた。しかし、この時の戒壇院は治承4年(1180)12月に平家による南都焼き討ちの際に全焼した。しかし、建久8年(1197)に重源上人によって戒壇院が再建されている。そこで、鎌倉時代には戒壇院が建物としては存在したが、その内容を含めて考えてみると、円照上人(1221~1277)による復興がなければならなかったらしい。

そこで、今日はその時の記事について、学んでおきたい。

円照和上、戒壇を興隆して律法を弘通す。講敷して倦まず、門輩数有りて、倶に教宗を提ぐ。
    凝然大徳『律宗綱要』下巻、『大正蔵』巻74所収


このように、円照が「戒壇」を興隆させ、しかも良く律法を講義して、多くの門人を育てたという。ところで、ここだけでは、まだ少し分かりにくいかもしれない。よって、以下の記事も見ておきたい。

于時、建長三年辛亥、照師の年三十一、四月安居已前に海龍王寺より東大寺戒壇院に移住す。寺院を紹隆して、僧宝を興行す。
    凝然大徳『東大寺円照上人行状』上巻


ここから、円照上人が戒壇院に住したのは建長3年(1251)であったことが分かる。海龍王寺とは、現在の奈良市内にあり、寺内の五重小塔は国宝に選ばれるなどしている古刹である。そして上記の記述からも、やはり円照上人が戒壇院を興隆させて、僧侶たちを教育した様子が分かる。ところで、何故円照上人の伝記を、凝然大徳が書いているかというと、凝然にとって律学の師匠が円照だからである。それどころか、円照上人の遷化直前まで看病し、更に円照の後を襲って戒壇院の長老に就任したのであった。

個人的には、こういう時に円照がどのような指導を行い、思想を伝えていたかが気になるが、その辺は凝然大徳が次のように伝えている。

照公、海龍王寺に住し、律を習うこと懈らず、戒を学び勇有り、菩薩戒宗巨細を究達す。彼の寺、証学大徳有り、是れ一方の律匠なり。恒に律部を講じ、〈中略〉間に照公、席に在りて久しく聴学す。公、衆の為に四分律を講じ、本疏に至りては一家に局らず、然も震旦古来の四分律、まさに二十家を解す。日域に伝わるは、智首・法礪・懐素の三家、現に世に行われ、定賓律師、唯だ礪の疏を釈するのみ、講師、衆、三家の疏に於いて各おの楽う所に隨いて聴き、律文を料簡す。照公、持する所は即ち其の一なり。西大寺叡尊上人、時に彼の寺に於いて、菩薩戒宗要等章を講ず。照公、席に就いて大いに意を談じ致る。
    前掲同著


ここから、円照上人が学んでいたのは菩薩戒も『四分律』の諸解釈についても、かなり学んでいたことが分かる。つまり、鑑真和上などが伝えた律学を、鎌倉時代に伝えていた人であったといえよう。しかも、上記には引用しなかったが、良忠から華厳などを学んだともいうし、覚盛からは戒律を学んだという。

その点については、以下の指摘もある。

覚盛上人、招提寺に住し、大和尚の戒律の古跡を興す。終南山の三大律部を講ずること首尾一遍なり。余の諸小部、大小の戒律、宜しきに随いて開敷す。受戒聴律のもの四方より来集す。〈中略〉円照・証玄・慈済等、是の如きの諸徳、仏法の良匠にして、三学・二蔵・顕密・相性・化制・内外・教観の両門を、応ずるに随いて究達し、宜しきに任せて弘持す。寔に是れ釈門の彎鳳、仏宗の龍象、各おの一方を化して、世に軌模なり。並びに覚盛和上に従いて三聚菩薩大戒を受学す。
    『律宗綱要』下巻


以上のように、円照上人は覚盛上人から菩薩戒を学び、特に三聚浄戒を受けたという。ところで、覚盛上人は寛元2年(1244)に泉州家原寺で三聚浄戒の別受授戒を初めて行ったというのが、これはその時のものだったのだろうか。なお、円照上人には『無二発心成仏論』という著作があるようだが、タイトルから独断する限り直接戒学に関わるとも思えないので、これ以上の様子は分からない。

ただし、とにかく勉強不足の当方が思う以上に、当時の南都では律が学ばれていたことが分かった。

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