養生訓の後記
右に記した所は、古人の言葉を容易な内容に変え、古人の意を受けて、押し広めたものである。また、先輩に聞いたことも多い。自ら試して、結果が出たことは、臆説であっても記した。これこそが養生の大意である。
その条目で詳しいことは説き尽くすことが難しい。保養の道に志がある人は、多くの古人の書を読んで知るべきである。(しかし)大意が通じても、その条目の詳細を理解しなければ、その道を尽くしにくい。
愚生(益軒の自称)は、昔若い頃に書を読んでみて、群書の中から、養生の術を説く古語を集めて、門客に授け、その内容の分類を行った。これを名づけて『頤生輯要』という。養生に志がある人は、その内容を考えて見るべきである。ここに記したものは、その要を採ったものである。
八十四翁 貝原篤信書
正徳三〈癸巳〉年正月吉日
石川謙校訂『養生訓・和俗童子訓』岩波文庫・174頁、拙僧ヘタレ訳
以上のことから、益軒先生の『養生訓』がどのようにして成り立ったのかが理解出来ます。つまり、あくまでも古人の言葉を良く学びつつ、指導を受けた先輩の見解も織り交ぜ、そして自ら試すことで、その言葉の正しい様子を実践的に定めたということになるのでしょう。だからこそ、「臆説(仮説のこと)」であっても堂々と記し、養生の大意としたのです。
ただし、本書はあくまでも大意であって、詳細については古人の書を読んで自ら学ぶべきであるとしています。この辺は本当にそう思います。いくら大意だけを知っていても、詳細を知らないと、大意すらも活用できないことが多くあります。拙僧どもであれば、やはり口伝や論文などで、祖師方の教えの大意を知ったとしても、詳細はやはり、祖師自らの文献などに当たって、直接にその言葉を理解しなくてはなりません。
それから、益軒先生が若い頃から書を読み、その中から養生に関する言葉を集めたものに、『頤生輯要』というものがあるようです。とりあえずネットで調べてみたのですが、なんとも便利な時代になったと思いました。全文を閲覧可能です。
・『頤生輯要』全5巻(国立国会図書館デジタルコレクション)
・『頤生輯要』全5巻(京都大学貴重資料デジタルアーカイブ)
奥書などを見てみましたが、リンク先の文献は、益軒先生の高弟で、後に福岡藩お抱えの儒学者(侍講)となった竹田定直(1661~1745)が編集したようで、時代が下った文政12年(1829)に刊行されたものとなっているようです。こちらは、表題こそ『頤生輯要』となっておりますが、内題は『益軒先生養生論』となっており、いわゆる『養生訓』と対をなす文献であることが分かります。
個人的には、益軒先生の教えを受けた竹田定直もまた、江戸時代中期にかけての人であるのに、よく85歳の長命を保ったものだと思います。実際に師の教えを活用したのでしょうか。
ということで、機会があれば『頤生輯要』を読んでみても良いのですが、参考書もないのでかなり大変そうです。よって、読むとしてもしばらくの時間をいただくことになりそうです。とりあえず、来月からの新連載は、キリスト教関係の文献で考えておりますので、そちらをお待ちください。
この記事を評価してくださった方は、にほんブログ村 哲学・思想ブログを1日1回押していただければ幸いです(反応が無い方は[Ctrl]キーを押しながら再度押していただければ幸いです)。
これまでの連載は【ブログ内リンク】からどうぞ。
コメント一覧
最近の「哲学・思想・生き方」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2016年
人気記事