つらつら日暮らし

ギャーテーギャーテーな話(1)

今日で、今年の春彼岸も後半突入である。このブログをご覧戴いた人は、お寺参り・お墓参りをしていただき、十分な善行と、その功徳を積んでいただいたと思うが、どうだろうか?ということで、今日は彼岸会に相応しい(?)お話しである。

我々が日夜読誦する『般若心経』の末尾には陀羅尼が入っている。陀羅尼といえば、密教だと早合点する人は、空思想を説く般若経典に陀羅尼が入っていることを驚くのかもしれないが、実際には驚くほどでも無い。例えば、鳩摩羅什訳の『大品般若経』では、「大明品」「観持品」などで、「摩訶般若波羅蜜」を「明呪」であるとして、その陀羅尼的功徳を説く。

 復た次に憍尸迦よ。是の善男子・善女人が、是の深般若波羅蜜を聞き、受持し、親近し、読誦し、正憶念して、薩婆若の心を離れざれば、若しくは毒薬の熏を以てするも、若しくは蠱道を以てするも、若しくは火坑を以てするも、若しくは深水を以てするも、若しくは刀殺せんと欲するも、若しくは其の毒を与えんとするも、是の如き衆悪、皆な傷つけること能わず。何を以ての故にならば、是の般若波羅蜜は是れ大明呪、是れ無上明呪なればなり。
 若し善男子・善女人が是の明呪の中に於いて学べば、自ら身を悩まさず、亦た他をも悩まさず、亦た両つながら悩まさず。何を以ての故にとならば、是の善男子・善女人は、我を得ず、衆生を得ず、寿命を得ず、乃至、知者、見者、皆な得べからず。色・受・想・行・識を得ず、乃至、一切種智も亦た得べからざればなり。得べからざるを以ての故に、自ら身を悩まさず、亦た他を悩まさず、亦た両つながら悩まさず。
 是の大明呪を学ぶが故に、阿耨多羅三藐三菩提を得て、一切衆生の心を観じ、意に随って法を説く。何を以ての故に、過去の諸仏も是の大明呪を学びて、阿耨多羅三藐三菩提を得たり。当来の諸仏も是の大明呪を学びて、当に阿耨多羅三藐三菩提を得べし、今現在の諸仏も是の大明呪を学びて阿耨多羅三藐三菩提を得ればなり。
    『大品般若経』「大明品」


そういえば、何故、「ギャーテーギャーテー」の話をしようと思ったかといえば、彼岸会に関連した講話を依頼されていて、その際に今年は、『般若心経』を選んだためである。だが、この『般若心経』の末尾には陀羅尼が付されていて、その訳だが、そもそも訳すべきではないという見解もあるが、付された場合には、「行った者よ 行った者よ 彼岸に行った者よ 全て彼岸に行った者よ 悟った者よ、幸いなれ」(平井俊栄先生『般若経』ちくま学芸文庫)というような場合もある。よって、「彼岸」とあるので用いたのであった。

然るに、玄奘訳を始めとして、『般若心経』には「ギャーテーギャーテー」の陀羅尼が入っているけれども、『大品般若経』には、どうも入っていないらしい。確かに、上記に引いた一文を見ても、「明呪」ということについては説かれているけれども、陀羅尼自体は出ていない。よって、今日の記事はあくまでも周辺的内容だといえる。そういえば、一応、鳩摩羅什訳『摩訶般若波羅蜜大明呪経』にも、「ギャーテーギャーテー」はあるので、かつて【『般若心経』と『大品般若経』について】という記事でも指摘したが、『般若心経』と『大品般若経』とについて、両者部分的な関係はあるが、『般若心経』はそれとして別個に作られ流布し、翻訳されたということなのだろう。

ところで、その『心経』には、「般若波羅蜜は是れ大明呪なり」という一文がある。この真意については、『心経』本文からは分からなかったけれども、『大品般若経』「大明品」を読むと理解が進むことになる(同品は、それを目的とした内容である)。そして、平井先生はこの「明呪」を「智慧の力」と訳している。つまり、「仏陀の智慧の完成」である「般若波羅蜜」の、特に「功徳力」の部分を強調したのが、「明呪」だという解釈になっているのだろう。そうなると、この場合「般若波羅蜜」自体が、一つの信仰・帰依の対象としても扱われていることが分かる。

確かに、先に挙げた一文を見ても、「明呪」の中で学べば、余計な懊悩を滅することが可能であり、更には、三世の諸仏が阿耨多羅三藐三菩提=無上菩提を得たのは、この「大明呪」を学んだからだという話も、あくまでも無内容の「智慧」ではなくて、「力」そのものを学んだからだということになるだろう。つまりは、『般若経』で「呪」が説かれたのは、「力」を表現するためであると出来るのだが、その力は完全に現世利益まで含んだものとなる。その様子がとても興味深いものである。

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