ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

ポアンカレ予想とドグラ・マグラ

2010年12月24日 | 思想・学問

 単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である。

 
有名なポアンカレ予想です。
 1904年にアンリ・ポアンカレが予想して以来、多くの数学者がこれを証明しようと躍起になってきました。
 なかにはのめり込みすぎて精神に変調をきたした数学者もいるとか。
 怖ろしいことですね。
 この謎を解いたのが、ロシアの数学者グリゴリ・ペレリマン(41)。
 その功績により、数学界最高の栄誉とされるフィールズ賞の受賞が決まりましたが、彼は受賞を拒否し、数学の表舞台から消え去ってしまいました。
 彼は何を見てしまったんでしょうね。
 人間の能力を超える業績をのこした時、そこからこの世で見てはいけないものが見えてしまい、隠居したり、自殺したり、精神病に成る人がいますね。
 彼もその類だったのでしょうか。
 解こうとすると気が狂うのがポアンカレ予想なら、読めば気が狂うと言われたのが夢野久作「ドグラ・マグラ」ですね
 謎が謎を呼び、ぐるっと回って元に戻る、不思議な構成で、私は楽しみました。

 私は根っからの文系人間で、数学などは大嫌いですが、数式で会話する数学者同士を見ると、格好いいなあ、と憧れます。
 国文学の世界で、著名な数学教師といえば、なんといっても「坊っちゃん」ですね。
 東京から松山の中学に来た坊っちゃんが大暴れする痛快小説。
 しかし生徒に質問されて答えられず、「明日教えてやる」なんて、坊っちゃん、意外と数学苦手なんじゃ?

 文学者は数学が苦手な人が多いですが、それを恥じて、芥川龍之介が後輩にはっぱをかけています。

 文芸家たらんとする中学生は、須らく数学を学ぶ事勤勉なるべし。然らずんばその頭脳常に理路を辿ること迂にして、到底一人前の文芸家にならざるものと覚悟せよ(「文芸家たらんとする諸君に与ふ」)。

 自分が数学をあまり勉強しなかったために苦労しているから、諸君は頑張ってね、ということでしょう。

 私も遅ればせながら、数学や物理など理系の学問を学んでみようかな、と最近よく思います。
 今まで世の中の半分しか見ていなかったような気がするのですよ。
 だけど40の手習い、ちょっと無理かな。

ポアンカレ予想―世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者
志摩 亜希子,志摩 亜希子,永瀬 輝男,永瀬 輝男,坂井 星之,塩原 通緒,鍛原 多惠子,松井 信彦
早川書房
坊っちゃん (新潮文庫)
夏目 漱石
新潮社
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)
夢野 久作
角川書店
ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)
夢野 久作
角川書店

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全体

2010年12月24日 | 思想・学問

 詩人、江南文三は戦時中、「法華経」をわかりやすい現代語に訳した「日本語の法華経」という書物を発表しています。
 噛んで含めるようなわかりやすい訳で、これなら誰でも「法華経」を簡単に勉強できるのではないでしょうか。

 さて、その前文に、第二次世界大戦(江南文三は大東亜戦争と記しています)の意義について書かれた一文があります。
 それは今次大戦が全体主義国家と個人主義国家との戦争である、と。
 全体主義は社会全体のことを考え、個人が犠牲になるのもいとわない生き方で、個人主義は自分さえよければよく、社会全体のことなどどうでもよい、という生き方なので、全体主義のほうが上等であり、必ず全体主義側が勝利しなければならない、と説いています。

 これを読んだとき、びっくりしましたね。
 私が歴史を学んだのは、米ソ冷戦時代。
 全体主義を称揚するような言説に触れたことはありませんでした。

 しかしおそらく、全体主義がよい、というのは多くの国民に支持されていたのでしょう。
 だからこそ政治家でも政治学者でもない詩人が、宗教書の前文に全体主義の勝利を望む一文を寄せたのでしょう。

 そう考えてみると、現在ある制度の中では比較的マシとされている自由民主主義が、未来永劫自由主義社会で持て囃されるとは、到底思えません。
 時代とともに価値観も変わります。
 現在の価値観では、信長も頼朝も中大兄皇子もみな血なまぐさい犯罪者です。
 しかしだからといって、彼らを非難することはありません。
 彼らは時代のスタンダードに従って生きたからです。

 日本の朝鮮・中国への侵略も、アメリカによる日本への無差別爆撃も、明らかな犯罪ですが、それを今の常識から責めても仕方ありません。
 彼我ともに、時代のスタンダードに従って、植民地や地下資源の獲得競争を行ったに過ぎません。

 自由民主主義の次に来るものは何でしょうね。
 新自由主義はブッシュJrと小泉元総理の引退とともに勢いを失いました。
 それでは北欧型の社会民主主義か。
 それをするには日本はいささか図体がでかいように思います。

 結局まだわからない、としか言いようがないですね。
 日本に自由民主主義が定着してまだ60年あまり。
 まだまだ自由民主主義の時代が続くでしょう。
 今時代のスタンダードは、戦争を避けながら利害調整をすることにあります。
 地域紛争や内乱は今も頻発していますが、軍事大国同士がガチンコで戦うことは、ちょっと想像できません。
 それならば外交上手になって、いざというときの国防力も高めつつ、毎日の面倒な交渉事に当たるほかありますまい。

 私たちは絶対的に正しい政治体制など存在しないことを肝に銘じて、比較的マシな民主主義を守っていく他ありますまい。

日本語の法華経
江南 文三
大蔵出版


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