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誰の上にも青い空

弟よ・久しぶりの面会(2022年7月下旬)&くりはま花の国(神奈川県横須賀市)

久しぶりに弟へ会いに行ってきた。

10分以内・2名以内・平日が条件。

各病棟1組ずつの順番。


今回も一人で行った来た。


ボクが病院に着いたときは、先の面会者が来ていて

その方が終わるのを待ってから、病棟内に入ることが出来た。




2部屋あった面会室は一つ閉鎖されていた。

弟が看護師さんに連れられてくる。


いつものことだけど、落ち着きが無いようだ。

キョロキョロしている。

幻聴が聞こえているのだろう。





ボク「ひさしぶり!」

弟「うーん」

ボク「元気だった?」

弟「げ...ん...き...でし...た」


ボク「兄ちゃん以外の声が聞こているの?」

弟「うーん」

ボク「その声は、一日中いつでも聞こえているの?」

弟「うーん」


ボク「どんな感じの声...怖い声?楽しい声?」

弟「たの...し...い...こ...え」

ボク「そうなんだぁ~、楽しい声が聞こえるのかぁ...」

弟「うーん」


ボク「写真撮るから、テーブルに手を置いて」


※ボクの手、弟の手(左手でカメラ持って、上から撮影するの難しかったぁ!)


弟の身長は176cmでボクと同じ。

だけど、体重はボクより10キロ以上軽い。

弟のBMI=17未満。

るい痩(病的な痩せ)のレベル。


子どもの頃からやせっぽちだった。

か細い手は昔からずっと変わらない。


それに比べて自分の手をこうして観ると

ボクの手はハンドボールや登山をする人の手だなぁ...って思う。

手のひらが分厚くデカイ。

ハンドボールを掴んでシュートするにはいいサイズ。

手の甲は山の紫外線を長年浴びてシミやホクロだらけ(^^)/



※神奈川県久里浜港~千葉県金谷港を結ぶフェリー(対岸に見えるのは房総半島)


弟と手の写真を撮ることが出来た(^_^)


だけど落ち着きが治まらずに

わずか3分ほどで、弟は面会室から出て行ってしまった。


元気でいてくれるだけで、兄ちゃんは嬉しい(^^)v

元気=健康、とは言えないけれど。


弟の顔つきはいつも幼く感じてしまう。

小学生の頃を思い出してしまうくらいだ。

会話も、小さな子と話をしているかのよう。

『いつまで経っても、かわいいヤツめ...』と思えてくる(*^_^*)


弟が入院してからちょうど20年が経過した。

(2002年8月から入院、もう21年目が始まる)

弟は『人生の約4割』を精神科の閉鎖病棟で生きている。

今後も、この割合は大きくなり続けることだろう。


この20年間、外出をしたことがないことを考えると胸が痛む。


いつも思うのは...

ずっと季節感のない空間にいる弟に、外の景色を見せてあげたい。

今年は猛烈に暑い夏であることを体感させたい...。





面会を終えて数日後に...

神奈川県横須賀市にある《くりはま花の国》へ初めて行ってみた。


最寄駅から20分以上歩くし

起伏の大きい丘にある公園なので

上り坂が多く

猛暑の夏に行くのは厳しい場所だった。

(いや~マジで厳しいッス)


炎天下で山登りをしているかのようだ。

歩く道は舗装されたアスファルト。

これが余計に暑くさせているのかな。


真夏に来る人はとても少なくて空いている。

元気な子どもを連れた親子か

ハードなウォーキングを楽しんでいる方ぐらい。

(トレイルランニングと呼べそう)


ここの良さは丘の上から海が見えて爽快なこと。

そして無料であること(^^♪





炎天下、水分補給無しでは倒れちゃう...


行ってみると分かるのだけど

《花の国》と呼ぶには、敷地のほとんどは森と丘で

花の種類が少ないように(?)感じてしまった((+_+))

真夏だからであろうか???

季節を過ぎた紫陽花は多かったように思える...





この公園、丘の途中で突然ゴジラが見えてくる。

ゴジラが立つ背後には

子どもが花で飽きないようにするためか(?)遊具が設置してある。

この日、遊んでいる子は誰もいなかった。





ゴジラの足の間の階段を登ると

尻尾側に降りる滑り台になっている。


花がテーマの公園なのに

なんとも不釣り合いなゴジラの登場は

汗だくのボクを和ませてくれる(#^.^#)






本来ならば、丘の上や下まで運んでくれる

園内バス(汽車のデザイン)に乗れるはずなのに...

来園者が少なすぎるためか、運行休止となっていた(>_<)


ボクは奥の方にある入り口(駅から徒歩30分)から登り始め

起伏のある丘を1時間ほどかけて歩き...

公園内を縦走して正面入り口(駅から徒歩20分)に降りた。


ここは体力のある若者向け?→実際に若者は皆無。

健康じゃないと歩き回れない!→年配者も皆無。

来園者にはキツ過ぎ~(爆)

バリアフリーの逆を行っている気が???


※日陰の休憩場所は正面入り口だけでした(汗)途中のカフェも休業中(涙)

道の途中に所々ベンチと自販機があり、飲み物を買えるのが救い。


久しぶりの山歩き(丘歩き?)だったため、翌日は足が筋肉痛になった。

ふくらはぎや腿も痛い....こんなのいつ以来??

5年前は北アルプスの槍ヶ岳や白馬岳を登っていたのに...(/o\)


日ごろの運動不足を感じた花の旅でした(^_^;)


手の写真以外は、全て『くりはま花の国』で撮ったものです(^^)/


コメント一覧

tochika
@sukekaku5th 桐花さん、コメントありがとうございます。
コロナが蔓延していますで、今のうちに会っておかなくては!と思い先月末に面会に行ってきました。
ぎゅーっと...とても光栄です(#^.^#)

弟は落ち着かない程、笑顔になる特徴があります。幻聴は笑いが出るような事が聞こえているようです。なんらかのギャグなのかどうか...?不機嫌でいるよりはずっといいですし、笑顔を観ると安心します。

桐花さんは「くりはま花の国」に行ったことがあるのですね。花よりもゴジラの印象が強烈に残っています(^^♪

広大ではありませんでしたが、ひまわり畑があって夏らしさを感じました。真夏には歩くのがホント厳しかったです。涼しい季節に行くべきなのかな...って感じました(^^)/
sukekaku5th
とちかさん、こんにちは。
弟さんに会えてよかったですね。
ふたりともまとめてぎゅーってしたくなりました。
弟さんにだけ聞こえる声が、怖い声でないことに救われた思いがしました。
久里浜のゴジラは迫力で勇気をくれます。でも真夏に行ってことはなかった気がします。
熱中症に気をつけましょうね~
__桐花
tochika
@amihana6688 りりさん、コメントありがとうございます。
面会出来て良かったです。
弟を連れて来るまで、そこそこ待ちましたので嫌がっていたのかも知れません。

手の写真、応じてくれたこと...とても嬉しかったです。
弟が余りにも痩せすぎているので、私の手が肥満に感じます(>_<)

私と弟の仲は、昔から変わらず『良い』と一方的(?)に思っています。ずっと子どものままの弟は、当時と変わらずカワイイと言う表現になってしまいます。

僅か3分でしたがが、会いに行って良かったと思える貴重な時間でした。
弟も喜んでくれていると信じています(^_^)
tochika
AKOさん、コメントありがとうございます。
精神科病院の閉鎖病棟、入院している患者さんは殆ど顔ぶれが変わりませんね。AKOさんが学生さんの頃と同じです。他の患者さんの入退院を感じたことがありません。ここが慢性化(重症化)した患者さんにとっては生活の場となり、年を重ねていく唯一の場所となっているのが現実です。

弟の幻聴は『楽しい声』...家に引きこもっていた頃から、よく笑っていました。何か思わず吹き出してしまうギャグ(?)が聞こえているだと考えるようにしています。

幻聴のために叫んだり怒ったりすることはありませんでした。しかし、食事やお風呂を促したりすると《幻聴との会話を邪魔された》と思うのか、両親に激怒して暴力を振るうことがありました。

解放病棟は「社会性が保たれている」患者さんだけで、一時的に入院されている若い方が多く感じます。お花写真お褒め頂き光栄です。

技師が体験した恐怖話をおまけに書きました。
えーーっ!AKOさん、ほん怖に投稿し採用された経験があるのですね(^^)/
スゴイ!かなりの恐怖体験だったのですね??
フジテレビからの10000円のカード、家宝になりますね。
幽霊さんに感謝(?)→もう会いたくないですよね(#^.^#)
amihana6688
とちかさんこんばんは
弟さんに面会出来て良かったですね
並んだ手の大きさは随分違っていましたが、仲良し兄弟ですね。
わずか3分でもお二人に良い時間が流れていたように思いました。
AKO
おまけ!気がついてコメした後に読みました。
とちかさん技師さんだったのですね!
私もよく変な経験はしましたが忙しくて。
ほん怖に投書して採用されたことが
あります!!
今も10000円分のカードは大切に
持ってます。
AKO
とちかさんこんばんは。
弟さんに会いに行ってきたのですね。
学生の頃、実習で精神科病院に行った事が
ありましたが面会者もほぼなく
退院も1年に2、3人という説明でした。
弟さん幻聴が楽しい声と聞いてよかったと
思いました。
怖い、悲しい声だったらどうしようと
読んでて思ってました。
私の見た病棟は解放は若い子が多く
不思議な感じでした。
閉鎖は‥。
なので、とちかさんが面会にまめに
行かれて可愛いと思うのは実は凄い
ことなんじゃないかと。
お花の写真もいつも穏やかで優しい感じです。
tochika
@j1nty0ge Snooさん、コメントありがとうございます。
コロナ禍の病院は面会禁止になっている場合が多いのですが、弟の入院している病院は多少の制限があるモノのOKでした。会えて良かったです♪

弟は子どもの頃から食は細かったですね。
それと好き嫌いが激しかったです。(特に野菜嫌い)
決まったものだけを食べるって感じです。

閉鎖病棟の患者さんは《徘徊》《暴力》《社会性の欠如》《自傷他害》など、外出させると問題を起こす可能性がありますので、ずっと同じ病棟内で暮らしています。私の弟もそのまま脱走して行方不明になりそうです。

解放病棟の患者さんは、院内外を散歩しているのを見かけます。

弟と出かけてみたいです。
海や山や花、朝焼け、星、夕焼けを見せてあげたいです。
外の空気や風に触れさせたいです。

怪談話『ほん怖』に採用されますでしょうか(笑)
再現ドラマにしたら、テレビ側でさらに怖く脚色してくれそうですね(^^♪
j1nty0ge
とちかさん
お早うございます☀️

面会ができてよかったですね☺️
ほんとに、弟さんの手首細い🥺
食が細いのかな。。

20年、外出していないとのこと
びっくりしました。
病院の人達とお散歩へ行くとかはないのでしょうか?

いつか、弟さんと一緒にお出かけできる日が来ますように🍣

とちかさんの怪談話、源二郎君と同じ意見です!
ほん怖に送ってみては…👻
病院ならではの雰囲気、怖かったです!
tochika
@uparin uparinさん、コメントありがとうございます。
弟の病院は世の中コロナが蔓延していても、面会はOKになっているので助かります。反対に父親のいるグループホームが面会禁止となってしまいました。

手の写真、気合を入れて(?)撮りました。何度か弟が手を引っ込めてしまい失敗しましたが、やっと1枚撮れました(#^.^#)
兄は弟からは手を引いてしまっていますので、私だけが会いに行っています。障害者手帳や障害者年金、市から補助金の更新手続きも私の役目となっています。

面会に誰も来ない患者さん...きっと沢山いると思います。
他の面会者に会うのは、4~5年に1度ぐらいなので今回は稀なケースです。

ウチは兄(おそらく生涯独身、会社員)、弟(生涯独身)の兄弟がいることになします。お互い、兄弟の不安って消えることがありませんね。

おまけの話、一話目の時と違って今回のは個人的にかなり怖かったので印象に残っています。源次郎は稲垣吾郎に「恐怖郵便を送れば」とか言っています。『本当にあった怖い話』と『世にも奇妙な物語』は源次郎のお気に入りで、毎回欠かさず録画して観ています(^^♪
uparin
@tochika とちかさん
弟さんに会えてよかったですね。
手のお写真にジーンときます。弟さんに聴こえる幻聴が楽しそうな声なのは救われますね。
弟さんに面会に来てくれるのは、今ではとちかさんだけなのでしょうね。他の入院患者さん、誰も面会に来ない人もいるのではないでしょうか。とちかさんは優しく責任感がありますね。

私も横浜に一人暮らしの兄がいます(生涯独身、子なし、人付き合いなし)
両親は年老いて横浜にまで行けないし、兄は10年以上帰ってこない。
親が死んでも兄は帰って来ない気がします。

おまけのお話も興味深かったです!
源次郎君の反応も可愛いです。
tochika
@sakurako62 さこさん、コメントありがとうございます。
弟と一緒の手の写真は、いつか撮ってみたいと思っていました。
私は小さい頃から弟と仲が良かったです。両親が共働きで忙しかったので、弟が赤ちゃん時代から面倒を見るのが楽しくて可愛くて...仕方が無かったです。
20年間色々ありましたが、いつ面会に行っても「オレ、もっと頑張らなくちゃ」という気持ちにさせられます。

恐怖体験話...私が悲鳴を上げるほど驚いたのは、これまでにこの一度だけです。一人っきりの夜の廊下で振り向けば透明な人間(幽霊?)がいて、着衣だけが浮いている...点滴台とともにそこにいる...再現ドラマ化したら視聴者は怖いかな???

下半身だけの幽霊を観たのですか...これは強烈ですね。

今後は怖いものを観ないで過ごせますように...♪と願っています(^_^)
Unknown
tochikaさん〰️☺️🌸
おはよう☀️🙋‍♀️❗ございます🙇

弟さんと面会されて良かったですね〰️☺️
手の写真いいですね
20年間の入院はご本人も家族も
一言では言えない大変な事と思います
tochikaさんが弟さんへの愛情は
今も昔も変わらない感じが伝わりました 次回の面会も楽しみですね😊

怖いお話し
((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
夢の中に入り混んでしまったのでしょうか、

頭がないで思い出しました❗
市民会館で何かを見ていた時
眠くなり眠りそうになった時

男性の下半身だけ歩いているのが
見えたことありました
頭もないのは怖いですよね

いつもありがとう😆💕✨ございます🙇
素敵な時間をお過ごし下さいね〰️☺️🌸
      🌸さこ
tochika
@carp1402 コイさん、コメントありがとうございます。
御祖母様が夢に出てこられたのですね。
きっとコイさんのことを可愛がってくれた御祖母様だったのだと思います。葬儀に来れなかったことで御祖母様から夢の中へ会いに着て頂けた...愛情を感じるお話です。

私の夢に出た恐怖の幽霊とは全く違って、幽霊とは呼べないような素敵な夢ですね(^^)/
Unknown
おはようございます。こないだ別のブロガーさんのコメント欄にも書きましたが私も祖母の葬儀に具合が悪くて出席できず家で寝ていると夢に祖母が出てきました。で、私の手を握ったのですが目覚めても握られた手の感触はしっかり残っていました。昼間だったので怖くはなかったです。おまけのお話に便乗させていただきました。
tochika
Leiさん、コメントありがとうございます。
弟は元気な様子でした。
一日中、幻聴や幻覚の中で暮らしているので、いつ面会に行っても落ち着きがありません。
私の声よりも、幻聴の声のほうに連れられてしまうようで会話をするのが難しいです。
3分間...とても短い時間ですが、少しだけ安心した気持ちになれます。

不思議なことに聞こえて来るのが楽しい声...これはずっと変わりないようです。発症した当初から、部屋から弟の笑い声が聞こえてきましたので。おそらく統合失調症の幻聴としては珍しい症例だと思います。一般的に幻聴は不快な声で、怒りや不安を誘う場合が多いようです。若い頃から弟は落ち着きがなくなるほど笑いが激しくなってお腹を抱えて笑っている場合もありました。この、病気の症状なのに「笑顔が見られる」ことは少しだけ救われたような気持ちになります。

閉鎖病棟に入院している患者の場合は、外出すると自傷他害行為や社会的規範を守れない方が多いので外出・外泊は禁止となっています。弟の場合コンビニなどで食べたいものをお金を払わずに持ち出してしまう可能性があります。(過去に経験済み)

Leiさん、おまけの話の後...眠れましたでしょうか(^^)/
今回の体験談は私にはあまりに怖かったので、全て具体的に覚えていて...忘れられないのです~♪
Lei
こんばんは‼️
元気な弟さんの姿が見れて良かったですね。でも、ずっと幻聴が聞こえるのは、辛いですね。でも聞こえてくる声が楽しい声なら、少し安心したでしょうか。
せっかく会えたのに、3分間だけだったのですね。それは、ちょっぴり寂しいかな。
20年にもなるのですね。その間、少しも外には出れていないのかなぁ。
外の空気に触れさせてあげたいですよね。
難しい事なのかな。

おまけの話。前回も怖かったので、ドキドキしながら読みました。今回も怖かったですよー💧寝れるかなー。
tochika
おまけです。

病院のコソコソ話。恐怖体験談...第2夜。

前回の話は冬。

今回は夏の話です。


技師5年目ぐらいの当直の夜のことです。

深夜にポケベルが鳴りました。


幽霊が出る当直室のベッドで起き上がります。

(幽霊は前回の『おまけの話』を参照してください)


当直時は上下白衣のまま眠っています。

着替える時間が無駄になるためです。

ポケベルは病院に救急車が到着する前に鳴ります。

早めに技師を呼び起こして

エックス線撮影室やCT室の準備をさせておくためです。


エックス線装置は電源を入れてすぐにエックス線を出すと

装置の寿命が短くなるために、低線量で電圧を低→高へ向かって

数十回の曝射をしておきます。


CTはウォーミングアップと、キャリブレーションと呼ばれる

《CT値を正常化させるための動作》に時間がかかります。


ポケベルが鳴ると、事務当直に内線をかけます。

事務当直から『これから交通事故による全身外傷が来ますので

エックス線とCTの準備をお願いします』

とか

『これから心筋梗塞の急患が入りますので

エックス線と※心カテの準備をお願いします』

※心カテ(心臓カテーテル検査のこと)


他に外来の急患だけではなく、病棟内で

『〇〇病棟〇〇号室で急変の患者さんがいますので

胸部と腹部の※ポータブル撮影をお願いします』

など指示を受けることになります。


※ポータブル撮影(移動式エックス線装置)を病棟へ運び

ベッド上で胸部や腹部、骨のエックス線撮影を行います。


その日は暑苦しい夜でした。

当直室から薄暗い階段を降りて

放射線科に向かいます。


夜は冷房が効いていないので

放射線科まで続く長い廊下はとても蒸し暑く

重たい湿った空気が流れています。


当時、夏の夜...

この古い病院は廊下の窓を開けっ放しにしていました。

現在では防犯上考えられませんね。

いつも大きな蛾が廊下を飛んでいます。


廊下の一番奥に人影が見えました。

どうやら入院患者さんのようで

点滴台を押しながら歩いているように見えました。


放射線科の近くに自動販売機があって

夜に清涼飲料を買いに来る入院患者さんをよく見かけます。


《あの人はジュースでも買ったのかな?背が高そう、男性かな?》

横向きに歩いていた人影はボクの方を向きました。

ボクが向かう放射線科の扉はその人影の近くにあります。


ボクは放射線科へ向かい歩きます。

向かい側から人が点滴台を押しながらボクの方向へ歩いてきました。

《あれ?こちらに向かっても救命救急センターしかないのに...》

歩けるような患者さんは救命救急センターには入院していません。


とにかく急患が来るので、放射線科の鍵を開けて

装置のスタンバイをしなくてはなりません。


いつもよりも廊下が長く感じました。

その人はゆっくりと近づいてきます。


《どうしてこちらに向かってくるの?》


その時ふと《その人のことを見てはいけない!》

そんな気持ちになりました。


その人は放射線科の扉を通過しました。

足音はありません。

右手で点滴台を押しながら近づいてきます。


《あの人を絶対に見てはいけない、顔をあわせてはいけない...》


ボクは一歩ずつ足を進めるごとに

そんな気持ちがどんどん大きくなりました。


《たぶん、あの人は〇〇のはずだ》


全ての見えるものが

スローモーションで動いているように感じました。

ボクの動きも、その人の動きも

時間の流れにブレーキがかかっているようでした。


その人はボクから見て廊下のやや右寄りを歩いてきます。

ボクは左側によけ、左下に顔をそらしながら歩いています。


《顔を見てはいけない...》


もうすぐ、すれ違う...


その瞬間、あれほど蒸し暑さを感じていたのに

鳥肌が立つくらいの冷たい空気を感じました。


すれ違おうとした瞬間、その人はこちらを向きました。

ボクは驚いて顔を見てしまったのです。

頭が無い!!

腕も足も無い!!

宙に浮いた入院着と点滴台が止まっていました。


『うわーーーっ!!!』


ボクは大声で叫びました。

あまりの恐怖に勝手に声が出ていたのです。



はっ!



自分の叫び声に我に返りました。

当直室のベッドの上で跳び起きていました。

それは...夢の中の出来事だったのです。



「ピーッ、ピーッ、ピーッ!」

ポケベルが鳴りました。

今度は本当に急患の撮影の呼び出しです。

放射線科へ行きましたが、誰にも会いませんでした。


翌朝のミーティングでは誰にも話しませんでした。

夢の話をするわけにいきません。


幽霊の夢を見て恐怖するなんて...後にも先にも、この時だけです。

その後の人生で夢に幽霊は出てきていません。


後に、別の病院で技師やスタッフに体験談を話をすると

前回の幽霊よりも、この話のほうが怖いと言われます。


それに

「幽霊の夢を見たでは無くて、夢の中に幽霊が入ってきたんだよ。

つまり、とちかさんの中に幽霊が入り込んだっていうこと。

だから怖すぎるんだよ」

そんなふうに、言われたことがあります。


息子に話したら

「その話、フジテレビの『本当にあった怖い話』に送れば!

視聴者絶対にビビるから採用されるよ」なんて言っています。


夢の中にまで入ってくる幽霊はいるのでしょうか。

何故、ボクの夢の中に入ったのでしょう...


夜の病院には、理屈ではない何か...誰か...が存在します。


ボク自身、実際に会った幽霊よりも

この夢の中の幽霊のほうが怖かったです。
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