焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ (51)
「映画館」
(当時の写真:街の資料より)
子供の頃、父さんと来た街外れの映画館
現在は取り壊されて、その跡地には大型スーパーが建っている
ここで一度、父さんと映画を観た
恐ろしい顔をした怪獣が、山の頂上から顔を覗かせていて怖かった
映画館を出ると外は凄い吹雪で、前を見ては歩けないほど
けど僕は堪えながら、父さんの後をついて行く
途中、父さんは駅前の飲み屋に寄り、
僕を横に座らせた後、周りの客に「家の息子だ」と笑った
父さんは酒を飲んでいて、
僕は、店のおばさんが握ってくれたおにぎりを頬張っていた記憶がある
そのうち父さんは酔い潰れて眠ってしまい、
店のおばさんが「ほら起きて!もう遅いから。坊やが可哀そうでしょ!」
と叱りながら起こしていた
だらしなくテーブルに顔を突っ伏し、何度も肩を揺すられていた父
その場面を、今も時々思い出す
今、僕の隣には、
妻と小さな子供たちが、いつものように静かな寝息を立てている
僕は何故か寝付けず、何気に部屋の中を見回した
一瞬、窓際の壁に掛けてあったジャンバーが、ふっと横に揺れたように見えた
ベッドから起き上がり窓の外を見ると、家の向かいの空き地に、
あの壊されたはずの映画館が立っていて、
ちょうどその前を、あの日の父と僕が歩いて行くところだった
あの日のように、そこは吹雪いている
降りしきる雪が、街灯の周りを暴れるように舞っている
防寒着のフードを目深に被り、父の後をついて行く自分に、
思わず僕は「坊や、転ぶなよ」と2階の部屋の窓から呟いた
ふとその時、
「大丈夫かあ!あったかくしてるかあ?」
そんな父の声が、どこからか聞こえた気がした
星空Cafe、それじゃまた。
皆さん、お元気で!
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不幸な事に自分の親父は「あたり前の日常」を守ることは出来なかった。それが親父にとって、どれだけ無念だったか、自分が親父になって分かったような気がします。
親父との楽しい思い出はあまり記憶にないですが、家族のために必死だった親父の背中だけは忘れていません。
さとしさんの親父さんの背中もきっと同じだったと思います。
先はそう長くないと思いますが、
息子や娘たちに残る父の思い出と言ったら、どんなものなんでしょう。
そう考えたら慌てます。むはは。
けど、今さら慌てても仕方ないから、それは考えない事にします。笑
ただひとつ確かなことは、
父から子、同じ血が流れていくという事でしょうか。