快読日記

日々の読書記録

「わたしは妊婦」大森兄弟

2013年05月24日 | 日本の小説
《5/20読了 河出書房新社 2013年刊 【日本の小説 短編集】 おおもり・きょうだい 兄(1975~) 弟(1976~)》

収録作品:わたしは妊婦/ベランダ渡り

「あなたは妊婦なんだから」
「あなたは女なんだから」
「男なんだから」
「老人なんだから」
「障害者なんだから」
「社会人なんだから」…というカテゴライズも、される側にしたら一種の暴力かも。
決めつける方がその悪意を自覚してない(むしろ善意くらいに思ってる)から余計に始末が悪い。
そういう苛立ちがグラグラと迫ってくる感じです。
また、「夫」や「あの子」といった主人公の周囲の人間の描き方がすごくて、大森兄弟の人を見る目の鋭さ、深さ、一切のごまかしを拒否する冷徹さにゾクゾクします。
この「夫」ってのが本当にイライラする男で、読んでると、ああ!こういうやついるいる~!っていうムカつきが尋常じゃないんですが、だけどそれを書いてるのが男性だというのがまたブラボー!なんです、大森兄弟恐るべし。
さらに「あの子」が、自分の不安を他人なすりつけるためにせっせとよこす手紙がリアル。怖すぎる。
かねがねただ者ではないとは思っていましたが、こういう見えづらいけど殺傷能力が高い毒針みたいな悪意を描かせたら天下一品ですね。
前2作もよかったけど、本作は女性の一人称のせいで、男性である作者の圧倒的な力量と、彼らの企みみたいなものが際立った気がします。

「ベランダ渡り」は掌編と言ってもいい短さ。
体温の低そうな男の子と、猫みたいな妹、人を評するときに「仕事ができないかんじ」が口癖の彼女(こういう、なにかわかったような気になってる勘違い女子を描くのもうまい)、そして主人公の大学生。
全体的な雰囲気が藤原智美みたいで、こちらも好み。

なんかこう、大森兄弟って人間に対して意地悪なんですよね。
なんでだ。
そして、そこがたまらない。

→「犬はいつも足元にいて」大森兄弟

→「まことの人々」大森兄弟

/「わたしは妊婦」大森兄弟