(八瀬森分岐から岩手山)
二日目の朝がやって来た。ぐっすりと眠れたと言いたいところだったのだが、思うように寝付けなかった。というのも避難小屋の中がとても暑かったからだ。同宿のグループの人たちが虫が入るのを嫌って窓を閉めていたのだが、昨年のテント泊の経験からすると夜は虫がいなくなる傾向が強い。だから実際は窓を開けていても、早朝出発するのであれば虫に悩まされる可能性は低かったのだと思う。同宿のグループは岩手山まで9時間行程ということで手早く準備をして出発していった。ボクはというとのんびり朝食を作って今日の行程を考えていた。計画書には今日は大白森山荘まで行くことになっているのだが、午後に曲崎山を越えるのは辛いと考え、八瀬森山荘に泊まることも考えていた。そこで予定変更のメールを入れて5時過ぎに出発することになった。
(朝の大深山荘)
今日最初に目指す大深岳までは一度歩いたことのある道だ。登り始めはやや急な道を6リットルの水を積んで歩く。朝から難儀させられる。それでも一昨年は泥濘んだ道も今日は乾いて滑ることはない。傾斜が緩んでくると源太ヶ岳との分岐に出る。源太ヶ岳周辺はとても眺めの良い所だが、今日はそちらへは寄らない。分岐から大深岳までは緩やかな笹原の道だ。背の高い笹なので周りの景色を見ることはできない。それでも源太ヶ岳と岩手山はいくらか見える。三角点のある大深岳(1541.4)はやや広いスペースが取られた山頂である。
(大深岳への道)
(源太ヶ岳と岩手山)
(大深岳)
さあ、大深岳からは初めて歩く道だ。昨日同宿となったグループのリーダーによると大深岳までは刈払いが済んでいるという。歩き始めると確かにやや道が草に覆われている。だがそれほど歩き難いとは感じない。緩やかに下ると前方に大きな展望が広がる。どの山なのかは判然としないが、奥に見える大きな山は秋田駒ヶ岳のようだ。そこから右に目を移すと平原状の葛根田(あるいは南部)大白森。そしてこんもりと突き出た曲崎山が見える。
(奥に南部大白森)
(奥が秋田駒ヶ岳)
(パノラマ)
八瀬森分岐が近付くと東側が崖となった縁を歩くようになる。ここからは源太ヶ岳の絶壁から大きな岩手山そして三ツ石山への尾根が見渡せる。やがて岩手山を見上げる位置にある八瀬森分岐に着く。三ツ石山方面に比べると八瀬森方面は藪が深い。朝露に濡れた藪を掻き分けながら進む。早くもズボンがずぶ濡れになる。そして防水対策を施したはずの靴にも激しく浸水してきた。靴下が水を吸ってグチャグチャと音を立てる。そうか。やはり布靴では駄目か。それにこの靴はアッパーがもう駄目なのだろう。そろそろ換え時か。
(三ツ石山方面)
(パノラマ)
(八瀬森分岐)
(藪に覆われた道)
とりあえず靴は八瀬森山荘に着いた時点で何とかするとして、とにかく今は先へ進む。傾斜が緩やかなので体力的にはきつくない。ただ藪漕ぎは正直鬱陶しい。道の両脇に森が形成されている所はいくらか藪が薄く、湿地が近付くと凄まじい藪となる。1384のピーク手前は池塘もある湿地帯になっている。不思議と藪が薄く心休まる所だ。1384のピークを越えると再び酷い藪だ。笹が胸の高さ位で止まっているのが唯一の救いか。傾斜がやや急になってくると南側が落ち込んだ縁の上を歩くようになる。日が良く当たるせいなのかここは今回の行程の中で最も猛烈な藪であった。踏み跡が消失しているので、とにかく縁から落ちないよう気を付けて進んでいく。すると何と前方に人の姿が見える。近寄ってみると若い男性二人組で、携帯で連絡を取ろうとしていた。ここまで歩いてきた人がいるのなら、自分にも何とかなるだろう。ちょっと自信が出てきた。
(湿地帯 奥に見えるのは秋田駒辺りか?)
(池塘)
(1384のピーク辺り)
(チングルマ)
(畚岳方面が見える)
(葛根田大白森を望む猛烈な藪 左には秋田駒が見える)
(パノラマ)
歩きにくかった縁から緩やかな道に変わっていく。藪は相変わらずだが、恐さからは大分解放された。ニッコウキスゲも生える藪濃い森を抜けると標柱の立つ湿地帯に出る。標柱は1283のピークであることを示していた。この湿地帯を抜けると延々と森が続く。なるほど関東森と名付けられているだけの事はある。森の中は藪が薄く、体を濡らす心配はない。ただその分道を塞ぐ倒木が増えてきた。重荷なので倒木を跨ぐのも一苦労だが、トンネル状になって潜らなければならない所もあり、四つん這いになって抜けていくのは本当に辛い。勿体無い位に高度を落としていき、少し登り返した先が関東森(1154.0)。山頂というよりは正に尾根の一部といった感じだ。
(ニッコウキスゲの生える藪)
(1283のピーク)
(タチギボウシ)
(高度を落としていく中、曲崎山が見える)
(関東森)
プレートが掛かった1168のピークを越えると鞍部は湿地帯になっている。淡い紫色のタチギボウシ、鮮やかなオレンジのクルマユリ、黄色が映えるトウゲブキが生える湿地帯を抜けると、森の手前に沢が流れている。まさかこれが八瀬森山荘の水場じゃあるまいな…。森に入ると八瀬森(やせのもり)山荘に到着。小屋の前にベンチなどはないが、小屋内部は広く30人位は泊まれそうである。一先ず靴を脱ぎ、靴下を絞る。時計を見るとまだ午前8時台だ。大深山荘を出発前はここで泊まることも考えたが、流石にここで終わりにするのは馬鹿馬鹿しい。靴の中敷を少し乾かしてから出発することにした。
(1168のピーク)
(八瀬森前の湿地帯)
(クルマユリ)
(トウゲブキ)
(八瀬森山荘)
八瀬森山荘から八瀬森頂上まではやや傾斜の急な登り。ただ森が続き、日の暑さからは大分解放される。何の変哲もない八瀬森(1220)頂上を過ぎると、道は森の中を曲崎山へ向かって緩やかにアップダウンを繰り返す。頭上を覆う森が薄くなり、傾斜が急になり始めると曲崎山への登りが始まる。最初こそ森に覆われたやや緩やかな登りだが、周囲が笹原となるにつれて傾斜はきつくなっていく。そして何より日光の暑さが襲い始める。遮る物のない笹原には申し訳程度の風しか吹かない。何度も立ち止まり、急傾斜に足を滑らせながら、少しずつ登っていく。振り返れば、大深岳から葛根田大白森、そして明日登る大白森まで見えてきた。やがてやや傾斜が緩むと周囲は森に覆われ始める。ようやく辿り着いた曲崎山(1333.8)頂上は、途中までと異なり展望の無い所であった。
(八瀬森)
(大深岳から大白森までのパノラマ)
(こんな藪がしばらく続く)
(曲崎山)
とうとう今日の山場、曲崎山を登り切ってしまった。ここまで来れば大白森山荘までは惰性で行けるだろう。暑くて休憩には向かない山頂を辞して大白森山荘を目指す。今回の行程で最も急な斜面をじっくりと下る。大きな湿原を頂く大白森がよく見える。この下りも高い樹がなく、日にじりじりと炙られながら進んでいかなければならない。暑さによる疲れで何度も転びつつ、何とか穏やかな森まで下ってくる。ここから大沢森そして大白森山荘までは本当に森が続く。緩やかなアップダウンを繰り返す道は疲れた体には優しい。それに日差しも遮ってくれる。藪薄い森の中は今日の日程の中ではオアシスといってもいい。展望の無い大沢森(1178)頂上を越えると道は少しずつ下り基調となる。
(曲崎山の下りから大白森を望む)
(穏やかな森が続く)
(大沢森)
急な傾斜の下りが終わると大沢への分岐に出る。かつてはこの大沢が水場指定地とされていたようだ。現在はどちらかといえば玉川ダム方面へのエスケープと考えられている。ただ本当にここを下りてしまったら公共交通機関のある所まで出るのは至難の業だろう。しばらく続いた平坦な道も急な登り坂へと変わる。大白森山荘への最後の登りだ。だがここで完全に足が止まってしまった。小屋がなかなか見えて来ず、モティベーションが上がらないのだ。ザックを下ろし、誰か助けに来てくれないかなとかなり都合の良いことを考え始める。でもここに何時までも居座っていたところで小屋へは何時までたっても近付くことはない。山は事故が起きる度に山を知らない人間が自己責任だと騒ぐが、そんなことは山を知っている人間なら百も承知なのだ。今だってこうして誰も助けにくる人間などありもしない。自分の足で重い荷物を背負って歩いていかなければ、今日の寝床も確保できないのだ。休んでは登り、休んでは登り、ようやく小屋の茶色い壁が視界に入ってきた。一旦小休止を取った後、一気に小屋まで登り切る。ついに大白森山荘に到着だ。
(大沢への分岐を示す看板)
(大白森山荘)
小屋の前に立つと何やら服や器具が外階段に掛けられている。中に入ると先客が昼食の最中であった。先客の男性に水場を教えてもらい、一先ず水を汲みに行く。水場は縦走路を挟んだ反対側にあり、小屋からは近い。但し水はチョロチョロとしか流れていない。水溜りに溜まった上澄みを掬いながら、時間をかけて水を汲む。これでようやく昼食が取れる。昼食を取る間、男性の話を色々と聞くことが出来た。東京から来たという男性はこの辺りの沢を殆ど歩き尽してしまったという。今日もヤセノ沢を詰めて曲崎山を越えてきたそうだ。明日以降の登山道の状況などを聞きつつ、濡れた靴下と靴を乾かす。大白森山荘は他と同じく二階建てだが、1階はセメント敷きで寝るのには適さない。2階の板の間は狭く、5人くらいが快適に寝られる限度であろう。昨日は暑かったので、夜は銀マットを掛けて寝ることにした。夕食も終わり、夜7時になると二人とも床に着いた。
(小屋の内部)
(靴に留まったトンボ)
DATA:
大深山荘5:00~5:25源太ヶ岳分岐~5:33大深岳~5:49八瀬森分岐~6:58P1283~7:46関東森~8:09八瀬森山荘~8:42八瀬森
~9:57曲崎山~11:04大沢森~11:36大沢分岐~12:20大白森山荘(泊)
八瀬森山荘
水場2分 水量は少なめ 1・2階とも板の間 30人位泊まれる 外にベンチはなし 携帯電話は不通
大白森山荘
水場1分 水量は少ない 2階のみ板の間 5人位泊まれる 外にベンチはなし 携帯電話は不通
トイレは一箇所で和式・汲取り式 紙は無い
歩数 22,890歩
地形図 松川温泉 曲崎山
二日目の朝がやって来た。ぐっすりと眠れたと言いたいところだったのだが、思うように寝付けなかった。というのも避難小屋の中がとても暑かったからだ。同宿のグループの人たちが虫が入るのを嫌って窓を閉めていたのだが、昨年のテント泊の経験からすると夜は虫がいなくなる傾向が強い。だから実際は窓を開けていても、早朝出発するのであれば虫に悩まされる可能性は低かったのだと思う。同宿のグループは岩手山まで9時間行程ということで手早く準備をして出発していった。ボクはというとのんびり朝食を作って今日の行程を考えていた。計画書には今日は大白森山荘まで行くことになっているのだが、午後に曲崎山を越えるのは辛いと考え、八瀬森山荘に泊まることも考えていた。そこで予定変更のメールを入れて5時過ぎに出発することになった。
(朝の大深山荘)
今日最初に目指す大深岳までは一度歩いたことのある道だ。登り始めはやや急な道を6リットルの水を積んで歩く。朝から難儀させられる。それでも一昨年は泥濘んだ道も今日は乾いて滑ることはない。傾斜が緩んでくると源太ヶ岳との分岐に出る。源太ヶ岳周辺はとても眺めの良い所だが、今日はそちらへは寄らない。分岐から大深岳までは緩やかな笹原の道だ。背の高い笹なので周りの景色を見ることはできない。それでも源太ヶ岳と岩手山はいくらか見える。三角点のある大深岳(1541.4)はやや広いスペースが取られた山頂である。
(大深岳への道)
(源太ヶ岳と岩手山)
(大深岳)
さあ、大深岳からは初めて歩く道だ。昨日同宿となったグループのリーダーによると大深岳までは刈払いが済んでいるという。歩き始めると確かにやや道が草に覆われている。だがそれほど歩き難いとは感じない。緩やかに下ると前方に大きな展望が広がる。どの山なのかは判然としないが、奥に見える大きな山は秋田駒ヶ岳のようだ。そこから右に目を移すと平原状の葛根田(あるいは南部)大白森。そしてこんもりと突き出た曲崎山が見える。
(奥に南部大白森)
(奥が秋田駒ヶ岳)
(パノラマ)
八瀬森分岐が近付くと東側が崖となった縁を歩くようになる。ここからは源太ヶ岳の絶壁から大きな岩手山そして三ツ石山への尾根が見渡せる。やがて岩手山を見上げる位置にある八瀬森分岐に着く。三ツ石山方面に比べると八瀬森方面は藪が深い。朝露に濡れた藪を掻き分けながら進む。早くもズボンがずぶ濡れになる。そして防水対策を施したはずの靴にも激しく浸水してきた。靴下が水を吸ってグチャグチャと音を立てる。そうか。やはり布靴では駄目か。それにこの靴はアッパーがもう駄目なのだろう。そろそろ換え時か。
(三ツ石山方面)
(パノラマ)
(八瀬森分岐)
(藪に覆われた道)
とりあえず靴は八瀬森山荘に着いた時点で何とかするとして、とにかく今は先へ進む。傾斜が緩やかなので体力的にはきつくない。ただ藪漕ぎは正直鬱陶しい。道の両脇に森が形成されている所はいくらか藪が薄く、湿地が近付くと凄まじい藪となる。1384のピーク手前は池塘もある湿地帯になっている。不思議と藪が薄く心休まる所だ。1384のピークを越えると再び酷い藪だ。笹が胸の高さ位で止まっているのが唯一の救いか。傾斜がやや急になってくると南側が落ち込んだ縁の上を歩くようになる。日が良く当たるせいなのかここは今回の行程の中で最も猛烈な藪であった。踏み跡が消失しているので、とにかく縁から落ちないよう気を付けて進んでいく。すると何と前方に人の姿が見える。近寄ってみると若い男性二人組で、携帯で連絡を取ろうとしていた。ここまで歩いてきた人がいるのなら、自分にも何とかなるだろう。ちょっと自信が出てきた。
(湿地帯 奥に見えるのは秋田駒辺りか?)
(池塘)
(1384のピーク辺り)
(チングルマ)
(畚岳方面が見える)
(葛根田大白森を望む猛烈な藪 左には秋田駒が見える)
(パノラマ)
歩きにくかった縁から緩やかな道に変わっていく。藪は相変わらずだが、恐さからは大分解放された。ニッコウキスゲも生える藪濃い森を抜けると標柱の立つ湿地帯に出る。標柱は1283のピークであることを示していた。この湿地帯を抜けると延々と森が続く。なるほど関東森と名付けられているだけの事はある。森の中は藪が薄く、体を濡らす心配はない。ただその分道を塞ぐ倒木が増えてきた。重荷なので倒木を跨ぐのも一苦労だが、トンネル状になって潜らなければならない所もあり、四つん這いになって抜けていくのは本当に辛い。勿体無い位に高度を落としていき、少し登り返した先が関東森(1154.0)。山頂というよりは正に尾根の一部といった感じだ。
(ニッコウキスゲの生える藪)
(1283のピーク)
(タチギボウシ)
(高度を落としていく中、曲崎山が見える)
(関東森)
プレートが掛かった1168のピークを越えると鞍部は湿地帯になっている。淡い紫色のタチギボウシ、鮮やかなオレンジのクルマユリ、黄色が映えるトウゲブキが生える湿地帯を抜けると、森の手前に沢が流れている。まさかこれが八瀬森山荘の水場じゃあるまいな…。森に入ると八瀬森(やせのもり)山荘に到着。小屋の前にベンチなどはないが、小屋内部は広く30人位は泊まれそうである。一先ず靴を脱ぎ、靴下を絞る。時計を見るとまだ午前8時台だ。大深山荘を出発前はここで泊まることも考えたが、流石にここで終わりにするのは馬鹿馬鹿しい。靴の中敷を少し乾かしてから出発することにした。
(1168のピーク)
(八瀬森前の湿地帯)
(クルマユリ)
(トウゲブキ)
(八瀬森山荘)
八瀬森山荘から八瀬森頂上まではやや傾斜の急な登り。ただ森が続き、日の暑さからは大分解放される。何の変哲もない八瀬森(1220)頂上を過ぎると、道は森の中を曲崎山へ向かって緩やかにアップダウンを繰り返す。頭上を覆う森が薄くなり、傾斜が急になり始めると曲崎山への登りが始まる。最初こそ森に覆われたやや緩やかな登りだが、周囲が笹原となるにつれて傾斜はきつくなっていく。そして何より日光の暑さが襲い始める。遮る物のない笹原には申し訳程度の風しか吹かない。何度も立ち止まり、急傾斜に足を滑らせながら、少しずつ登っていく。振り返れば、大深岳から葛根田大白森、そして明日登る大白森まで見えてきた。やがてやや傾斜が緩むと周囲は森に覆われ始める。ようやく辿り着いた曲崎山(1333.8)頂上は、途中までと異なり展望の無い所であった。
(八瀬森)
(大深岳から大白森までのパノラマ)
(こんな藪がしばらく続く)
(曲崎山)
とうとう今日の山場、曲崎山を登り切ってしまった。ここまで来れば大白森山荘までは惰性で行けるだろう。暑くて休憩には向かない山頂を辞して大白森山荘を目指す。今回の行程で最も急な斜面をじっくりと下る。大きな湿原を頂く大白森がよく見える。この下りも高い樹がなく、日にじりじりと炙られながら進んでいかなければならない。暑さによる疲れで何度も転びつつ、何とか穏やかな森まで下ってくる。ここから大沢森そして大白森山荘までは本当に森が続く。緩やかなアップダウンを繰り返す道は疲れた体には優しい。それに日差しも遮ってくれる。藪薄い森の中は今日の日程の中ではオアシスといってもいい。展望の無い大沢森(1178)頂上を越えると道は少しずつ下り基調となる。
(曲崎山の下りから大白森を望む)
(穏やかな森が続く)
(大沢森)
急な傾斜の下りが終わると大沢への分岐に出る。かつてはこの大沢が水場指定地とされていたようだ。現在はどちらかといえば玉川ダム方面へのエスケープと考えられている。ただ本当にここを下りてしまったら公共交通機関のある所まで出るのは至難の業だろう。しばらく続いた平坦な道も急な登り坂へと変わる。大白森山荘への最後の登りだ。だがここで完全に足が止まってしまった。小屋がなかなか見えて来ず、モティベーションが上がらないのだ。ザックを下ろし、誰か助けに来てくれないかなとかなり都合の良いことを考え始める。でもここに何時までも居座っていたところで小屋へは何時までたっても近付くことはない。山は事故が起きる度に山を知らない人間が自己責任だと騒ぐが、そんなことは山を知っている人間なら百も承知なのだ。今だってこうして誰も助けにくる人間などありもしない。自分の足で重い荷物を背負って歩いていかなければ、今日の寝床も確保できないのだ。休んでは登り、休んでは登り、ようやく小屋の茶色い壁が視界に入ってきた。一旦小休止を取った後、一気に小屋まで登り切る。ついに大白森山荘に到着だ。
(大沢への分岐を示す看板)
(大白森山荘)
小屋の前に立つと何やら服や器具が外階段に掛けられている。中に入ると先客が昼食の最中であった。先客の男性に水場を教えてもらい、一先ず水を汲みに行く。水場は縦走路を挟んだ反対側にあり、小屋からは近い。但し水はチョロチョロとしか流れていない。水溜りに溜まった上澄みを掬いながら、時間をかけて水を汲む。これでようやく昼食が取れる。昼食を取る間、男性の話を色々と聞くことが出来た。東京から来たという男性はこの辺りの沢を殆ど歩き尽してしまったという。今日もヤセノ沢を詰めて曲崎山を越えてきたそうだ。明日以降の登山道の状況などを聞きつつ、濡れた靴下と靴を乾かす。大白森山荘は他と同じく二階建てだが、1階はセメント敷きで寝るのには適さない。2階の板の間は狭く、5人くらいが快適に寝られる限度であろう。昨日は暑かったので、夜は銀マットを掛けて寝ることにした。夕食も終わり、夜7時になると二人とも床に着いた。
(小屋の内部)
(靴に留まったトンボ)
DATA:
大深山荘5:00~5:25源太ヶ岳分岐~5:33大深岳~5:49八瀬森分岐~6:58P1283~7:46関東森~8:09八瀬森山荘~8:42八瀬森
~9:57曲崎山~11:04大沢森~11:36大沢分岐~12:20大白森山荘(泊)
八瀬森山荘
水場2分 水量は少なめ 1・2階とも板の間 30人位泊まれる 外にベンチはなし 携帯電話は不通
大白森山荘
水場1分 水量は少ない 2階のみ板の間 5人位泊まれる 外にベンチはなし 携帯電話は不通
トイレは一箇所で和式・汲取り式 紙は無い
歩数 22,890歩
地形図 松川温泉 曲崎山