野老の里

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有限責任

2014年03月13日 | tokoroの日常
一昨日、つまり3月11日の朝日新聞にちょっと気になる記事がありました。
「東電は株式会社でいいか」というタイトルで、日本エネルギー経済研究所の顧問の方の話が載っているのですが、はっきり言って原発推進側の意見といって良いと思います。
でも意見表明は悪いことではなく、反原発派も推進側の意見をよく聞くべきだと思っているので、結論部分は一聴に値すると言えます。

ただちょっと気になったのは東京電力の賠償責任を限定する論理に怪しい所があるってことです。
この顧問の方は株式会社は有限責任を本質としているから無限の賠償責任を負うのは間違いだ、と考えているように読める記事になっています。
でも株式会社の有限責任性ってそういう意味でしたっけ?
株式会社において有限責任について言及しているのは会社法の104条で、ここでは株主は株式会社に出資をなす義務を負うだけで、会社債権者に会社の債務を代わって弁済する義務は負わない旨を規定しています。
株式会社の本質である所有と経営の分離を定めた規定でもあり、「株主の有限責任」と呼ばれることが多いものです。
出資者(株主)は会社が破綻等したときに出資した財産を失うことはあるけれども、それ以上の責任は問われない。
それによって出資者は安心して投資が出来る訳です。別に会社の責任が有限である、とは定められていません。

かつて会社は合名会社・合資会社の無限責任社員となることができないという規定がありました。
この規定の存在により、株式会社の責任は有限なものである、という見解があったのも事実(多くは権利能力の問題として捉えていましたが)。
しかし会社法の制定によってこの規定は削除されました。
会社ってその規模によっては数十億円を超える負債を抱えるってことも不思議じゃありません。
一個人としては異常な額ですが、会社であれば利益を上げる仕組みがあれば、莫大な負債があっても存続しえます。
賠償責任は会社にとって不測の事態だから問題になるのであって、単に借金であるなら返せればいい訳です。
新聞に書かれていたアメリカやイギリスで原発会社の責任が限定されるというのは実際は政策的意味合いが大きい。

現在では株式会社は無限責任を負うものと一般に考えていい。皆さんが勤めている会社は基本的に債権者に対して無限責任を負っています。
じゃあ会社が支払いできなくなったらどうするのかというと、そのときは破綻処理をします。
私的処理でも法的処理でもいずれにせよ借金や賠償金を一部免除してもらって経営を立て直すか、あるいは会社財産を売るなりして債権者に配当し、会社が消滅するという道を辿ることになります。
どちらも債権者は一部の支払いしか受けられない可能性がある(結果的には有限責任となる)のですが、私的処理であれば会社と債権者との間で合意があるはずだし、法的処理であれば裁判所が手続きを監督し、経営者の責任を追及する、株主や銀行などの大口債権者も損をする(100%の減資で株が紙切れになるあるいは大幅な債権放棄が求められる)ことで、公平がはかられます。

他方事業によって責任を限定するということは一般的に行われています。
例えば外国の航空会社は事故が起きたときに賠償額を一定限度までしか負わない旨がチケットに明記されています。
一度に多額の賠償責任を負うような事業に関してはその責任を有限とするという考えには合理性があります。
無限の責任を負うのであれば、新規に参入する企業が無くなり、結果として利用者が損をするということになりかねないからです。
原発事業に関しても航空機事業のようにその継続が国民経済に不可欠な事業であれば、賠償責任を限定するという政策も有りだと思います。
それを会社は有限責任しか負わない存在だから無限の賠償責任を負うのはおかしいんだ、というのは流石に乱暴すぎます。
そうではなく、電力会社が抱える可能性のある莫大な賠償を限定しなければならないほど原発事業は重要なのだということを示すべきでしょう。
奇妙な論理を持ち出せば、それだけでも反原発派から突っ込まれる虞があります。
真正面からの議論は避けるっていうのは得策じゃないと思うんですがね。

東京電力についていえば、賠償責任を限定するには個々の被災者から同意を取り付けるか、法的な破綻処理をするしかないと思います。
別途法律を作って賠償責任を限定するとなると被災者を犠牲にして株主や銀行を救済するのと代わりありません。
また一度発生した賠償請求権を制限することは財産権の侵害にもなりかねません。
そのことに納得する人はあまりいないんじゃないでしょうか。
東電とは別に将来の原発継続・それに伴う事故に対応するために検討をするというのなら、まだ議論の余地はあるとは思うんですけれどね。
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