情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

匿名発表への危機感を被害者遺族が表明

2005-11-20 05:49:47 | 匿名発表問題(警察→メディア)
東京のJR池袋駅ホームで1996年、男に暴行を受けて死亡した埼玉県春日部市の立教大生の父親が18日、「警察は犯罪被害者をできるだけ実名発表し、報道機関の自主判断に委ねることを望む」と訴える小泉首相あての請願書を内閣府に出したという。読売新聞は,【 政府の犯罪被害者基本計画案作りでは、被害者名を実名・匿名のどちらで発表するかの判断を警察に委ねる方向で議論が進んでいるだけに、被害者遺族が実名発表を求める動きは、議論に一石を投じそうだ。 】としている(読売)。

嘆願書では,「被害者の実名・匿名発表と報道被害は、論じる基本が異なる」としたうえで,「匿名は人間としての存在を否定する行為で、亡き者が一番悔しい思いをしており、実名報道が原則」とし,「マスコミが被害者の了解を得てから取材するのは当然」だが,「加害者の話だけで事実と違うことを公表され、被害者が社会から批判され、誤報で傷付くのが報道被害。警察の確認が不十分のまま報道されているのが現状で、これらを調査し、正してくれるのもマスコミだ」としているらしい。

本質をつく指摘だと思う。

この日,日本民間放送連盟も実名原則への修正を求める再度の申し入れをしている。申し入れ全文はこちら

実名発表の危機!~犯罪被害者基本計画検討会合意

2005-10-28 08:17:30 | 匿名発表問題(警察→メディア)
読売新聞によると、【犯罪被害者基本法の施行を受け、具体的な計画作りを進めている政府の犯罪被害者施策推進会議の検討会は25日、第9回会合(非公開)を内閣府で開き、基本計画案に、事件・事故の被害者を実名で発表するか匿名とするかの判断を、警察に事実上委ねる内容の項目を盛り込むことを決めた】という。同紙は、【「匿名社会」が広がりを見せる中、被害者側の同意がない限り、警察が実名を発表しないというケースが一段と増える可能性が強い。】と懸念している。まさにそのとおり。この件については、メディアが一丸となって実名発表を求めなければならない。以前にも書いたとおりだ

公務員に対して厳しい目が向けられている中、警察官の不祥事、警察組織の不祥事も相次いで報道されている。それにもかかわらず、こういう基本的な情報開示について警察に判断を委ねることを是とする発想は、なぜ、生まれるのか?権力に対しては常に性悪説で臨むくらいでちょうどいいはずだ。警察が事件の当事者の氏名を発表しないということは、そのような被害が本当にあったのかどうかのチェックすらできないということだ。

幸い読売新聞社長も【新聞が抱えるもう一つの重要な問題は、捜査機関を中心とした公的機関の発表の匿名化だ。4月に全面施行された個人情報保護法について、政府、地方自治体が誤った解釈を下し、同法を大義名分にして情報を出さない傾向が強まっている。特に市民生活に大きな影響を及ぼす警察など公権力機関が匿名情報しか発表しないとなれば、権力に対する新聞のチェック機能が働かなくなる。こうした社会は健全とはいえない。】と話しており、この点では各社共通認識が持てそうだ。何とか押し返してほしい。

もちろん、実名で発表されたものを匿名で発表する配慮がこれまで以上に求められるのは当然であり、新聞協会の意見に示された決意を実行に移すことは不可欠ではある。個人的には、匿名報道を原則とするべきだと思う。


匿名実名の判断を警察にゆだねてよいのか?

2005-08-05 06:06:36 | 匿名発表問題(警察→メディア)
犯罪被害者等基本計画検討会の骨子案がこのほどまとまった。その骨子案のなかで、警察が被害者を匿名で発表することを認める文言が盛り込まれた。
その文言とは以下のとおり。

(2) 犯罪被害者等に関する情報の保護
エ警察による被害者の実名発表、匿名発表について、犯罪被害者等の匿名発表を望
む意見と、マスコミによる報道の自由、国民の知る権利を理由とする実名発表に対
する要望を踏まえ、プライバシーの保護、発表することの公益性等の事情を総合的
に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく。
http://www8.cao.go.jp/hanzai/suisin/kihon/6/3/naikaku.pdf
http://www8.cao.go.jp/hanzai/suisin/kihon/gizi6.html

確かに全て実名で「報道」することが望ましいとは思わない。しかし、匿名で「は発表」されてしまうと、メディアが被害者に接触することさえできない。これは非常に危険な状態である。これまで警察の失態で被害に遭った例があったが、そのような警察の失態がまったく表沙汰にならなくなってしまう可能性がでてくる。権力を監視する機能を十全たらしめるためには、実名「発表」は堅持されなければならない。そのうえで、実名「報道」をするかどうかは、メディアが責任をもって決定すればよい。

実名にこだわっていていいのか

2005-06-29 07:32:06 | 匿名発表問題(警察→メディア)
新聞全国・ブロック紙各社の編集局幹部との懇談会があった。JRの事故の関係で大規模な事故の際の被害者報道のあり方が話題となった。この事件の被害者の4人は、警察にメディアへの実名の発表をしないよう要請し、それに応じた警察は、メディアに実名を発表しなかった。

まず、警察がメディアに発表するべきであるという点では、一致した。警察の発表が正しいことの担保として、メディアが検証しうる状態にあることが必要だからである。

しかし、警察が実名で報道すべきかどうかは新聞社側も弁護士側も割れた。安否情報を伝える必要から実名だ、いや遺族感情を無視できない…などと盛り上がった。

警察が発表を渋る口実を与えないためにも、入手した実名について全て公表するのではなく、遺族が実名報道を希望した場合に限定して実名報道するなどの配慮が必要な時期に来ている。メディアが実名にこだわる以上、今後も、警察に匿名での発表を希望する被害者や家族は増え続けるのではないか。警察の行為を検証できなくなってしまうのは、まずいでしょう。


最近、このほか、元毎日新聞の井上泰浩広島市立大学助教授、原真共同通信記者からのレクチャーがあった。意見交換も充実しており、有意義なものであった。お二方、ありがとうございました。
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巨大メディアの逆説―娯楽も報道もつまらなくなっている理由

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匿名発表問題で理論構築へ:日本新聞協会編集小委員会

2005-06-20 21:00:46 | 匿名発表問題(警察→メディア)
日本新聞協会の編集小委員会は、官公庁などが被害者などを匿名で発表するケースが増えていることに対し、1)個人情報保護法等を理由とした匿名発表に対し、若手記者が日常の取材活動で萎縮することがないよう理論構築を行う、2)原則実名の重要性を、市民や当局に説明していく-方針を固め、今秋をめどに答申をまとめるという。

発表自体を実名で行うことの重要性は、何回か触れてきたとおりです。
しかし、報道は、匿名でもよいのではないか、むしろ、報道する際には匿名にするから、発表自体は実名でしてくれって、いうほうが市民の理解を得やすいのではないでしょうか。
そろそろ、本気で匿名報道を考えないと、メディアは市民の敵にされちまうかも?!

編集小委員会には是非とも、現状分析をきちんと行っていただきたい。

原則私人匿名報道について

2005-04-12 02:15:08 | 匿名発表問題(警察→メディア)
情報流通という概念からは、よりスムーズな流通を確保するためには、情報流通が他の人権と衝突する場面をできるだけ回避すること(あくまでも無用な衝突。衝突せざるを得ない場面まで回避する必要はない)も必要だと考えています。
したがって、私人の事件事故を報道する際は、被害者、加害者とも匿名とするべきだと考えます。私人の場合、氏名が掲載されていても、ほとんどの人は知らないのだから、意味がない。むしろ、実名で書かれると、世間の批判を直接浴びるなど、その弊害は大きい。私人の場合、職業などで修飾すれば社会的関心は満たされるのではないでしょうか。
もちろん、政治家や官僚などの公人は、実名とするのが前提ですが…。

実名報道派からは、匿名報道が原則となると、警察が匿名発表にすることになる、という批判がなされたりするが、それはむしろ、逆で、警察を「実名にしないのだから安心して発表できますよ」と説得することができるのではないでしょうか。

匿名で唯一困ることは、特ダネを匿名で書かれたら、その特ダネの内容を確認するのに手間取るということくらいでしょうか。

匿名発表が広がっている…

2005-03-26 22:04:52 | 匿名発表問題(警察→メディア)
 現在、警察が事件事故を報道する際、当事者(加害者、被害者)を匿名で発表するケースが増えているという。青森県警は、2003年4月、交通事故について、過失割合の少ない第二当事者(被害者など)について、匿名で発表するとの方針を打ち出した。
 メディアがプライバシーに配慮して、匿名で発表することは必要だと思うが、警察がメディアに匿名で発表するということは、警察の情報をメディアがチェックすることができなくなるっていう意味で非常に問題が大きい。
 有名なところでは桶川事件女子大生殺人事件。この事件では、警察が自らの不祥事を隠蔽するため、毎日遺族宅に滞在し、メディアが遺族と接触するのを防いだという。もし、そのまま、メディアが遺族に接触できないままだと、あの事件は、遊び慣れた女子大生の軽率な行為に問題があったということで片づけられたかもしれない。それを暴いたのは一雑誌記者だった。
 
 そもそも、青森県警は、2000年9月、青森署員が酒気帯び運転で電柱に衝突する事故を起こした際、この署員を逮捕しないまま、「任意捜査(逮捕しない場合)は匿名が原則。警察官も例外ではない」と言って、この署員の使命の公表を拒んだことがあるという。

 この匿名発表は、全国各地で広がっており、警視庁でもそういう傾向があるという。

 そんな流れの中で、人権擁護法案や憲法改正国民投票法案などメディアを規制する法律が提案されようとしている。

 監視されるべき国・行政側は、できるだけ情報をださないようにしつつ、他方で監視する側(メディア)を監視する権限を持とうとしている…。
 
 ライブドアとフジテレビの問題よりも深刻だぞぉ!!


以上、河北新報社2004年6月3日、毎日新聞2003年6月3日など参照。