国選刑事弁護に対する締め付けが厳しくなっている。旧聞に属するが、記録としても残しておく必要があるので、ご勘弁。中日新聞(※1)によると、【刑事裁判の被告に国選弁護人をあっせんする日本司法支援センター(法テラス)の愛知地方事務所の石井三一副所長(弁護士)が、弁護士過疎地域での弁護活動補助をめぐる本部の方針変更に抗議し、辞任していたことが分かった。被告の弁護に必要な証拠書類のコピー代について、法テラスが行っていた肩代わりを本部が廃止したためだ】という。
ここでいう必要な証拠書類とは、刑事裁判の手続きが始まる前に、検察側が証拠として裁判所に提出したいと考える書類(現場検証の記録や、証人・被告人本人の供述を記録したものなど)として、弁護人に示すもののことだ。
弁護人は、裁判が始まる前に被告人と打ち合わせて、示された書類のうち、どの書類については裁判所に提出することを認め、どの書類については裁判所に提出することに反対するか(反対した場合、その書類を作成した人や証人が裁判所に来て証言することとなる。弁護側は反対尋問をしてその証言を崩そうとする)、を決めなければならない。
したがって、原則として、示された書類をコピーしてじっくり読み、場合によっては被告人本人に差し入れて読んでもらう必要がある(個人的には、被害者保護、証人保護の観点から住所などをマスキングしたうえで、被告人にもコピーを渡すのが原則だと考える)。
そこで、弁護人は、示された書類のコピーをすることとなる。
ところが、検察庁でのコピー代が高い。場所によって違うが、1枚40円くらい。
ということは、1000頁くらいの書類をコピーすると、それだけで4万円、さらに被告人用に自分でコピーすると1枚10円として1万円、合計5万円かかる。
他方弁護士の報酬は、200頁までは基本弁護料(公判1回の事件=7万円、2回の事件=7万7000円、3回の事件=8万4000円)に含まれており、それ以上の分について、1枚20円でカウントされる。つまり、800頁×20円=1万6000円となるため、5万円から1万6000円を引くと3万4000円は弁護士の自己負担になるわけだ。
もう少しわかりやすく説明すると、たとえば、否認事件で公判を10回行ったとしよう。目撃者や警察官、鑑定人などを尋問したが、有罪となった。この場合の報酬は、公判3回までの事件分としての8万4000円に加え、その後1回平均3時間の公判を行ったとして、1回2万500円となるので、7回×2万500円=14万3500円で、合計22万7500円となる。
1回の公判あたり、倍の時間を準備に費やしたとすると、10回×3時間(これは公判の時間)+10回×6時間(これは準備の時間)=90時間。22万7500円を90時間で割ると2527円となる。これが時給だ。
ここから、上記のようにコピー自腹分を差し引くと、22万7500円-3万4000円=19万3500円。これを90時間で割ると時給は2150円となる。
さらに、弁護士の活動している間も事務員さんの給料や事務所の賃貸料はかかっている。事務員さんの給料が時給平均2000円とし、事務所の賃料を時間あたり2000円とすると…。
2150円-2000円-2000円=完全な赤字…。
せめて、コピー代くらいの負担はしてくれよ、そうでないとコピー代をけちる弁護士が出てくるじゃないか…という叫びはよく分かる。
個人的には、本格的に争う事件では完全な持ち出しというのが実感だ。
中日新聞は次のように続けている。
【弁護士過疎地域での裁判では都市部から弁護士が出向く。距離の離れた地検の現地支部には頻繁に行けないため、証拠の十分な閲覧ができず、全部コピーせざるを得ない事情がある。膨大な量になることが多く、赤字になるケースも。
こうした国選弁護人には、法テラスがコピー代を全額負担する特例処置を実施。愛知地方事務所管内では、名古屋地裁半田支部で行われる事件に名古屋などから国選弁護人が行く場合が対象だった。
しかし昨年11月、法テラスの本部が特例措置廃止を通達。愛知地方事務所は、国選弁護人のなり手がいなくなると反対したが方針は変わらず、同月、石井副所長が抗議の辞任をした。
本部は「報酬の規定改正で、出張手当が出るようになったのでコピー代はいらないと考えている」としている。
◆豊川・幼児連れ去り公判では時給487円
法テラスによるコピー代金の肩代わりの維持を愛知地方事務所幹部が求めた背景には「国選弁護人への報酬があまりにも低い」との指摘が弁護士の中からあるからだ。
報酬は、地裁の単独事件で、実質的な公判の開廷数が3回以上の場合は最大で8万4000円。200枚までのコピー代金も含んでいる。
愛知県豊川市で2002年、幼児が連れ去られ海岸で水死体で発見された事件。殺人罪などに問われた被告の国選弁護を担当した名古屋市の弁護士の一審裁判の支出は、心理鑑定費用35万円やコピー代金16万円などで計約72万円。
報酬は弁護士1人当たり40万円とコピー代金の実費支給で赤字ではなかったが、時給に換算すると、487円。裁判所から法テラスに国選弁護人のあっせん機関が代わるのと同時に報酬基準が改定されたが「前より2割ほど減った」との指摘もある。
愛知県弁護士会のある弁護士は「来年から被疑者段階で国選弁護人が必要となる事件の枠が広がり、弁護人の負担はさらに増す」と指摘。「司法改革の一環で弁護士が増えて競争激化が予想される状況で、赤字になる可能性がある国選弁護を引き受ける弁護士が地域によってはいなくなってしまう恐れもある」と訴える。】
弁護士を増やすだけでは充実した法的手続きを浸透させることはできない。法的手続きに必要な費用に対する公的な援助(リーガルエイド)を充実させなければならない。
しかし、実際には、法を身近なものにするという触れ込みで法テラス(法務省管轄)ができた後、刑事弁護費用で明らかなとおり、リーガルエイドは縮小しているのが実態だ。
※1:http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2008033102099696.html
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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ここでいう必要な証拠書類とは、刑事裁判の手続きが始まる前に、検察側が証拠として裁判所に提出したいと考える書類(現場検証の記録や、証人・被告人本人の供述を記録したものなど)として、弁護人に示すもののことだ。
弁護人は、裁判が始まる前に被告人と打ち合わせて、示された書類のうち、どの書類については裁判所に提出することを認め、どの書類については裁判所に提出することに反対するか(反対した場合、その書類を作成した人や証人が裁判所に来て証言することとなる。弁護側は反対尋問をしてその証言を崩そうとする)、を決めなければならない。
したがって、原則として、示された書類をコピーしてじっくり読み、場合によっては被告人本人に差し入れて読んでもらう必要がある(個人的には、被害者保護、証人保護の観点から住所などをマスキングしたうえで、被告人にもコピーを渡すのが原則だと考える)。
そこで、弁護人は、示された書類のコピーをすることとなる。
ところが、検察庁でのコピー代が高い。場所によって違うが、1枚40円くらい。
ということは、1000頁くらいの書類をコピーすると、それだけで4万円、さらに被告人用に自分でコピーすると1枚10円として1万円、合計5万円かかる。
他方弁護士の報酬は、200頁までは基本弁護料(公判1回の事件=7万円、2回の事件=7万7000円、3回の事件=8万4000円)に含まれており、それ以上の分について、1枚20円でカウントされる。つまり、800頁×20円=1万6000円となるため、5万円から1万6000円を引くと3万4000円は弁護士の自己負担になるわけだ。
もう少しわかりやすく説明すると、たとえば、否認事件で公判を10回行ったとしよう。目撃者や警察官、鑑定人などを尋問したが、有罪となった。この場合の報酬は、公判3回までの事件分としての8万4000円に加え、その後1回平均3時間の公判を行ったとして、1回2万500円となるので、7回×2万500円=14万3500円で、合計22万7500円となる。
1回の公判あたり、倍の時間を準備に費やしたとすると、10回×3時間(これは公判の時間)+10回×6時間(これは準備の時間)=90時間。22万7500円を90時間で割ると2527円となる。これが時給だ。
ここから、上記のようにコピー自腹分を差し引くと、22万7500円-3万4000円=19万3500円。これを90時間で割ると時給は2150円となる。
さらに、弁護士の活動している間も事務員さんの給料や事務所の賃貸料はかかっている。事務員さんの給料が時給平均2000円とし、事務所の賃料を時間あたり2000円とすると…。
2150円-2000円-2000円=完全な赤字…。
せめて、コピー代くらいの負担はしてくれよ、そうでないとコピー代をけちる弁護士が出てくるじゃないか…という叫びはよく分かる。
個人的には、本格的に争う事件では完全な持ち出しというのが実感だ。
中日新聞は次のように続けている。
【弁護士過疎地域での裁判では都市部から弁護士が出向く。距離の離れた地検の現地支部には頻繁に行けないため、証拠の十分な閲覧ができず、全部コピーせざるを得ない事情がある。膨大な量になることが多く、赤字になるケースも。
こうした国選弁護人には、法テラスがコピー代を全額負担する特例処置を実施。愛知地方事務所管内では、名古屋地裁半田支部で行われる事件に名古屋などから国選弁護人が行く場合が対象だった。
しかし昨年11月、法テラスの本部が特例措置廃止を通達。愛知地方事務所は、国選弁護人のなり手がいなくなると反対したが方針は変わらず、同月、石井副所長が抗議の辞任をした。
本部は「報酬の規定改正で、出張手当が出るようになったのでコピー代はいらないと考えている」としている。
◆豊川・幼児連れ去り公判では時給487円
法テラスによるコピー代金の肩代わりの維持を愛知地方事務所幹部が求めた背景には「国選弁護人への報酬があまりにも低い」との指摘が弁護士の中からあるからだ。
報酬は、地裁の単独事件で、実質的な公判の開廷数が3回以上の場合は最大で8万4000円。200枚までのコピー代金も含んでいる。
愛知県豊川市で2002年、幼児が連れ去られ海岸で水死体で発見された事件。殺人罪などに問われた被告の国選弁護を担当した名古屋市の弁護士の一審裁判の支出は、心理鑑定費用35万円やコピー代金16万円などで計約72万円。
報酬は弁護士1人当たり40万円とコピー代金の実費支給で赤字ではなかったが、時給に換算すると、487円。裁判所から法テラスに国選弁護人のあっせん機関が代わるのと同時に報酬基準が改定されたが「前より2割ほど減った」との指摘もある。
愛知県弁護士会のある弁護士は「来年から被疑者段階で国選弁護人が必要となる事件の枠が広がり、弁護人の負担はさらに増す」と指摘。「司法改革の一環で弁護士が増えて競争激化が予想される状況で、赤字になる可能性がある国選弁護を引き受ける弁護士が地域によってはいなくなってしまう恐れもある」と訴える。】
弁護士を増やすだけでは充実した法的手続きを浸透させることはできない。法的手続きに必要な費用に対する公的な援助(リーガルエイド)を充実させなければならない。
しかし、実際には、法を身近なものにするという触れ込みで法テラス(法務省管轄)ができた後、刑事弁護費用で明らかなとおり、リーガルエイドは縮小しているのが実態だ。
※1:http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2008033102099696.html
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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