1 日本製鉄社員の就活セクハラの報道
6月2日に近鉄HDの人事担当社員の就活セクハラが大きく報道されましたが、6月19日、日本製鉄の人事担当社員が入社予定の女性に性的関係を迫っていたとの報道がありました。
毎日新聞によると、日本製鉄の人事担当社員は、入社予定の女性と会い、その時に別の採用予定の女性の名前を挙げて、「(その女性が性的関係を)断ったら内定取り消しだよ」などと話したということです。入社予定の女性は大きなショックを受け心労で入社できないということです。
2 就活セクハラの被害実態はきわめて深刻
(1)就活生の4人に1人はセクハラ被害
このような相次ぐ報道に驚く人が多いと思いますが、最近実施された厚労省の「就活セクハラ実態調査」の結果からみれば、この被害は氷山の一角で、これくらいの数しか表にでないこと自体を考えなくてはいけないのです。
厚労省は、2021年3月、就活・インターンシップ経験者1000名を対象に「就活セクハラ実態調査」の調査結果を発表しました。この調査結果は新聞でも報道されているのですが、実に25.5%もの男女学生が、就活セクハラ被害を受けたと回答しています。これは学生の「4人に1人」は就活セクハラ被害を受けているということになります。
ごく大雑把ですが、最近の大卒者が概ね60万人ですから15万人近くの学生が被害を受けているということになります。
(2)セクハラ被害のうち「性的な関係の強要」は9.4%にも及ぶ
就活セクハラの被害内容としては、「性的な冗談やからかい」(40.4%)だけでなく、「食事やデートへの執拗な誘い」(27.5%)、「不必要な身体の接触」(16.1%)がきわめて多く、さらに、報道されている近鉄社員や日本製鉄社員のような「性的な関係の強要」が9。4%もあるのです。
このような深刻な被害を受けた結果として、「眠れなくなった」(18.4%)、「学校を休んだ」(14.5%)だけでなく、「通院したり服薬をした」(11.8%)、さらには「入院した」(3.9%)という大きな心身の影響が生じています。
3 就活セクハラが表に出ない理由
(1)被害者は「何をしても解決にならないと思ったから」と泣き寝入りをしている
就活セクハラはこれだけの被害実態があるのに、なぜ表に出ないのでしょう。それは厚労省の調査結果から明らかです。
調査結果では、就活セクハラを受けての行動として最も多いのは、「何もしなかった」(24.7%)で、その理由は「何をしても解決にならないと思ったから」(47.6%)が最も多いという結果が出ています。このような泣き寝入りするしかないという実態が、被害者から声が出ない理由です。こうしてほとんどの被害が表に出ないのです。
(2)すぐに「就活セクハラ防止対策法」制定を
被害者にこのような思いを抱かせ、声が出せない状況を作っているのは、ひとつには、大学が被害に対して毅然とした対応をしないことに原因があります。学生が大学のキャリアセンターや学生相談窓口に相談しても、大学が動いてくれないのでは失望する結果になるだけです。
それよりも、この就活セクハラの泣き寝入りの最大の原因は、就活セクハラに対する防止対応体制が全くないことです。その体制として最も必要なものは、被害を防止し、被害者を守るための法律です。パワハラ防止法が制定されるときに、事業主に就活ハラスメントに対する防止対応体制を義務付けることが強く主張されました。しかし結果としては、指針でその防止と対応について触れられただけで法制化はされませんでした。
このような就活セクハラの被害実態からすれば、すぐにでも立法対応を始めなければ、被害者はいつまでも泣き寝入りを強いられ、毎年次々と被害が起きてしまうでしょう。
厚労省は、自ら調査し、これだけ被害も報道されているのですから、すぐに立法措置をとるべきです。