今年1月21日、高松高裁は、高松市の市立中学の教員(51歳)が、顧問をしている部員の女子生徒と、校内及びホテルで性交等をさせるなどの淫行をさせそれを撮影して児童ポルノを製造したことなどについて、一審の高松地裁の懲役1年8か月の実刑判決を破棄し、懲役3年、執行猶予5年の刑を言い渡しました。
この判決は、新聞、テレビ等で報道されましたが、判決文が判例検索に出ましたのでこの判決について考えてみたいと思います。
判決文によると、この裁判は、高松市の市立中学の教諭であった被告人が、顧問として指導していた部活動の部員であった女子生徒に対し、その立場を利用し、校内やホテルで性交等の淫行をさせそれらの場面を撮影して児童ポルノを製造したことや、17歳の女性との性交場面を撮影した児童ポルノを所持したことについて児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノ禁止法違反として起訴されたものです。
一審の高松地裁は、本件犯行は強い非難に値するとして、被告人と女子生徒間で300万円を支払って示談が成立していることや、懲戒免職処分を受けていることなどを考慮しても、執行猶予は相当ではないとして懲役3年の求刑に対して懲役1年8か月の実刑判決を言い渡しました。
しかし控訴審の高松高裁は、①一審判決後、教職とは全く異なる職場においてまじめに勤務し、勤務先の会社が被告人の雇用を継続したい旨の希望を述べるなど更生の意欲を強く示していること、②被告人と17歳の女性間で30万円を支払って示談が成立していること、③同種事案の量刑傾向、を併せ考慮すると、執行猶予が相当として一審判決を破棄し、懲役3年、執行猶予5年の刑を言い渡しました。
もちろん判決に現れない事情があるかもしれません。しかし中学校の教員として、部活の顧問として生徒の健全な成長を支えなければならないのに、中学生という判断力の未熟さに乗じ、自分を尊敬していたことを利用して性交等の淫行を、ましてや校内やホテルでさせたことは極めて強い非難に値します。この犯行は、真剣に中学生を教育し、また顧問として指導をしている中学校の先生の名誉も傷付けるものでもあります。
このような刑事責任の重さからすると、控訴審での①や②の事情は、執行猶予にするだけの事情かどうかという点で疑問です。この点からすると、裁判所は①や②よりも③を重視したのではないでしょうか。
③というのは類似事犯の量刑です。今までの判決と比較して、重すぎないように軽すぎないようにという考慮です。しかしこのような考慮をしているのでは、それまでの判決の「量刑傾向」はいつまでたっても変わることはありません。
わいせつ教員による被害の深刻さとその防止が強く叫ばれ、わいせつ教員対策法も成立するに至っているという現状を考えれば、裁判所はそれまでの判決の「量刑傾向」をそのまま踏襲するのではなく、被害実態、社会一般の意識などを踏まえた量刑に踏み出すべきではないでしょうか。
またそのためには、個々の事案について、わいせつ教員による犯罪の公判担当の検察官には、被害児童生徒の心身に対する長期的影響などについての専門家の所見などをもっと証拠として請求すべきだと思います。少なくとも、示談が成立したから執行猶予というような安易な結果になることは避けなければなりません。わいせつ教員の刑事裁判も変わる必要があると言うべきです。