2021年4月23日に、隣家の庭の池のカエルの鳴き声が騒音に当たるかという裁判で、東京地裁が原告の請求を棄却したことが報道されました。
報道の中には、カエルの声が自然音だからというものがあります。判決文を読まないと断定できませんが、隣人間の騒音訴訟では、裁判所は、受忍限度を超えるかどうかを判断基準にしていますので、自然音というのはその判断の一事情にしか過ぎないと思います。
池の所有者がわざわざ飼っているのではなく、そのカエルがどこからかやってきて棲みついたということなら、自然ということにはなりそうです。しかし、仮に何百匹も大量のカエルが生息するようになって一日中鳴くとなれば、自然音であっても受忍限度を超えるでしょう。
隣家の動物の騒音裁判ということになると、最も多いのは飼い犬の騒音裁判でしょう。もちろん飼い犬の鳴き声は、自然音とはいえませんが、どんな判決が出ているでしょうか。
判例集や判例検索によると、これまでの裁判例は、
▽大阪地判平成27・12・11
▽東京地判平成21・11・12
▽東京地判平成22・8・30
▽東京地判平成7・2・1
▽京都地判平成3・1・24
▽横浜地判昭和61・2・18
などがあります。
この中で、大阪地判平成27・12・11(判例時報2301号103頁)のケースを紹介しましょう。
このケースは、原告と道路をはさんだところの被告宅の庭で飼っている犬が、深夜早朝を含め日常的に鳴き、原告がそのために抑うつ状態になったとして損害賠償を請求したものです。
裁判所は、犬の鳴き声が昼夜を問わず平均約64デシベルにもなるのは受忍限度を超えるとして被告の損害賠償責任を認めました。そして原告の抑うつ状態は犬の鳴き声が原因であるとして、慰謝料25万円と医院の治療費のほか、騒音測定のための録音機購入費用も損害と認定して、被告に合計約38万円の損害賠償の支払いを命じています。この裁判の判断基準は受忍限度です。
この裁判では、原告が再三、被告に犬の鳴き声の苦情を述べていたにもかかわらず、被告が適切な対応をしなかったことが慰謝料額に反映しています。しかしそれでも慰謝料はあまりに低額です。これでは、裁判で時間と費用をかけるくらいなら、自分が引っ越すしかないと思う人が出てきても不思議はありません。
いまの裁判制度は被害回復のために機能していないのです。