山口童話 

山口弘信作成の童話です。

大酒のみの花よめさん

2020-07-30 06:58:40 | 童話

令和2年7月30日 富山新聞掲載

 

 

大酒のみの花よめさん

 

 

 氷見市内のある大地主の家に、石川県の能登の大しょう屋からおよめさんが来ました。

 大地主の家は、戦国時代から何十代もつづいてきた旧家でした。

 自動車もない明治時代のことです。

およめさんは真っ白の花よめいしょうに角かくしをして、馬に横すわりで乗っています。馬の胸には 赤いつながつけられ、それにスズがついています。歩くとシャンシャンシャンと音がします。

よめ入り道具は十台の大八車に乗せられています。おおぜいの人足たちは そろいのはっぴを着て、にぎやかに歌を歌いながら 大八車をひいています。

およめさんの一行は、山をこえ、一日がかりで大地主の家に、とうちゃくしました。

夕方から大地主の家で、お祝いのえんかいが始まりました。

村じゅうの家々から、人々が集まり、広い大地主の家も満員です。

およめさんを正面中央にすわらせ、歌やおどりを交えて、夜をとおしての酒もりです。

およめさんは、お酒をすすめられるままに、ぎょうぎよく飲んでいる すなおな人と思われていました。

花むこさんは、これまで一度も花よめさんと会ったことはありません。今日、はじめて自分のよめさんを見ることができるのです。

 しかし、およめさんは角かくしを、深くかむっているため、ほとんどその顔は分かりませんでした。

 およめさんも、どの人が自分の夫になる人なのか、えんかい中には分かりませんでした。

 朝方になると、村の人びとが少しずつ、帰り始めました。

 およめさんについてきた人足の方々は、遠い山道を歩いてきたことと、お酒を飲んだことが重なり、よいつぶれて、ねむりこんでいます。

 えんかいが終わり、その家に最後まで残っていたのが、むこさんでした。

 それ以後、よめさんとむこさんは、朝、昼、夕食のときに、かかさず酒を飲んでいました。

年月がけいかし、大地主の家は むこさんとよめさんの時代となりました。

よめさんは、かたときもお酒のビンを はなさないで持ち歩くようになりました。

 お人よしのむこさんと大酒のみのよめさんは、周囲の人々に「あの田んぼをゆずってくれ、この山林を分けてくれ。」と言われ、分け与えました。

 ざいさんは、ほとんどなくなりました。

「このままでは、自分のために、伝統のある大地主の家が、つぶれてしまう、どうしたらよいか。」と、よめさんは なやみました。

思いついたのは、庭にわき出ている水を使って、おいしいお酒を造ることでした。

「あなた、もっとおいしいお酒をつくりたいの、いいかしら。」

「ああ、好きにしていいよ。」

酒を飲むのを忘れて、おいしいお酒造りに、打ち込みました。

そのかいあって、できたお酒は 誰が飲んでもおいしいものでした。大地主の家は、造り酒屋として、大いに栄えていきました。