平成27年4月9日 富山新聞掲載
白蛇の恩返し
日本が、太平洋戦争を始めるだいぶ以前に、高岡市伏木矢田の、お百姓さんの家にあった、本当のお話です。
そのころ、日本の村人たちの間に、食事事情と栄養に対する知識不足から、脚気になる人が、大勢居りました。
脚気は、ビタミンの不足から、かかる病気で、足がむくみ、だるくて、歩けなくなる病気です。
ひどい時には、それがもとで死んでしまうこともありました。
ある天気の晴れた日に、矢田のお爺さんが、山の畑に仕事に出かけました。
すると、白蛇が大きな鳥に襲われて、大きな切り株の上に、鳥の鋭い爪で押さえつけられ、必死に体をくねらせて、逃れようとしていました。
しかし、逃れることができずに、今にも食べられてしまいそうでした。
お爺さんは、白蛇がかわいそうになり、大声で「こらー、何しとる!」と叫び、持っていた柄の長い草刈鎌を振りかざし、大きな鳥を脅したところ、大きな鳥はビックリして、白蛇を、そこに置いたまま、どこかに飛び去ってゆきました。
白蛇は、少しの間、そこに残って、お爺さんを見ていました。
その眼には、涙がいっぱい溢れていました。
しばらくして、白蛇は、何度もお爺さんを振り返りながら、藪の中に消えて、見えなくなりました。
その晩、お爺さんの家に、旅の尼僧が訪ねてきて、一晩泊めてくれるように、と頼まれました。それまでも、その家では、しばしば、旅人とか、托鉢修行のお坊さんとかを、お泊めすることがあったのです。
その尼僧さんを、お泊めしてあげたところ、その尼僧は、その家のお婆さんに、「脚気を治す灸を教えてあげましょう」と言って、親切、丁寧に教えて、いつの間にか、いなくなっていました。
次の日の晩に、お爺さんの夢に、白蛇が現われて、「昨日泊めていただいたのは,助けていただいた私です。この方法で治療すれば、脚気は治りますから、脚気で苦しむ人々をなおしてあげてくださいね」と告げられました。
それから、お婆さんは、脚気で困っている人に、その灸をやってあげると、皆さん、たちまち元気になり、その評判が、村を超えて周辺に広がり、沢山の人が灸の治療を求めてくるようになりました。
歩けなくて、リヤカーで運ばれてきた人も、帰りには、しゃんしゃんと歩いて帰るほどによくなりました。
こうして、長い間、脚気の患者さんを治し、喜ばれてきましたが、近年、治療に対する規制が厳しくなり、無許可治療が認められなくなり、その治療も終わりました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます