山口童話 

山口弘信作成の童話です。

野良犬ボロ

2024-02-22 22:45:19 | 童話

 

令和6年2月21日富山新聞掲載

 

     野良犬ボロ  

 野良犬が村の無人の神社の床下に住んでいました。

 子供たちが、この神社の境内で三角ベースの野球をしていると、いつも顔を出しています。この犬の毛がボロボロになっていることからボロと呼んでいます。神社のまわりが雑木林です。ボールがそこに飛び込むと、ボロが走ってひろってきてくれます。

 秋になりました。山のアケビがちょうど食べごろです。

 村の人々がさわいでいます。

「トクさんとこの、ハナちゃんが山で行方不明になって、いまだにどこに行っちゃたのか、わからないのだって」

「ハナちゃんは、昨日、パパとママとお兄ちゃんと四人でフカダニへ、アケビ取りにいったんですって」

「アケビ取りに夢中になっていたため、ハナちゃんがいなくなったことに気づかなかったらしいよ」

「ハナちゃんは、三歳だから、そんなに遠くには、行っていないと思うよ」と、村の人々が言っています。

 警察や消防団や村びとたちが総出でハナちゃんをさがしました。しかし、ハナちゃんは見つかりません。行方不明になってから三日がたちました。

「ボロにさがしてもらえば、どうかなあ」と、子供の一人が提案しました。

「あんなボロ犬に、さがせるわけないじゃないか」と、大人たちが賛成しません。しかし、一人の子どもがボロを連れてきて言いました。

「ハナちゃんが、三日前から、山で行方不明になって、みんな困っているんだ。さがしてちょうだいね」

 ボロは、一匹でフカダニにやってきて、オオカミのように遠ぼえをしました。

「ウォーオーオ、ウォーオーオ、だれか女の子をしらないかー」

 子づれのイノシシが現れました。

「ウォッ、ウオッ、ウオッ、私たちの巣の中にいますよ」と、言いました。

 ボロはさっそく、イノシシとともに巣に向かいました。そこにハナちゃんがいました。ボロは背中にハナちゃんを乗せて、みんなのいる村に帰ってきました。

「このボロ犬がハナちゃんを隠していたんだな」と、一人の村人が言いました。そして、おなかを足でけりつけました。

「キャン、キャン」と、ボロは悲鳴をあげながら神社の床下に逃げ込みました。その様子を見ていた新聞記者が、ハナちゃんに今までどうしていたの、ときいています。ハナちゃんは、イノシシのことや、ボロがむかえに来てくれたことを話しました。

 ボロは、新聞記事になり、ボロを飼いたいという人もたくさんいました。ボロは年をとっていたことと、腹をけられたことで、亡くなってしまいました。

 ボロの生前に、ボロのために使ってほしい、というお金が多く寄せられました。そのお金で、神社の境内に、ボロの銅像がつくられ、子供たちによって、毎年、慰霊祭が行われています。


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