令和6年2月21日富山新聞掲載
野良犬ボロ
野良犬が村の無人の神社の床下に住んでいました。
子供たちが、この神社の境内で三角ベースの野球をしていると、いつも顔を出しています。この犬の毛がボロボロになっていることからボロと呼んでいます。神社のまわりが雑木林です。ボールがそこに飛び込むと、ボロが走ってひろってきてくれます。
秋になりました。山のアケビがちょうど食べごろです。
村の人々がさわいでいます。
「トクさんとこの、ハナちゃんが山で行方不明になって、いまだにどこに行っちゃたのか、わからないのだって」
「ハナちゃんは、昨日、パパとママとお兄ちゃんと四人でフカダニへ、アケビ取りにいったんですって」
「アケビ取りに夢中になっていたため、ハナちゃんがいなくなったことに気づかなかったらしいよ」
「ハナちゃんは、三歳だから、そんなに遠くには、行っていないと思うよ」と、村の人々が言っています。
警察や消防団や村びとたちが総出でハナちゃんをさがしました。しかし、ハナちゃんは見つかりません。行方不明になってから三日がたちました。
「ボロにさがしてもらえば、どうかなあ」と、子供の一人が提案しました。
「あんなボロ犬に、さがせるわけないじゃないか」と、大人たちが賛成しません。しかし、一人の子どもがボロを連れてきて言いました。
「ハナちゃんが、三日前から、山で行方不明になって、みんな困っているんだ。さがしてちょうだいね」
ボロは、一匹でフカダニにやってきて、オオカミのように遠ぼえをしました。
「ウォーオーオ、ウォーオーオ、だれか女の子をしらないかー」
子づれのイノシシが現れました。
「ウォッ、ウオッ、ウオッ、私たちの巣の中にいますよ」と、言いました。
ボロはさっそく、イノシシとともに巣に向かいました。そこにハナちゃんがいました。ボロは背中にハナちゃんを乗せて、みんなのいる村に帰ってきました。
「このボロ犬がハナちゃんを隠していたんだな」と、一人の村人が言いました。そして、おなかを足でけりつけました。
「キャン、キャン」と、ボロは悲鳴をあげながら神社の床下に逃げ込みました。その様子を見ていた新聞記者が、ハナちゃんに今までどうしていたの、ときいています。ハナちゃんは、イノシシのことや、ボロがむかえに来てくれたことを話しました。
ボロは、新聞記事になり、ボロを飼いたいという人もたくさんいました。ボロは年をとっていたことと、腹をけられたことで、亡くなってしまいました。
ボロの生前に、ボロのために使ってほしい、というお金が多く寄せられました。そのお金で、神社の境内に、ボロの銅像がつくられ、子供たちによって、毎年、慰霊祭が行われています。
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