令和2年2月27日 富山新聞掲載
猟師とイルカ
波うちぎわに、傷を負ったイルカが、打ち上げられています。
漁師のタモキチさんが、朝早く海辺に行きました。そこに、背中をイルカ漁に使用されるモリによって、大きく切りさかれたイルカが横たわっていました。
漁師が近寄ってもピクリともしません。
漁師は、今日はイルカが手に入った、しめしめと思って喜んでいました。
イルカの肉は、珍しいから高く売れる。ひさしぶりに酒を飲めるな、とニコニコ顔です。
イルカを荷車に乗せ、自宅へ運んでいると、「助けてください、お願いします。」という小さな声がかすかに聞こえました。
漁師があたりを見回しましたが、ほかの人はいません。
もしかしたら、イルカがしゃべったのかと思い、耳をイルカに近づけました。すると、泣きそうな小さい声で「助けてください。」と言いました。
漁師はびっくりして、どうしたらよいかわかりません。とにかく、家に急いで帰り、傷口を白い布できつく巻いて、血が流れでないようにしました。
身体には、ムシロをかぶせ、かんそうを防ぐため,時々、水をかけました。
口から水を与えました。少しのみました。
数日たつと、チョットだけ元気になったので、小魚を与えると、食べてしまいました。
漁師は、イルカをイルチャンと名付けました。水をあげるときや、小魚を与えるときに名前を呼びながら、与えていました。
家の中を、胸ヒレを使って、はい回れるくらいに回復したので、海にもどすことにしました。
来たときと同じく、荷車に乗せて運びました。
海辺につくと、漁師がイルチャンに言いました「もう人間に近づかないほうがよいよ。私だって、お前を肉として、売ってしまおうとしていたのですよ。また、モリを投げられて人間に捕まってしまいますからね。」
「タモキチさん、助けてくれてありがとうございました。ほかの人には近づきませんが、タモキチさんには、ときどき会いたいです。」イルチャンはそう言うと、海に入ってゆき、大きくジャンプして、空中で三回転をしました。後ろを何回もふりかえりながら、沖の方に消えてゆきました。
次の日、タモキチさんが、いつものように朝早く、海辺に行くと、イルチャンが大喜びでジャンプして迎えてくれました。
その後は、タモキチさんのアミに、イルチャンが魚を追い込み、大漁の日が続きました。
しばらくすると、イルチャンに子供が生まれ家族が出来ました。家族みんなで人間の漁に協力をしています。
この海辺では、イルカを捕まえたり、いじめたりする人は誰もいなくなりました。
タモキチさんとイルチャンとの共同の漁法が、時代が経過して、令和の時代になっても、イルチャンの子孫のイルカたちによって受けつがれています。
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