【申告】
・ジュース選択レバーを下ろせないです。
・時々、コインを入れてもジュース選択レバーが下ろせません。
【初診】
10年程前のおもちゃです。コインを入れて選択レバーを押すと、アンパンマンの顔のまわりのLEDが点滅してルーレットが回ります。
内部を開けるとジュースを補充できます。
選択レバーが押し下げられると同時にジュースレバーが押されジュースが出てきます。
症状を確認すると、フリーレバーをスライドさせるとコインを入れなくてもジュースがでてくる仕組みですが、左の選択レバーを下げても完全に元に戻りません。また、その後コインを入れてもどの選択レバーも下げる事ができません。
内部を開けていきます。
開けてびっくり、ドキンちゃんが現れました。どなたかが既に中を開けた痕跡があり、おそらくその時にドキンちゃんを背景の後方に隠してしまったのでしょう。そのため、ドキンちゃんの選択レバーが完全に戻らない状態になった可能性があります。しかし、何故内部を開けなければならなくなったのでしょうか?そこには何か病気があって開けたと思われますが。
背景と切り離し動作を確認しましたが、やはりドキンちゃんが完全に戻りません。途中で止まってしまっています。
まず、正常な時の動きを確認です。
ロックバーが固定されている状態では、ロックバーにある突起部と選択レバーの爪位置がずれるため、選択レバーは押し下げることができます。
他方、ロックバーが固定解除されている状態では、ロックバーにある突起部と選択レバーの爪位置が重なるため、選択レバーは押し下げることが出来ません。
ロックバーとロックバー復帰プレートの関係は、相互に爪がありコインが挿入されるとロックバーが押されてロックバー復帰プレートの爪と噛み合います。
ロックバー復帰プレートは、バイキンマン側にトーションバネでロックバーに押しつけられています。いずれかの選択レバーが押し下げられると、爪の噛み合いが離されロックバー復帰バネでロックバーが押し戻さるのです。
動作のシーケンスがわかったところで、ドキンちゃんの選択レバーが戻らない原因を検討します。
ドキンちゃん、アンパンマン、バイキンマンのそれぞれの選択レバーの戻される力を比較すると、ドキンちゃんが最も弱いことが指の感覚でわかりました。
そこでまずは、選択レバーに組み込まれている押しバネに違いがあるか確認しましたが、有りませんでした。
次に選択レバーは、基本的には2本のネジで外れないようになっていますが、雌ねじのボス高さの方が高いので直接締め付けられてはいません。しかし、ロックバー復帰プレートのバイキンマン側にトーションバネがあり、経年変化でわずかながらドキンちゃん側がロックバーとの間隔が開いているように感じます。
選択レバーを押し戻す力は、選択レバーに組み込まれている押しバネとロックバー復帰プレートのトーションバネの力によるものです。残るは、ドキンちゃんの選択レバーの摺動を妨げる負荷の有無です。2本のネジの内下側を半回転ネジを緩めると、途中で止まる事も無く戻ることが確認出来ました。全体的な樹脂の変形でしょうか。
下側のネジ周りの選択レバーに削れた痕跡があるのですが、動かない状態で無理に押し込んで付いたものか、経年変化で徐々に付いたものかはわかりません。
これで解決かと思いましたが、コインを入れてもロックバーが押し切れず選択レバーを押し下げられない病状があることに気がつきました。
この原因は、コインの投入口にあるコインガイドとコインの形状に起因しています。コインには、事故防止のため中央に穴が開けられています(*1)。これがコインガイドにはまるとコインの状態が傾き、ロックバーに対し逃げるような状態となり押し切れない状態になることがわかりました。そのため、コインが確実にロックバーを押すようにコインガイドを追加し、さらにロックバーに薄板を貼付しました。
これで、コインの姿勢が安定してロックバーを押し込めるようになりました。
最後にドキンちゃんも見えるように組み立て直して、治療の終了です。
【治療後記】
既に内部を触られていたので、治療しにくい状態の患者さんでした。また、一部回転軸部に亀裂が入っていましたので接着補強を施しました。
今回自動販売機の患者さんでしたので、調べる中で色々なメーカで色々な自動販売機があり、どれも個性のあるものでおもしろく感じました。
これからも、楽しく遊んでください。
【おまけ】
*1:3歳未満のこどもの誤飲防止
最近の話として磁力の強いものを消費者向けに製造・販売することが6月19日から禁止となりました。これと同様に小さな部品や小さな球には特に誤飲事故があります。
色々な基準がありますが、今回のコインには中央に大きな穴が開いています。これは、もし誤ってコインが喉に入っても気道が閉塞され窒息しない工夫として開けられているものです。
現在日本には、STマークという安全なおもちゃの基準に合格したマークがあります。是非、小さな子どもさんにはこのSTマークと対象年齢を確認して事故が少しでも起きにくいように、起きても致命傷にならないようにしてあげたいものです。
ST(Safety Toy) マークは、検査機関の検査に合格(ST基準に適合)した玩具に付けることができるマークです。
「安全面について注意深く作られたおもちゃ」として玩具業界が推奨するものです。
詳しくは、一般社団法人 日本玩具協会のHPですので参照してください。