新型コロナウイルス感染症(武漢ウイルス感染症Wuhan acute respiratory syndrome: WARS)の流行は更に高まっている。医療関係者は医療崩壊だと叫び続け、マスコミや野党は政府の悪口喧伝に明け暮れた。そして遂に、2021年1月7日、緊急事態宣言が再び発出された。市民は行動を制限し、一部の店舗は閉店の憂き目にあう。しかし、欧米に比べれば患者数や死者数は1~2桁低いことを見てか、人流はあまり減っていない。ここに違和感がある
医療崩壊の虚実
医療崩壊といえば、WARS患者の対応に奔走する現場、消耗している医療スタッフの表情や言葉が取り上げられる。しかし実際には、殆どの病院は通常とおりである。医療崩壊だと怒鳴る医師会長の診療所ではWARSを診ていない。WARSを診る病院でも、担当部門以外はほぼ平常である。事実、最も患者の多い東京都でも、入院患者数は重症が約200人、他が約3000人である。これは2千ある全ICUの10%、10万ある全病床の3%程度である。つまり、報道されている「悲惨な」医療崩壊は確かにあるが、医療全体がそうだというのは虚像である。では、崩壊の実像は?
医療崩壊-WARS患者が診てもらえない
WARSの診断を受けても入院できない事態が頻発している。病床数が足りないのである。WARS患者は隔離が必要で、病室を別に確保する必要がある。感染対策にも手間がかかり、看護負担は3倍以上であろう。しかも、その看護師は感染症対応に習熟し、不安に耐える精神力が必要である。重症者の看護では、人工呼吸器の管理ができなくてはならない。病床があれば済むものではない。この条件下で患者数が急増すれば、対応が間に合うわけがない。入院調整の現場では厳しい電話のやり取りがなされる。入院できないまま呼吸不全で死亡する例も出ている。
医療崩壊-WARS以外の患者が診てもらえない
WARS以外の疾患の患者も、治療の機会を失いつつある。多くの病院では通常診療に努めている。しかし、WARS診療に人手を割けば手薄になる。WARS診療をしない病院でも、すべての患者にWARSを疑う必要があり、その分診療の効率が落ちる。また、防疫体制を整えていても、病院でクラスターが頻発している。この感染を恐れて、患者が受診を控える。がんなどの重大な疾患の早期発見や治療の機会が失われている。WARSの重症患者でICUが満室となれば、心筋梗塞などの緊急を要する致死的な疾患に対応できない。その結果、みすみす死亡する患者も出てくる。
医療崩壊―医療機関が経営破綻する
WARSに取り組む医療機関の多くは、収益悪化に陥っている。まずは感染を恐れた患者の受診抑制から、収支が悪化する。更にWARS診療に取り組めば、人員転属や病床転用などにより他の疾患の診療が制限される。これに対して、WARS診療に要する機材の供給、空床の補償、患者受け入れ謝金などの支援策が講じられ、診療報酬にも加算が設けられている。しかし、これらを合算しても、例年の収益を維持できない。WARS診療に特別手当を出せないどころか、賞与を減額せざるを得ない。職員の処遇低下が長期化すれば、経営破綻が見えてくる。
今どうすればいいのかー感染予防
今の流行は昨年と位相が異なる。ウイルスが野に放たれ常在化した。その結果、患者が急増し医療機関の負担が過大となった。ワクチンの実用化も間に合わない。そこで、伝家の宝刀である緊急事態宣言の発出となった。しかし、日本では幸い流行の程度が比較的軽く、相対的に宣言の副作用が大きくなる。感染症対策は予防が基本である。感染予防は、要するに飛沫の抑制である。家庭内や飲食店での感染が問題なら、家庭内を含めたマスクの常時着用、飲食の個食化(アクリル板での完全遮断)などを講じれば、移動や集会、飲食店の営業も可能になる。
今どうすればいいのかー検査と隔離
PCR検査を広く行う作戦もある。医療機関や学校などの職員には定期検査を行い、エベント参加者には(例えば)2日以内の陰性証明を求める。費用は公費でもいい。しかし、事ここに至っては、膨大な数の検査の陽性者(感染力のない陽性者も含む)に対するのは容易でない。今でも2類扱いで感染者の追跡や隔離措置を行っている。そこに業務の上乗せは無理である。であれば、WARSの病原性の強さ(弱さ)や蔓延状態(常在化)を踏まえ、2類扱いを見直してはどうであろう。PCR検査もクラスター対策も、この期に及んでは労多くして益少なしである。その労力を他に傾注する方が合理的である。
今どうすればいいのかー医療体制
一方で、死に至る重症者の医療体制を強化することは必要である。昨年の患者数ならICUの一部転用で対応できたが、今は無理である(ほかの医療が成り立たない)。医師会は、医療崩壊を叫ぶ暇があれば、重症者や(重症予備軍の)中等症者の急増に備えた体制を築いておくべきであった。中国のようにWARS専門の病院を急ごしらえで新築するのは、日本では現実的でない。行政命令で公立病院の一部を転用し、その役に供するのが合理的である(東京都ではそうした)。公的・民間病院に依頼するならば、十分すぎる支援金を提供することが前提である。
今どうすればいいのかーまとめると
緩和すべきは、緊急事態宣言と感染症2類対応である。緩和により感染者は増加するが、ウイルスが常在化した今となっては、今の方法で長期戦は戦えない。ワクチン接種が始まれば、感染者の増加は抑えられる。一方推進すべきは、基本的な感染対策の徹底と重症者の医療体制である。つまり、国民は風邪と同じ対策を強化し、マスクや手洗い、個飲食、接触の回避、体調不良時の早期受診などを徹底する。一方で一部の病院をWARS専用にして人員を確保し、発熱外来と特に重症者用の医療体制を整える。行政府は大がかりな仕掛けを考えず、個々の国民や医療者の現場力を恃み、必要な資金を提供すればよい。
この先どうすればいいのか
日本の医療体制は民間頼みで、感染症指定病院も限られている。だから、Pandemicに対応できなかった。災害時に頼りになる自衛隊にも限界がある。将来の流行再発に備え、行政権が及ぶ公立病院を中心とした非常時の制度設計が必要である。国民に対しては、感染対策や予防法に関する啓発・教育を反復・継続する。多くの産業は、WARS後の生活様式の変化に伴う淘汰圧に対し備えている。国が国民にすべきことは、強権的な刑事罰の導入ではなく、経済的困窮の救済である。併せて、感染症以外の危機管理の整備状況を広く見直すべきである。