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【人生の苦悩】(2) 性欲の重圧

2010-10-30 00:01:19 | 高森光季>人生の苦悩

 私は男です。言わなくてもわかっていると言われるでしょうけど、このテーマは、やはりあらかじめ断わっておかないといけないように思います。つまり男ゆえの偏見が入っていることを。
 性の問題は男からの見方と女からの見方は、かなり違うような気がします。

 人間は、たいてい、性の欲望を持っています。けれどもそのあり方は、男か女かによって、だいぶ様相と強さが違うらしいのです。
 性欲というものは、単に肉体的欲求ではなく、人間の根源的な何かに関連する深いものだと思います。そしてそれは、至上の喜びの源泉となることもあり、悲惨な地獄の導因になることもあります。
 その性欲の「のしかかり」方が、男の方がやはり強いように思うわけです。よくわかりませんけど、男の9割はこの問題について苦しむ。女性の方は? 6割だか3割だかわかりません。9割ではないでしょう。

 非難囂々になるのを承知で言えば、男はかなり「性欲の動物」です。男には、一つの「宿命」が掛けられています。それは、
 「経済力や政治力を獲得して、できるだけ多くの魅力的女性を獲得・支配すること」
という、ほとんど呪いのような命題です。
 これは人間の「獣」の部分に由来するのかもしれません。最近のしゃれた科学主義で言えば、「遺伝子の自己保存戦争」なのかもしれません。あるいは文化的刷り込みなのかも。まあ、そのあたりはどうでもよい。
 大半の男は、このために悪戦苦闘します。学校に行って勉強して、スポーツで体を鍛え、社会的なスキルを磨き、見映えにも気をつける。それはひとえに、「女を獲得する」ためです。できるだけ「いい女」を、本当はできるだけ「たくさん」(この部分はタブーとして表立って表明されることはありませんが)。
 この、単純で涙ぐましい「欲望」が、社会のほとんどを動かしている動力になっています。お金をもっと稼ごう、地位を得よう、権力を拡げよう。実はすべて「女を獲得する」ためです(ま、ちょっと極論ですが)。

 最近「草食男子」ということが言われています(実はもうだいぶ前から「インディゴ・チルドレン」として言われていたこと)。彼ら若い男たちのいくぶんかは、「あまり女を獲得する意欲がない」らしい。少なくとも伝統的な「いい女をたくさん」といった下世話な欲望はない。そうすると、お金や地位や権力を獲得する意味もなくなります。
 本当にそういうことが起こっているのか、その原因は何なのかは、よくわかりません。
 ともあれ、こうした男が増えていくと、おそらく、社会のエネルギーも下がってきて、停滞的な感じになっていくかもしれない(それが必ずしも悪いとは言えないけれど)。

 まあ、つまりこの世の中がこれだけダイナミックに動いているのは、実は男の性欲が原動力になっているのです。
 それだけ、男はつらい。おそらく大多数の男性は、思春期から、この「女を獲得するレース」に否応なしにぶちこまれるわけです。そして結婚して子供をもうけても、また別の女性の関心を買うため(実際に不倫をするかどうかは別として)、この強制レースは続くわけです。

      *      *      *

 この「性欲の重圧」がなくなったら、どれだけ人生は平和になるか。結構多くの男性がそう思った経験があるのではないでしょうか。私も若い頃、何度も思いました、はい。
 ただ、実際そうなっても、どうも平和な人生とはならないらしい。
 どうも、性欲がなくなると、生きる意欲というものも減少するらしいのです。2ちゃんねるの書き込みでも、「別に女性は求めない」といういわゆる引き籠もりの男性たちがいますが、彼らは逆に、「生きているのが面白くない」「早く死にたい」といった感想を持つことが多いようです。また、年を取って性欲が減退すると、鬱になるケースは非常に多い。私も正直、性欲が減退したら、理屈としては変だけれども、人生がかなりつまらないものに思えてきましたw
 とすると、「欲を去ると心の平静を得、叡智に近づく」といった現代仏教的な命題は、ちょっとあやしくなってきますね。欲を去ると、生きる意志が減衰し、そうすると、生存は鬱陶しく煩わしいものとなって感じる。欲望が燃えさかる苦はなくなっても、生存(最低限の生活)自体が苦になる。そんなことになったりするのではないでしょうか。
 フロイトさんは、性欲を人間の根源的な生命エネルギー「リビドー」と捉えたわけですけれども、確かに、性欲は、生きる意欲を支えるエネルギーと同根であり、好奇心や向上心はもとより、他者に関わろうとする意欲、他者を精神的に愛したり他者に奉仕したりする意欲をも、支えているということにならないでしょうか。
 このあたりははっきりわかりません。「生きる意欲、好奇心や向上心、他者に向かおうとする意欲」といったものは、「性欲」とは無関係に別に現われうるのか、それともそういう情熱と「性欲の強さ」は正比例するのか。
 後期タントラ密教なんかでは、悟りを得るために(?)、性欲を積極的に利用したりしていますね。セックスをしつつ、最後まで行かないようにしてエネルギーを溜めて、それをまあ、悟りだか脱魂だかに利用する、ということのようです(厳密には違うかも)。そんなことを考えると、やはり性欲は人間のあらゆる欲求のベースになっているものなのかもしれないとも思えます。

      *      *      *

 どうもそう考えると、性欲というのは、ジェットエンジンの燃料のような「超危険物」で、それをうまくコントロールすれば、豊かな人生や対人関係を築くことができるのだけれども、ちょっと扱いを間違えると、とんでもない大火災が起こってしまうようなものなのかもしれません。
 一人前の「オス」になって社会をダイナミックに動かそうとするのも、異性と親密でこの上なく繊細な愛情関係を築くのも、この「危険物」をうまくコントロールすることで可能になる。しかし、しばしば間違いが起こって、恐ろしい惨劇すら生み出す。
 実際、この世で起こっている悲劇・惨劇の多くは、性欲の扱い方を間違えたことによるものでしょう。人間は本当によく失敗するわけです。私もまたw
 それに、何とかうまく「ロデオ」ができたとしても、果たしてその人が性欲的に満足しているかどうかはわかりません。いや、そもそも「性欲的な満足」などというのはないのかもしれません。
 やはり性欲はつくづく厄介なもので、ほとんどの人間はその厄介さから逃れられない。失敗者は多く、そして完全な勝利者というものはまずいない。そういうものだとあきらめるしかないでしょう。

 ただ、性や愛情の問題で犯した過失は、無関係な人を憎悪したり、陥れたり、あるいは虫けらのように見なしたりして犯される罪よりは、まだ罪が浅いとは言えるかもしれません。人間は愛情ゆえに人やわが身を傷つける。それは人間の愚かさがなせる業、多くの人が犯す過ちであり、それもまた魂の成長のための苦い経験なのだと思えば、あまり苛酷に自らを責めるものでもないような気がします。
 そういう段階を抜けた賢者ならともかく、一部の若者のように、人と関わって傷つくのを恐れるあまり、映像やグッズで欲望を発散し、ごたごたする人生を回避するのは危険なこと。むしろ、傷つけ合っても、罪を犯しても、他者と関わろうとする方が、「魂の成長」の道にある人間にとっては、間違いなくよいことでしょう。
 誰かさんふうに言うなら、人間だもの、愚かだっていいじゃない、間違ったっていいじゃない、それで成長しようよ、と。


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1 コメント

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性欲は燃料 (Nowhere man)
2013-09-05 13:36:31
この文章は自分が今感じていることがそのまま書かれているのですごく共感しました。私も男です。

以前は自分の性欲が突然なくなるなんて思っていなかったので、なくなったら(あるいは弱くなったら)自分がどうなるかなんて考えもしませんでした。ところが、3年前に糖尿病になり、急に性欲が減退しました。初めはもっと深刻な症状が出ることを心配していたので性欲のことはそれほど気にしていませんでしたが、時間とともにこれは大変なことだと思うようになりました。

性欲は男にとっても女にとっても生きるための燃料なのだということを身をもって感じています。性欲がなくなることで生きる意欲そのものがなくなっていきます。何に対しても以前ほど関心、熱意、集中力がなくなります。人に会いたいとか、誰かと話したいと思うことも少なくなります。生きているのに死んでいるようなものです。少なくとも自
分の場合はそうです。

この問題についてネットで調べましたが、国籍を問わず何処の女性にも性欲減退は男性と同じくらい大きな悩みのようです。性欲がない女性は、下半身が死んでいるようだとか、生きる意欲がないとか私と同じようなことを言っています。結婚相手や恋人が正常ならば、性欲減退は別れの原因にもなり、それがまた他の問題を生みます。性欲がない人と一緒になりたがる人はまずいないでしょう。

人は誰も好きこのんで生まれてきた訳ではありません。気がついたら生まれていたのですが、その後人生でいろいろ苦労し悩んでも大抵の人は死を選ばず最後まで生きようとします。何故でしょうか?その多くの部分は、性欲を原動力としたいろんなことへの執着、愛着のためだと今は思うようになりました。ここで言っていることは、実際に性行為をするかどうかの問題ではなく、好きな人がいるかどうかの問題でもありません。それ以前のもっと根源的な話です。芸術や犯罪を含め、人間社会のあらゆることを性欲が動かしているのだと思います。

自分の原動力がほぼなくなってしまった今、死ぬまでの時間をどう過ごすべきか途方に暮れています。
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