それはまだ私が中学生の頃の実家での出来事。
隣の家との距離が数十メートル以上、周りは田と畑、山と川の自然豊かな地で育ちました。
ある夜、10時を過ぎ眠りに入った頃、一台の軽トラックが敷地に入ってきました。
”お母さんーいない”?
夜だというのに陽気な元気な声が玄関先から聞こえてきました。
うとうとしながら誰の声かすぐに分かり自分事ではないと布団を被りました。
すると母が突然私の部屋へ入って来て、
”さーちゃん、起きて。これから珍しいもの見に行かない?”
と急かしたので驚いて起きました。
田舎暮らしの中で、夜中に起こされ外出したのはあの時が初めてで最後でした。
急かされ母に起こされやって来たのは山を一つ越えたところに住むおじさまでした。
いつも陽気で笑いながら挨拶をされる田舎では珍しいタイプのおじさまでした。
こんな時間にお見えになった目的は、今にも月下美人が咲きそうだから是非私の家へ見に来てごらんなさい。というものでした。
パジャマ姿の私は年頃という事もあって、一度はごめんなさいと断ったものの、
愉快なおじさまはまた笑い飛ばして、今夜しか咲かず明日には枯れてしまう珍しい花だから貴重な体験になるよ。と、私と母を幸せのお裾分けと言わんばかりに軽トラックに乗せました。
おじさまの自宅には優しさしそうな奥さまが申し訳なさそうな顔で出迎えて下さいました。
ここだよと、おじさまが案内してくれた月下美人。
初めて見る月下美人。
薄明かりのもとで花びらは、絹のようななめらかな美しい白色をして、繊細ながらも光り輝いているさまに目を奪われました。
魅力的な美しい花びらを広げて一夜限りの命を力強く咲きほこり、吸い寄せられ引き込まれるような甘い香りを放っていました。
私は長い首の新生物と遭遇し異空間へタイムスリップしてしまった夢の中のような感覚でした。
おじさまがおもむろに取り出したカメラで私達親子と月下美人をパチリと撮ると
今度写真を持って行くからねと、家まで送り届けてくれたのでした。
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調べてみると、
艶やかな美人
儚い恋
儚い美
ただ一度逢いたくて
強い意志
秘めた情熱... etc
素敵な花言葉.....。
また、月下美人のお花は食用になるとは知りませんでした。
台湾では漢方とされているようです。
効能
風邪、口内炎、咳、喘息、肺炎、便秘、など
漢方としての効果もある月下美人、儚く咲きちりゆくも人へパワーを最後まで
与えてくれる素敵な植物、これから見ごろの季節がやってきます。
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今でも月下美人を見たり聞いたりすると思い出されるワンシーン。
本当に貴重な体験でした。