しょっちゅう自宅にも遊びに来て一緒にお風呂にはいったり、普通の子どもと同じように分け隔てなく接してくれた。
そんな「ヤマちゃん」は24歳の時に、試験を受けて競輪学校に入ってプロの競輪選手としてデヴューした。
それまで紆余曲折あって、悩んだ末の再チャレンジだった。
ギャンブルをしないオヤジは競輪場へ行ったこともなかったが、ときどき彼のお母さんと道であって近況を聞いてはいた。
逆三角形のムキムキの胸板と、爆発的にペダルを踏み込む丸太のような太ももで、金を稼ぎ夢を実現しているのだと思っていた。
数年前に店に来てくれた時、ちょうど「山中湖ロードレース」のエントリーをする時期で、その話しをしたらぜひ彼も参加したいとノッてきたので一緒にエントリーした。
しかしマラソン当日に彼の試合が入っていたため、プロ競輪選手の走りを見れずじまいに終わったのだった。
昨夜、フラッと「ヤマちゃん」が店にやって来た。
しかも、彼女と一緒に。
だが、ご無沙汰してますと言う顔を見ても誰だかピンとせず ? ? ? だった。
なんだ、このデブは
すっかり腹が出て、顔はパンパンで精悍さがないうえ、おまけにけっこう酔っている。
おいおい、自転車やめちまったのかぁ
ストレートに疑問を口にできないまま昔話しで酒を飲み、問わず語りに事情がわかった。
今年の4月に試合中に落車して、鎖骨を粉砕骨折してしばらく休養していたら、みるみるうちに6㎏も太ってしまったのだという。
その後も体重は落ちることなく、酒もタバコも止めずにおデブが定着してしまったらしい。
そんなカラダでレースができるのか ? 息が上がらないのか ? ボートレースのように体重制限はないのか ?
様々な疑問が口をつき、彼は照れながら、なんとかやっていると答えた。
バンクを全力疾走する時は無呼吸だから、タバコで息が上がることはないというが、2000メートルもペダルをこぐのに出っ張った腹がじゃましないのか、そりゃ~気になるだろう。
試合前には携帯電話は預け、外部と接触できないようにしてストイックに過ごすプロ選手なのに、プライベートはヘロヘロかよ
彼も30歳になり、早くもおっさんの領域に入ったか・・・。
すると思い出したように「ヤマちゃん」が、「山中湖ロードレース」に出たかった、あのとき「おぢさん」(ワシのことじゃ)と走っていたらこうはならなかったかもしれないとこぼしたので、今からだってやりゃあいいじゃないか、プロなんだからトレーニングの一環でいいじゃないかとけしかけた。
しかしイジワルなこのポンコツオヤジは、
「だけどその腹じゃな。それじゃぁオレには勝てないぜ」
と言ってやると、「ヤマちゃん」食いついてきた
「いや、おぢさんには勝てますよ。根性で最後の瞬間抜いてやりますよ」
「ほほう、プロは最後にまくるってか。でも42.195㎞をテメエの足で走って、それができるなら見せてもらおうじゃないか。持久系の競技をなめんなよ、ハーフまでなら負けるかもしれないけどさ、フルなら今のその腹のキミには負けないよ」
「・・・・・」
フン、勝負あった
腕組みして考え込んだ「ヤマちゃん」、しばらくして顔を上げると言った。
「半年時間をください。来年の4月か5月、どっかの大会で勝負しましょう」
あら、やる気なのね。
でもまた試合で流れちゃもったいないから、土手を海まで行って戻ってきて、今度は岩渕の水門で折り返してくりゃフルの距離になるからそれでいいんでないの。
証人には彼女とかあちゃんがいるし、それならオヤジに負けても恥ずかしくないじゃん。
そう提案したが、「ヤマちゃん」の決意は変わらない。
いっぱい人がいる前で、この何の取り柄もない素敵な色男のポンコツオヤジと勝負がしたいのだという。
わかったよ。
じゃあせっかくだから、師匠にも見届けてもらいたいし、ヤカラ3人衆にも同年代のプロの競輪選手がこのオヤジに完敗するところを見せつけたいし、計画しようじゃあ~りませんか。
彼が競輪のプロだとしても、フルマラソンを走ったことがない素人に正直負ける気がしない。
よしんば負けたとしても、息子と同じ年の男に遅れをとったところで痛くも痒くもない。
それより、生きる目標を作ってくれてこのクソオヤジはうれしいよ「ヤマちゃん」。
チャレンジこそ生きてる証しだぜ、「若さだよヤマちゃん !! 」と言って、サントリー純生をグビグビ、プハア~とやりたい。(この昭和なフレーズを知っているのは横浜方面の古の悪魔しかいないだろうなぁ・・・)
来年はまだ「熊本城マラソン」だけしか予定がないから、4月か5月ならちょうどいい。
燃えるぜぃ
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