お好み夜話-Ver2

愛人弁当

小僧は煮物好きだ。

放っておくと、鍋いっぱい作った煮物を平らげてしまう。

かあちゃんの煮物は美味い。

天草のばあちゃんゆずりだが、若いときからオヤジがうるさく注文をつけて、さらに磨きがかかったのだ。


かあちゃんは最近その煮物をタッパーに入れて、店に持って来ることがよくある。

気がつくと食洗機の横に、ちょこんと置いてある。

それは愛人弁当なのだ

かつては仙台の「バーバーくん」によく作っていたが、近頃はその時より頻繁で、しかも相手に連絡しないでいそいそと作っている。

「バーバーくん」によれば、相手の男は「ファンタスティックフォー」の岩みたいな顔をした野郎だ、とのことだが、そのとうりだとオヤジも思う。

だが連絡をしていないのだから、その相手の「ファンタスティックフォー」の岩みたいな顔をした野郎が店にやって来るとは限らない。

その野郎が現れないときは、持ってきた煮物をまた自宅に持って帰り、オヤジの夜のエサになるのだ。

自宅の鍋いっぱいの煮物は小僧に喰い荒らされ、残っているのはコンニャクのカケラか大根の切れっ端だけで、行き場のなくなった愛人弁当がなければ、オヤジは淋しい夜食をショボショボと食べるしかない


今夜もまた食洗機の横に、ちょこんと愛人弁当が置いてある。

しかし今夜は「ファンタスティックフォー」の岩みたいな顔をした野郎は、来ないと思うとかあちゃんに言ってやると、「それでも、いいの」などとほざいた。

ひええ~~~~っ、オヤジというハイソで知的で理想的なナイスミドルな旦那がいるというのにぃ・・・・・。

あの「ファンタスティックフォー」の岩みたいな顔をした野郎め

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