お好み夜話-Ver2

おいしい生の裏事情(第44夜 2007-08-12 10:03)

  
Tさんご夫妻は、昔千住の「飲み横」でスナックをやっておられた。
もう時効だから言ってしまうけど、18、9歳の頃、仲間とよく押しかけては好き放題し、酔っぱらって悪さをしても、少し困ったような顔で許してくれた。
だから、スナックをやめてもう何十年も経った今でも時々、Tさんに「マスター」と呼びかけてしまいそうになることがある。

いつもご夫婦で仲良くモグランポへ来てくれて、だいたいいつも同じものをたのまれる。
ご夫婦で生ビールをまず飲んで、「おたくの生はいつも旨いねぇ」と言ってくださる。
「これだけ美味しい生を注れるには、ちゃんと手入れしているってことだよね」
と、昔マスターだった方から、そのへんのことも理解してくださって、お誉めを頂くのはさらにうれしい。

また、あるご夫婦も、あるカップルも、
「ほかの店では生ビールは飲まないけど、おたくのビールは旨いからお替わりしちゃう」
と言ってくださる。
まじめに生ビールを注ぐオヤジにとって、これほどうれしい言葉はない。
バッカスの神もお喜びだ。

ビール会社の受け売りではないが、おいしい生ビールを注れる3つのポイントは、
1、鮮度管理
2、温度管理
3、衛生管理
それがあった上に、絶妙の注ぎ方が加わる。

陽に当たる場所に平気で生樽を置いているような店、熱い厨房機器のそばに無造作に生樽を置いている店、お客さんがたくさん来て、回転してるからいいってもんじゃない。
野菜や鮮魚をそんなふうに放置できますか ?
生ビールは野菜や鮮魚と同じで、新鮮さが命なんです。
古くなったり、温まったりしたら、爽快感もノド越しも台無し。
さらに、1日の終わりには必ず手入れをすること。
ビールのライン、ディスペンサー、ドラフトタワー、しっかり汚れを洗い流さなければ、色、味、香りに、影響がでる。
とくに夏場は要注意。
酸っぱいビールや、泡がへたった濁ったビールを出す店は最低だ。
オヤジが目を光らせている限り、モグランポでは絶対にこんなビールは出しません。
断言しよう。
少なくとも千住地区で、モグランポよりも愛情を持って生ビールを注いでいる店はない !! と。


はぁ・・・、でもその裏では、涙ぐましい努力をしているんだな、これが。
たとえば、明日が定休日、もしくは連休だという夜。
樽を持った感じではあと1、2杯というところで、お客様が切れてしまった時、そんな僅かな量で持ち越して、平気の面で営業開始、注れた途端におしまい樽交換なんて様は到底オヤジにはできない。
ならばどうするか。
ありがたく飲み干す意外ないでしょう。
そして、営業開始したときには新鮮な開けたての生ビールをお出しするのが、ビール好きの心意気ってもんじゃないかと考えるのだ。
まあ、常連さんでたまたまその場に居合わせた人には、ぜひ協力してもらっているけれど、たまに目測を誤って、2、3杯のつもりが4、5杯だったりして、協力者がいない場合は、「矢でも鉄砲でも持ってこい」状態で飲み干すことがあったりしちゃうのだ。(お前の趣味でやってるのかって ? ま、それもありますわな)

先日、当店始まって以来の、大、大、大番狂わせがあった。
夏場の暑い時期は、樽をプラスチックの容器の中に水をはって漬けたり、氷を上にのせたりして、樽の温度が上昇するのを防ぐのだけれど、中身が減ってくると樽が浮力で軽くなって、持ち上げたときの残量を誤ってしまうことがある。
その週はなぜか生ビールのオーダーが少なかった。
暑いのに、最初のクウ~ッと一杯がないなんて、なんてことだろうと思っていたら、案の定休み前に生ビールが残ってしまった。
この暑いさなか、僅かなビールを残してのうのうと休むことなんてできない。
推定残量6、7杯。
飲むしかない。
だが、7杯飲み干しても一向に樽は空になる気配がない。
冷静に、樽を水の中から出して持ってみれば、なんと、その倍の量は残っている感じ。
ガ、ガーン !
けっして、休み前に自分が飲みたいからってことじゃない。
このままいくと、4リットル以上飲まなければならない。
飲めないことはないだろうが、つまみもなしで、半ばあきれ顔のかあちゃん相手に短時間では無理だ。
最後の手段、密閉袋にビールを注ぎ、自宅に持って帰るのだ。
なんでもフィリピン辺りでは、ビール屋が量り売りでビニール袋にビールを入れてくれる売り方があるらしい。
家に帰って氷を入れて、チンチンのフィリピンビールで飲むのだろう。
まあ、それもしゃあないかと、諦めて袋詰めのビールをつくった。

自宅に戻り、ある企みが脳裏をよぎった。
暑い時期はシャワーばかりで、風呂好きのオヤジはちょっと不満だった。
そこで浴槽に湯を張り、袋に入ったビールをダバダバとその中に入れ、本邦初のビール風呂を味わうことにしたのだ。
おお、琥珀色の極上風呂の出来上がりじゃ。
これで内も外もビールで満たされる。
湯船ではしゃぐ反省しないオヤジ。
“♪ オサケになったの、ワタシ ♪”
バッカスの神も大喜びであろう。

翌日、本日も朝からギンギラギンの夏真っ盛り。
無事仕事を終えて帰ってみると、浴室からただならぬ臭いが漂ってきた。
フタをした浴槽から、ホップのむせ返るような薫りが溢れ出している。
フタを開けてみたら、まさにビールの醸造をしているかのような混沌と濁った、オヤジ汁とへたれ生ビールの混合液が渦巻いて、地獄の釜茹でのような有様。
ええい、ままよと、地獄の釜に飛び込んで、睨む閻魔大王ならぬかあちゃんの監視のもと、せっせと元通りに湯船を洗うのであった。

こういう痛い代償を伴いながら、日夜おいしい生ビールを注出することに精出しているのである。
もちろん、お好み焼にはそれ以上の愛情を注いでいるのは言うまでもない。
わかって頂ける方には、もれなくオヤジのスマイル0円がついてくるのだ。
えっ、そんなものいらないって。
じゃあ、とりあえず一緒に一杯やりますか ?



現在では生ビールは「一番搾り」と「スーパードライ」の2本立てなので、お掃除ビールも倍に増えて、2年前と同じことをしていたら確実にヘロヘロになってしまう。
しかし、日頃の手入れは欠かすことはできないから、普段は飲まずに、モツの下茹でに使うためにストックしておく。
問題は、やはり休み前だ。
どういうワケか、「一番搾り」も「スーパードライ」も同時に空くことが多く、それはとてもいいことなのだが、是が非でも空けたいというタイミングも重なるし、ペットボトルのストックもすでに一杯だという状況で、水曜日しか飲まない宣言をしたオヤジは、午前零時を待って自分に納得させ、飲み干すのだ。

だからモグランポの生ビールは、現在も変わらず新鮮で、旨いのです。
これは自信を持って言う。
涙ぐましい努力、ってヤツですかね・・・・・

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