前回のブログで浅沓の本体が完成しました。
4回目は最後の仕上げ作業についてです。
浅沓を見たこのとある方はお気づきかもしれませんが、一般的に履かれているような普通の靴とは違います。
今回はその特徴の部分に触れていきます。
まずは中敷きです。
厚紙を切って芯をつくります。
その表側に、絹または麻布を貼ります。
神職さんの位によっては紋入りの正絹を使用します。
この場合は紋を縦に半分に割り、左右のくつを並べたときに真ん中に1つの紋ができるように配置します。
紋のサイズも位によって変わるそうです。
布にシワが寄らないように、ピンと張らせるのにも結構コツが要ります。
中敷きができたらくつ底に貼るのですが、きちんと貼るために上に重りを乗せていました。
ここからの工程は白との闘いになるので、少しでも汚さないように細心の注意が必要です。
中敷きを接着している間に〝マクラ〟をつくります。
〝マクラ〟というのは浅沓最大の特徴でもある、足の甲についているクッションです。
このマクラの袋づくりは、これまで西澤さんのお母さんがつくられていたそうですが、私が伺った時にはご高齢のこともあり、外注されていたようです。
しかし腐っても一応は服飾の専門を出た身。
お母さんにつくり方を教わってミシンがけもしました。
生地は絹またはサテン。
このマクラは耳の部分がくつのサイドからはみ出る仕様になっているのですが、
「出すぎても出なさ過ぎてもバランスが良くない。2分がかっこいいんだ」
とこだわりがあるようでした。
1つ1つサイズに合わせて縫っていきます。
縫い終わった袋をひっくり返し、綿を詰めていくのですが、この綿にもこだわりがありました。
「新しい綿だけだと柔らかすぎる」
というのです。
マクラは浅沓の要です。
これがないと浅沓は履けません。
マクラがあるから足の甲が押さえられて脱げることなく歩けるのです。
つまり新しい綿のみだとへたりやすく歩きづらいというのです。
西澤さんは中に打ち直した綿を使っていました。
しかしこの綿も今ではあまり手に入らないとのこと。
この打ち直したしっかりした綿を新しい綿で包むことで、程よいフィット感を生みだし、足にも優しく履きやすい浅沓をつくっていました。
袋の口を縫った後、中の綿が動かないように真ん中も簡単に縫い止めます。
これを糊で浅沓の甲の部分に貼りつけたら、ついに浅沓の完成です。
西澤さんの浅沓はサイズは5mm刻みで、さらに甲高の人や、甲広の人などにも細かく対応していました。
それぞれ型が別であり、甲高の場合はマクラの綿の具合までも調整して、靴擦れを起こさないようにと考えてつくっていました。
ひとりひとりに寄り添った浅沓。
リピーターが多かったのも納得です。
西澤さんはこのように誇りとこだわりを持って仕事をされていました。
しかし決して驕り高ぶるようなことはありませんでした。
自分はありがたくも神様をお支えするその一部の仕事をさせていただいている。
そういった思いが強くあるようでした。
とても腰が低く、でも卑屈なわけではなく、自分の仕事に自信と誇りを持って向き合っている姿勢は、とてもかっこよかったです。
これが職人なんだと思いました。
今回で浅沓のつくり方はおしまいです。
次回は最終回。
〝伊勢の浅沓〟が辿ったストーリーをお届けします。