前回のブログでは漆の工程に入る前の段階を書いてきました。
浅沓について第3回の今回は漆の工程を記していきたいと思います。
ではさっそくーーといきたいところですが、その前に2枚目の底板を貼るのを忘れていました。
浅沓の底板は表からだとわかりませんが、実は2枚重ねになっているのです。
2枚目の底板は1枚目と同じように板材から切り出し接着します。
ただし最後にゴム板を貼るか貼らないかで素材が変わります。
これは重さの都合です。
また浅沓は修繕することを前提につくられているので、接着にも気を使います。
簡単に剥がれてしまっては困るけれど、修繕の際に2枚の板がきれいに剥がれなくてはならないからです。
1枚目の時のように釘は使いません。
底板がボロボロになっても、一番下の板のみの張替えで済めば比較的修繕も楽になります。
よく考えられているなと思いました。
逆に言えば最初に貼った底板までボロボロになる程履き潰されていると修繕は難しくなってきます。
できないことはありませんが、新品をつくるのと同じくらい大変な作業です。
なので修繕に出す際には早めでお願いしたいと西澤さんもおっしゃっていました。
2枚目の底板を貼り終えたらようやく漆の作業です。
まずはより強度を持たせるため、そして次の工程で漆の食いつきが良くなるように、和紙の土台に漆を吸わせて木地固めをします。
次に刻苧(こくそ )です。
この時の刻苧には漆は使用していませんでしたが、木粉を混ぜた糊で底板との隙間を埋めます。
乾いたら砥石で整えて布着せです。
まず2枚目の底板と土台が離れないように部分的に帯状の麻布を糊漆で貼ります。
その後全体をぐるり覆います。
空気が入ったり浮かないように貼りつけ、重なった部分や余分な部分は乾いてから切り落とします。
この後は目擦り→地の粉→切り粉→砥の粉と順番に下地の作業を行います。
和紙を張り合わせた時の段差があるので、その段差をなくすように下地で形を整えていきます。
この下地の研ぎがなかなかに大変です。
サイズも大きければ数も多いので無理な体勢が続き体を痛めます。
数仕事の大変さをより強く感じました。
下地が終わるとついに塗りです。
浅沓は基本的に黒の塗り立てです。
塗り立ては艶のある漆を塗って仕上げます。
呂色仕上げのように磨きません。
スキッとした深みのある艶はありませんが、傷が目立ちやすい呂色仕上げに比べて傷が目立ちづらいので、例えばお椀やカトラリーなど、日常使いするものに向いています。
中塗りを3回重ねてから上塗りを行います。
中塗りを研ぎ破らないように研ぐのも大変だし、上塗りで刷毛目が残らないように塗るのも大変です。
尚且つ広い面積をゴミが入らないように塗るのも大変なことです。
やってみて感じたのは、何よりも塗り立て漆の調整が難しく、厚みがある方が艶やかで美しい一方、あまり厚みをつけすぎると〝縮み〟という現象を起こし台無しになってしまうので、その塩梅が難しいということです。
基本的にはこの最後の大事な塗りは西澤さんが行っていました。
通っている間、何回か「やってみるか?」と聞かれ挑戦してみた程度でしたが、その難しさを経験できたことはとてもありがたかったです。
さて、今回は浅沓の本体が仕上がるところまで書いてきました。
次回は漆の作業が終わった後、浅沓が仕上がるまでを書いていこうと思います。
後1、2回程度だと思いますが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
※専門用語に関してはTwitterの工芸専門用語音声辞典にも説明がございます。よろしければお聞きください。