浅沓について、2回目の今回は〝つくり方〟です。
前回もお話ししましたが〝浅沓〟と検索をかけると革製や木製と出てきます。
今ももしかしたらそういったつくりのものがあるのかもしれません。
ただ私が携わっていた浅沓は和紙でできていました。
見学をさせてもらった際、まずそのことに驚きました。
和紙で土台をつくり、底板を貼って、漆を塗る。
一閑張(いっかんばり)といわれる、いわゆる張り抜きです。
紙胎というものがあることは知っていましたが、見たのは初めてでした。
この和紙を貼るのの難しいこと……
柿渋を混ぜたでんぷん糊をつくり、それを和紙に塗って竹べらで木型に貼り付けていきます。
木型は丸みのある形をしているので全体的にカーブしています。
そこに平らな紙を貼るのですから難しいのも当然。
中に空気が残らないように糊をしごくのも一苦労だし、カーブの部分もなるべく紙が重ならないようにしなくてはなりません。
それは重なれば重なるだけ表面に凹凸ができるからで、その後の作業に響いてくるのです。
しかしじっくり丁寧に時間をかければいいというものではなく、数をこなすには手早く済ませなければなりません。
これも職人に求められる技術です。
私はまずこの工程を勉強させてもらいました。
が、いつまで経っても時間のかかることかかること……しまいには苦笑いされてしまいました。
私が訪ねる以前からこの和紙を貼る工程のお手伝いしている男のコがいたのですが、そのコは本当に手早く、それでいて綺麗に仕上げていくのです。
ムキになって頑張ってみたもののそんな簡単にできるようになるものでは当然ながらありませんでした。
しかも一枚貼っておしまいではなく、強度を持たせるために何枚も貼り重ねます。
根気のいる作業だなと思いました。
和紙を貼り終えたら糊を乾かします。
夏場は窓に並べて天日干ししていましたが、寒い日や陽のない日は火鉢に炭で火を起こし、専用の棚に入れて乾かします。
火起こしの経験もこの時に初めてしました。
空気を送る具合が難しかったです。
乾いた後は型を外します。
縁を補強して底板を貼るのですが、この工程の間にも細かい作業がいくつかあったりします。
それに貼り付ける底板も、板材をサイズに合わせて自分でくり抜かなくてはなりません。
ノコギリとノミ、そしてベルトサンダーを用いて整えていきます。
これも削りすぎると大変なので、胎に合わせて様子を見ながら調整していきます。
底板ができたら胎とくっつけます。
歩いているときに外れては大変なので、釘を使ってしっかり固定します。
この釘打ちも簡単に見えて意外と難しいのです。
木目があったり節があったりするので、ちょっと気を抜くと表に釘の先端が飛び出してしまったりと危険です。
底板が綺麗にはまると気持ちがいいし、沓の形が見えてくるのでテンションが上がります。
ここまで来て、ようやく次に漆の作業へと移ります。
木地固め※です。
※木地固め… 素地の防水性と堅牢性を高めるために行います。生漆を樟脳油や片脳油などで希釈し、箆や刷毛を使って素地に浸透させます。残った漆は布で拭き取り、漆風呂に入れて乾かすか、または自然に乾かします。(工芸専門用語音声辞典より)
木地固めが終わると次は布着せですが、この工程の続きは第3回でお話ししたいと思います。
今回登場した和紙も、使い勝手や価格などいろいろな面でいくつも試した中で最良のものを見つけていったと西澤さんはおっしゃっていました。
糊の含みはいいか、馴染みはいいか、強度はあるか、それでいてコストは良心的か。
当時浅沓は9割が京都でつくられていました。
京都は職人も多く分業制で生産性が高いのだと思います。
一方で西澤さんはたったお一人で浅沓を仕上げていました。
1〜10の工程を一人でこなしていたのです。
つくれる数には限りがあります。
その中でも西澤さんは常に最善を目指していらっしゃいました。
こだわりと誇りの詰まった伊勢の浅沓。
そんなところも知っていただけたら嬉しいです。
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Twitterで工芸専門用語音声辞典というものをツイートしています。
漆に関するワードを100個、自分なりにまとめました。
後半、漆とは関係ないセリフも流れますが、よろしければお聞きください。
工芸専門用語音声辞典についても、今後ブログでまとめていく予定です。