漆器の産地である村上には、メインとなる木彫堆朱の他にも「木彫堆黒」「木彫朱溜塗り」「木彫金磨塗り」「色漆塗り」「三彩彫り」といった様々な表現技法が受け継がれている。
中でも気になったのは、私が勉強してきた香川の三技法のひとつ〝蒟醤(きんま)〟と同じ読みの「木彫金磨塗り」そして、色漆を塗り重ねて表面を彫りさげ、中の色を見せながら描いていく「三彩彫り」だ。
「木彫金磨塗り」は色漆の間に金箔を置き、研ぎの具合によって彩色と金箔の美しさを描き出すものである。実写風の図案を用いるのも特徴のようだ。
もう一方の「三彩彫り」は、手法としては香川の〝彫漆〟と似ているので親しみ深い。けれど印象が違って感じるのは絵画的な表現がされているからだろうか。
全てが全てそうだというわけではないが、香川の〝彫漆〟に比べて彫りは浅めで、表面の塗りを少しずつ削り取っていくような繊細な彫りをしている。村上では「むき彫り」とも呼ばれているそうだ。
色の出方がそう感じさせるのだろうか。彫った図案は筆で描いたような柔らかい印象を受けた。
初めて見る漆の表現に、私は手板(写真)を触らせてもらいながら感動していた。全国各地に漆芸の技法は多々あるが、見たことのないものの方が圧倒的に多くて、まだまだ知らないことだらけだと思うとワクワクが止まらない。
新しい知識を得ると妄想も膨らむ。あれこれ自分でもいろいろ挑戦してみたくなった。
体験で彫った急須台は、この後職人さんが塗りを施して2ヶ月後くらいに送ってくれるという。村上木彫堆朱ならではの、真綿をゴムで包んだタンポを使った塗りだ。どのように仕上がってくるのか、到着が楽しみで仕方がない。
気づけばあっという間に1時間半が経っていた。一階のショップには色んな職人さんの作品が並んでいる。真ん中に置かれたショーケースに目を留めると〝池野漆工芸〟と書かれていた。実はこの後、このショーケースの作品を制作した塗師の職人さんにアポを取っているのだ。1日で彫師さんと塗師さんの2人の職人に会えるなんて、なんて贅沢なんだろう。
髙橋先生にお別れを言って村上木彫堆朱会館を後にする。
池野漆工芸さんに行く道すがら、〝千年鮭 きっかわ〟という鮭を取り扱うお店があることを知り、酒好きの父への土産にちょうど良さそうと、ツマミになりそうな鮭を求めて向かうことにした。
次回【新潟巡り(7)鮭の酒びたし】