体験は急須台とお箸とを選択することができて、私は急須台をお願いしていた。「村上木彫堆朱」の彫りをより広い面積で体験してみたかったのだ。
急須台の板は朴の木でできていて、事前に椿の花の下絵が描かれている。
一緒に手渡されたプリントには伝統的工芸品の説明と〝村上木彫堆朱〟の説明、〝村上堆朱〟の説明(〝村上木彫堆朱〟と〝村上堆朱〟とでは技法が別物なのだ)そして刃物の扱いと彫り方の説明がそれぞれ書かれていた。こういう情報はありがたい。
説明によると村上市は平安時代から良質な漆が多く採れる産地だったらしい。1100年前には日本で唯一の〝漆〟の神社「漆山神社」が建立され、今も大切に守られている。
今回、下調べが足りず「漆山神社」に行くことが叶わなかったのが心残りだが、だからこそ漆器の産地として発展していった理由を知ることができてよかった。
お互いに簡単な自己紹介を終え、今回担当してくださった髙橋先生は、後継者育成プロジェクトによって村上木彫堆朱の彫り師として勉強、独立されたことを知った。
ちゃんと組合でそういった支援がされていることは素敵なことだと思う。話を聞くと当時参加していた全員が独立するまで続けることは叶わなかったそうだが、消えていくばかりの産地が多い中、希望が見えて嬉しかった。
刃物の説明に耳を傾ける。木彫は基本的に〝ウラジロ〟と呼ばれる刃物を使った、薬研彫という彫りで行う。刃が山形に研がれた不思議な刃物だ。
実際にお手本を見させてもらうと、一度の彫りで想像以上に深くまで彫りこんでいて、薄い刃物だとすぐに折れてしまうのだろうと感じた。三角になって中心に厚みがあることで強度を持たせているのかもしれない。
村上木彫堆朱のざっくりした流れを説明すると、
①まず木地師が木地を仕立てる。
②次に必要に応じて塗師が木地に〝刻そ〟を施す。
③彫師が絵付けを行い、デザインに応じて木地を彫る。
④彫り終えたものを塗師に戻し、下地、そして塗りを重ねる。最後につや消しをして彫師へと戻し、
⑤仕上げに毛彫という細かい彫りを施す。
⑥それを再び塗師に戻し、漆を摺り込んで完成となる。
木地師、彫師、塗師とそれぞれの専門家がいて、連携をとりながらつくられていくのだ。話を聞いた限りでもひとりで仕上げるのとはまったく違った大変さがあるのを感じた。