今月4日には凛九の展示も無事に終わり、次の準備と何より勉強の時間をつくろうと思った9月。
まず手に取ったのは「アート思考-ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法-(秋元 雄史)」という、アート書籍というより、どちらかというとビジネス書寄りの本でした。
知人の家で目に留まり、気になっていた本のひとつです。
アートと美術と工芸と、日本では一括りに芸術と称されるものたち。
しかし細かく見るとそれぞれに定義があって別のものを指していたりします。
カタカナの「アート」と「ART」でも違うと言われていますよね。
では世界におけるアートとは一体なんなのだろうかと疑問に思い、少しでも理解できればと手に取りました。
こちらはそんなアートを知りたい人もビジネスを勉強したい人も楽しめる一冊になっています。
まず「アーティストとは、答えを示すのではなく、問いを発する人である」というアメリカ人アーティストのジエームズ・タレルの言葉にはじまり、これからの時代に求められるのは、答えを引き出す力以上に「正しい問いを立てることができる洞察力とユニークな視点」であると述べ、クリエイティブな発想を展開したいと考えるビジネスパーソンにとっても現代アートの思考法は有効であると書かれています。
ただしアートに求められるのは経済的成功ではなく、新たな価値を提案し、歴史に残るような価値を残していけるかどうかという姿勢を極限まで追求すること。
つまりビジネスとアートでは到着地点が異なるのです。
ではビジネスに関わる人がアートを学ぶことにどんな価値があるのか、この問いに対する答えを様々な例を挙げてわかりやすく説明しているのが本書です。
アートを生み出すアーティストの思考について説明がされる中、中盤には伝統産業にも触れています。
国内では価値の低いものと思われていた竹工芸や陶芸が、欧米で評価され高値がついた事例を挙げ、これからの「工芸」には可能性があるとしています。
世界では新たに工芸の国際的なプラットフォームづくりが行われており、有機素材を使用する工芸と職人技術を再評価し、今のものづくりやアートに活かそうという発想が盛んになってきているというのです。
一方で職人が新しいものを生み出すとことはことのほかハードルが高く、「職人的なきっちり一分の隙きもない制作プロセスが、工芸のイノベーションを阻害する要因となっている」という言葉には確かになと頷いてしまいました。
後半には西洋美術史と現代アートの鑑賞法についての説明もあり、「芸術闘争論(村上隆)」を読んでから美術史の勉強をしたいと思っていた私には表面をサラっと学ぶにはちょうどいい内容でした。
アートの定義がズバリこれと書かれているわけではないですが、ぼんやりしていた「アート」というものが一体何ものなのかを知るにはとてもわかりやすい一冊となっています。
個人的にはビジネスに活かすという視点で読んでいなかったからか、ビジネス書としては少し物足りないようにも感じました。
何にしても本というのは読むだけではダメで、いかに実行するかにあるというのもよく聞きます。
アート思考を活かした工芸作品なのか、工芸技術を活かしたアート作品なのか、どちらにしてもコンテクストを大切にすること。
そして世界の流れを読み、自分の特徴を知ることがまずは大事になりそうです。