見出し画像

ばりん3g

なぜ私たちはゲームに熱中できるのか? 教育心理学の観点から解説。

いわゆるコンピューターゲーム(以下、ゲーム)というものは、登場以来、私たちの興味を掴んで離さない魅力的な娯楽としてあり続けている。

母親に「ゲームばっかりやってないで」と叱責されても、ゲーム脳と揶揄されてもその意欲は枯れることなく、やがてそれはゲーム実況のようなゲームを題材とした副次的なコンテンツやe-Sportなどのある種の文化を生み出すまでになった。

2018年の国内ゲーム市場規模は1.8兆円程度で、年々何千億円単位で広がっている。経済的にも無視できない1つの産業となっているゲームは、一定以上のアイデンティティを確立しているように見える。

 

ゲームは実に多くの人間の興味を掴んできた。

教育心理学を学ぶ人たちも、例外ではない。

ただその、彼らは食らいつき方は一般的なそれではなく、「なぜ私たちは、ゲームに熱中できるのか?」という変わった視点のものだった。

他の分野では、例えばゲームと比較されがちな勉強では、まずこうならない。彼らは、今までにないほど簡単に、そして強烈に人を引き付けるゲームが、なぜそう在れるのかが気になって気になって仕方なかったのだ。

この議題は2000年前後に本格的になり、現在も議論のさなかである。熱中できる理由の確たる主張はないが、議論の末、その傾向は絞れてきている。

 

今回は「なぜ私たちは、ゲームに熱中できるのか?」を、心理学的に解説していく。

 

 

 

参考画像:天穂のサクナヒメ

まず、非現実性

グラフィック・BGM・世界観・ストーリーなど、現実とは違う要素が詰まっていることが挙げられる。

これらは私たちがゲームに没頭するために必要な周辺要素であり、特にこれらの一貫性は、私たちがゲームの世界に「入り込み、操作する」ために必須となる。ゲームキャラへの感情移入は、ここが作りこまれているから成せるのだ。

 

 

 

参考画像:UNDERTALE

次に、目標の提示

なにをすべきなのか、なにができるのか、なにをしたほうがいいのか、ゴールはどこなのか。私たちに必要な目標や行動を、ゲームは明確に提示してくれる。

チュートリアルなら、どのボタンを押せば移動できるのか。

基本操作を覚えた、じゃぁ私たちはどこまで行けるのだろう。

寄り道をしてしまった、もともと目指していた場所はどこだったっけ。

目的地に着いたよ、次はなにをすればいい? どこを目指せばいい?

そして、このゲームではなにをしてはいけないの、なにができないの?

これらの疑念に、ゲームは即答してくれる。

また、ゲームは勝利条件も明確だ。戦って敵を倒せば勝ち。対象と恋仲になれば勝ち。集団内で1位になれば勝ち。ゲームによって条件は違うが、たいていは、目的を達成する手段として丁寧に教えてくれるはずだ。

目標が定まらないと、私たちは迷走してしまう。なにができるのか、どこがゴールなのか、自分のやっていることは正しいのか。判断基準がどこにもないと私たちの意欲は失せてしまう。目標があって初めて、私たちは動き出せるのだ。

 

 

 

参考画像:天穂のサクナヒメ

3つ目に、フィードバック。

なにができるのか、目標はなにかはわかった。では、なにかをしたことで私たちはなにを得たのか、目標にあとどれぐらいでたどり着けるのだろうか?
これも、ゲームの得意とするところだ。

戦って敵を倒したら、ステータスが上がった。対象と付き合って、これぐらい親密になれた。集団と協力して、これだけの貢献ができた。これらの評価は、たいてい目に見える形で表される。

ステータスが上がったことで、より強い敵を倒せるようになった。親密になれたことで、新しいストーリーが展開された。貢献が集団を強くし、より勝てるようになった。そんなレベルアップ要素も、行動の成果をあらわにする。

また、一定の課題を解消したことで得られる実績要素(トロフィー)もこれにあたる。実績そのものは目標にも成りえるし、実績達成は強烈な報いとなるだろう。

レベルアップのファンファーレが嬉しいのは、自分のしてきたことがきちんと価値あるもの、評価されるものだと具体的に知らせてくれるからだ。

賞賛と報い、あるいは行動が無価値でないことの証明は私たちが常日頃から求めているものであり、欠かせば続ける意味が失われかねない。フィードバックは私たちが事柄を進めるうえで必要となり、ゲームはその最低保証がなされているのだ。

 

 

 

参考画像:Minecraft

4つ目に、選択の余地と自由度。

非現実的な世界において、なにを目標とするのか、目標のためになにをするのか。一部のゲームにおいて、それらの選択にある程度の自由が保障されている。

敵を倒すには戦う以外の選択肢もある。交際相手は何人のうちから決められる。1位を目指すだけじゃなく、集団でほのぼのプレイしててもいい。実績解除を追い求めても、そうでなくてもいい。

ゲームがその体裁を保てるだけの最低限のルールを設けて、あとはなにをしてもいいと提示し、私たちの創造力を試すゲームもある。

ゲームに点在するルールや構造の抜け穴をつつき、好奇心のままにゲームを弄ぶ私たちを、さも知ってたかのように煽るゲームもある。

ゲームのルールと構造をすべてさらけ出し、私たちがいくらでもゲームをいじれるよう促し、創作力の限りゲームを拡張し続けられるようにしたゲームもある。

極端な例をいくつか紹介したが、こうした選択の余地と自由度の担保は、私たちが事柄に意欲を抱くために必須となる

 

意欲とはパズルピースであり、興味関心や能力などの要因によって人それぞれ微妙に違う形をしている。

目的も手段も変えられない可塑性の低い課題は、例えそれが娯楽であったとしても、多くの人にとって意欲の湧きづらいものになるだろう。その課題はかみ合わない、つまり興味関心の対象でもなく、能力が発揮しづらいと判断するからである。意欲のパズルピースはある程度可変可能だが、コストも時間もかかる[参考]

ゆえに、可塑性に富んだ、自身の興味関心や能力に合わせたものに目標と手段を変えられる自由度の高いゲームは、私たちにとって意欲が抱きやすいものとなるのだ。

 

以上が主な主張となる。

まとめると一貫性のある非現実的な場所が舞台で』『目標や勝利条件が明確であり』『達成までの道のりや勝利したことで得られたものがすぐにわかり』『選択の余地と自由度がある』から、私たちはゲームに熱中しやすいという。


補足として、この特性を高水準に収めたゲームは高評価を受けるが、低水準もしくは欠けが生じた場合、そのゲームは散々な評価を受けることになる。

低水準もしくは欠けたゲームは『非現実的な描写が中途半端で一貫性がなく』『目標や勝利条件が不明瞭か非現実的であり』『達成しても得られるものが少なかったりして』『選択の余地も自由度もない』ことが多く、なかにはとても遊べるものじゃないゲームもある。

なので、私たちがゲームに熱中しやすい要因は「熱中しやすいゲームを作るための要素」と言い換えることもできる

 

「であれば、今回説明したことは、ゲームに限らず熱中しやすいなにかを作るために必要な要素と言うこともできるのでは?」

だからこそ、教育心理学を学ぶ人たちが目をつけたのだ。

 

上記の内容を彼らの言葉で説明すると「ゲームは自己決定理論で説かれたもののうち、自律性・能力・関連性を高水準で満たしている」となる。

自己決定理論とは主に私たちの意欲に関して言及した主張であり、教育心理学の大テーマでもある。

つまり、彼らは議論の末、私たちがゲームに熱中しやすい理由を教育心理学の言葉で説明できるようになったのだ。今回の内容も、自己決定理論を主として解説している。

そして、彼らが次に目指したのは、熱中しやすいゲームを作るための要素を、またはゲームそのものを、学習へ転用することだ[参照]

 

 

参考文献

商務情報政策局コンテンツ産業課 (2020) コンテンツの世界市場・日本市場の概観

Biyun Huang and Khe Foon Hew. (2018) Implementing a theory-driven gamification model in higher education flipped courses Effects on out-of-class activity completion and quality of artifacts.

Jan Hense PhD & Heinz Mandl PhD. (2014) Learning in or with games?

Michael Sailer,Jan Ulrich Hense et al. (2016) How gamification motivates An experimental study of the effects of specific game design elements on psychological need satisfaction.

Rosemary Garris,Robert Ahlers et al. (2002) Games, Motivation, and Learning:A Research and Practice Model.


論文を参考にいろいろ喋るブログです。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「旧記事群」カテゴリーもっと見る