看護師さんたちは常に明るい。
正直激務で、決してキレイな仕事ではない。
患者さんのデータを確認しながら、それぞれの対応を求められ、たとえ文句を言われても笑顔でかわす。
なかなかのスキルである。
私は必要以上に話しかけたりしないが、それは今、自分の手足で何でも出来るからだ。
これが手術後となると、果たしてどうなるか。
痛みや不調を訴え、ナースコールボタンを押しまくるのが正解?
それとも限界まで我慢する?
私は恐らく前者をとる。
ここは彼女たちのプロ意識に甘える予定だ。
痛みや不快を抱えながらの入院生活は、はっきりいえば苦痛でしかない。
ただでさえ大手術が終わったばかりでナーバスにもなろう。
たくさんの管に繋がれ、本調子に戻るまで、多少大袈裟かもしれないが訴え続けようと思う。
なにせ私は痛みに弱い。
普段からロキソニンは手放せない人間だ。
ここ最近は飲む必要がなくなっていたが、以前は頭痛を感じたら即服用していた。
ロキソニン教祖様と崇めているほどに。
痛みは不安に繋がるし、マイナス思考へと誘われる。
可能な限り、痛みを感じない術後を過ごしたい。
眠れないなら眠剤も導入し、体力の回復に努めたい。
昨夜は5時間半、みっちり眠ることが出来た。
寝汗こそかいたが、清々しい深夜3時半を迎えたのだ。
入院してから初めてのこと。
私は元々図太い人間だと思っていたが、残念ながら環境と状況に左右されるとわかった。
どこかでナーバスになっている。
神経が昂ぶっている。
楽しみなはずの食事も、楽しむというより、修行を積み重ねているといった感じだから、それもじわじわストレスになっているのだろう。
妙な時間にお腹が空いても、摘むものはない。
空腹はお茶か炭酸水で散らしている。
どれだけ腹の虫が鳴こうとも。
三時半に起きて、一体何をしていたか。
大好きな動画を観たり、ただぼんやりしたり、無意味に歯を磨いたり。
雪が降り積もった静かな外の景色。
ひと気がなく、まるで絵画のように美しく、現実とは思えなかった。
話は変わるが、今日あまりにも暇で、いよいよ遺書を書こうと思い、筆をとる。
まずは主人へ。
これは入院する前から決めていたことだ。
当然ながら、手術の成功は高確率だが、それでも100%は叩き出せない。
麻酔や他の事情で、何らかの事故が起こることだってある。
術後、感染症になるかもしれないし、それが元であの世逝きってことも。
どちらにせよ、最悪の事態を想定するのは、患者として当然のことだと思う。
だから最後の手紙を書いたのだ。
今は主人の目に届かないことを祈るだけだが。何事もなく帰還したら破り捨てるつもりだ。
そして書いている時、やはり感極まってくるのは必然だった。
涙が流れ、鼻を啜り、何度もティッシュのお世話になった。
そんなタイミングで、まさかの院長回診が行われるとは、誰も想像していないだろう。
せいぜい担当医がくるかな、くらいの軽い気持ちだったのだが。
婦長さんらしき人を引き連れ、「院長回診です!」と病室に入ってこられたとき、何事だ!と思った。
慌てて筆を置く。
「○○先生のところから来たんですね」
と某婦人科の名前を出し、私は涙を引っ込めようと苦労しながら「はい、そうなんです。」と答えた。
しかしさっきまでの哀しい感情がまだしっかりと残っていて、言葉が出なくなる。
「すみません。ちょっと別ごとを考えていたので。」
取り繕うようマスクを着け、涙を拭いた。
向こうも私がナーバスになっていると分かってくれているので、穏やかに見守っている。
その後、軽く血糖の話をして、「頑張ってくださいね。」と励まされ、わずか数分の回診は終わった。
優しそうな院長先生。
そして私はこの病院の副院長先生に執刀してもらう。
あ!しまった。
ここのご飯おいしいですね!って言うの忘れてた。
まあ、もう会うことはないかな。
きっとお忙しいだろうし。
ただドラマでもよくある【部長回診】は知っていたが、まさか【院長回診】があるとは!
驚きである。
さぁ、手術まであと9日。
体だけでなく気持ちも整えよう。
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