朝、栄養補助食品のようなドリンクを二本飲み、それが意外とおいしかったことに胸を撫で下ろした。
午前七時までの大事な朝食。
今日は私にとって大切な一日である。
検温や血圧測定、諸々の流れの中に、シャワー後の剃毛があり、可愛い看護師さんに呼び出された私はさくっと全部剃られた。←うっすら残っていると思うがまさか全剃りとは思わない
手術中は色々管も通すわけだし、別に恥ずかしいわけではないが、可能であるのなら自分でやりたい作業だ。
その後、病室でかの有名な血栓防止ソックスを履き、スタンバイ完了。
いよいよ逃げも隠れもできない。
時間になるとご丁寧に看護師さんが1人付き添ってくれ、手術室まで案内されるらしい。
確か9時15分。
先生曰く、大手術なので、予定通りコトを進めなくてはならないのだろう。
珍しいくらい、まったくの時間通りだった。
可愛い看護師さんが呼びに来る。
「○○さーん、そろそろ行きましょうか。」
「イヤです。」
なんて我儘な大人にはなれない為、「はい」と小さな声で付き従った。
現実味はなく、どこなくフワフワした感じ。私は今から腹を割かれるんだよー!って言えば言うほどメルヘンだとおもう。
病棟と同じ階にそこはあった。
何度か名前を確認され、重そうなくせに足先一つで軽く開くドアを抜ける。
廊下は広く、手術室は何部屋もあるみたいだが私が行くのはもちろんたった一つだけだ。
入ると麻酔科のスタッフさんたちが忙しそうに準備していた。
「宜しくお願いします」
此処に居る人、全員に挨拶したかったが、やはり流れ作業のように手術台に横たわらされ、私は銀色に光るまるで大きな厨房のような部屋を見渡した。
そしてそのままの感想を伝えた。
「それは初めて聞いたわぁ。」
目の前の美人さんが笑いながらおっしゃる。
そして左手には点滴?を繋ぐため、若き研修医のお嬢さんが指示の下、血管を探していた。
酸素測定器やら何やらかんやら。
私に出来ることは「血管見えづらくてゴメンナサイ」と謝ることだけ。
あとは下らない話を口にしたり、全身麻酔したスタッフさんの話を聞いたりして、どんどん準備は整っていった。
過去に「デートの途中で目がさめた男子高校生」がいたらしく、それはさぞや気の毒だと盛り上がる。
皆明るく、私の不安を吹き飛ばすような人たちばかりだった。
しかし麻酔はここからが本番。
というか私の場合、大苦戦した。
硬膜外麻酔………ググって頂けたら分かると思うが、これがあるのとないのとで術後の痛みが天と地ほど変わってくる。
下半身を大きく開く私にとって、これは当然ながら必須項目であった。
しかし残念なことに、肉厚な背中(もしかしたら全身で一番厚いのか?)が邪魔をして背骨が確認しにくい。
きっとベテランであろうお姉さん医師も「んー?あれぇ?」と言った感じで戸惑っている。
ちなみに一番最初、痛み止めの注射をするのだが、我慢できないほどの痛みではない。
手術ハイになっていたからかも。
今思い起こせば、外来でされたらブチ切れるタイプの痛さだ。
その後、あるべき場所に細い管を通すわけだが、そのあるべき場所を探すため、お医者様は苦戦されているのだ。
ヘソを見るよう指示されて十分。
私が入院する前、外来診察を受けた一番えらい先生が彼女に電話で呼び出された。
※実は個人的にこの先生が好きです。
雰囲気がアメリカ映画にでてくる味のあるおじさんって感じで親しみがもてる。
背中の肉を押しながら、それでも何回か失敗し、エコー越しにチェックしたり、めちゃくちゃ時間かかってたのは、全て肉厚な背中のせいです、はい。
何度か押されるような感覚………というか、衝撃が走ります。
ここでいたっ!!ってなったら失敗。
衝撃を痛みと捉えるかどうかは人次第。
まあ、普通に痛いわな。
トータル三十分の死闘の末、「よし入った!」と安心できる声が聞こえてきた。
もうここで拍手喝采でしょ、普通なら。
しかし皆さん、そんな時間すら惜しいらしい。
「さ、麻酔かけますよー!」
私にとって最大の恐怖、【全身麻酔】をそんな簡単に「コンビニいきますよー!」的なな感覚で告げないでほしい。
もっと溜めて溜めて!
あまりにも普通に準備万端。
後はまな板の上の鯉になるだけ。
「いい夢みれるといいね」
誰かがそう言って見送ってくれた。
そう…………
いい夢…………
後から聞いた話、およそ10秒でぐっすり夢の中だったらしい。
落ちる瞬間、首と胸の辺りがほわっと温かくなったことだけ、覚えている。
夢についてはあまり記憶にない。
果たして外国だったかな?
灰色の路地と雨。
特に楽しい夢ではなかった。
私の感覚時間にして15分。
しかし現実は8時間半。
ほんとすごいよ、麻酔って。
医療ってすごい。
「○○さーーん、終わられましたよ!」
「…………ありがとう……ございます」
執刀医である主治医先生のお顔があったような気がして、私は安心してまた眠りについた。
集中治療室に運ばれた後、寝たり起きたりの繰り返しでほぼ二日間を此処で過ごす。
正直スマホの使えない、無の二日間は、ひたすらきつかった。
続く