青空ーすべてはバランス

居酒屋「野川」 第4話 ジョーちゃん怒られる


世の中にはいろんな人がいる。そしていろんな環境の中にいる。すべての人が同じ瞬間に、拳銃やナイフを突きつけられていたり、笑っていたり、寝ていたり、泣いたり、病気になったりしている。世界で何が起ころうと何も考えずに能天気に暮らしている人、常に何かに警戒して暮らしている人、いろんな人が暮らしている。そして、ここにはここの時間がある。


登場人物=尉火焚 渡(ジョービタキ ワタル)ジョーちゃん、 野川 繁(ノガワ シゲル)野川マスター百舌 敏(モズ サトシ)ビンちゃん、目白 貴久(メジロ キク)キクさん、関 礼(セキ レイ)レイちゃん

目白 「あらっ 百舌さん お久しぶり。」「どうしてらっしゃったの?お忙しかったんでしょ?」

百舌 「いやっ!まぁ~ はっ はっ はっ」百舌は、実はこの店の近くにある別の店に入り浸りだったのである。再びこの店の常連として通うつもりであろうか?

目白さんが席を立つ。お手洗いに行くようだ。尉火焚がすぐさまマスターに聞いた。「マスター!骨付鳥はメニューにないよね。」

野川マスター 「うんっ あの方のお気に入りなもんで。いつも作ってあげてるんだよ。なんか思い出の料理らしい。」「亡くなった旦那さんの好物で、よく作ってあげてたようよ。」

百舌 「官僚の偉い人だよ。転勤で四国の香川県の丸亀に住んでた時出会った料理みたいよ。基本、塩・コショー・ニンニク・醤油で下味付けしておいて焼くんだよ。なんちゃって!目白さんは・・・確か”貴久”さんと言ってたような。」(丸亀市にある居酒屋「一鶴」は、お好み焼とおでんの店として1952年オープン。翌年創業者がオーブンで焼いた骨付鳥を考案。評判となる。今はご当地グルメとして町全体で知名度を高める努力をしているようだ。スパイスの配合に美味しさの秘密がある。ビンちゃん大雑把!)さすがは地元の有名なグループ会社の御曹司である。地域の主だった面々とのおつきあいにはそつがないようだ。

尉火焚 「あの方のことビンちゃん知ってるんだね。・・・でも、自分ちで料理しないんだね。」

百舌 「まっ 有名な人だからね。でも・・・今一人で住んでて寂しいんじゃないの?子供さんたちは全国ちりじり。会社の転勤や娘さんも結婚して地元にいない。名前変えて婿になった息子もいるらしい。」

尉火焚 「ふ~ん!!たくさん子供がいるんだから、一人くらい婿に入ってもねぇ。いいんじゃないの?ねぇ!」と言いながら、自分の背後に人の気配を感じ、ゆっくり振り返った。オーマイガー!そこには目白さんがいる。私をにらみつけている。明らかに何かに怒っている雰囲気だ。あれっ?何事もなく席についたぞ!と思ったのもつかの間。

目白 「親にとって子供は何人いてもみんな同じだっていうことを。ふっ!この世の中にはわかっていない人がいるらしいわね!」来た~~!!!やんわりとしたしゃべり方が一層怖いと尉火焚は思った。「赤ちゃんの頃から一生懸命に育てて、自分のことを犠牲にして愛情を注いできたのに、突然女を連れてきて結婚しますだと?」まるで自分の事のように、野川マスターと百舌の顔に緊張が走った。「一人くらいって、そこら辺の猫や犬と一緒にするような言い方は何?」「野川さん、この方は誰?」野川マスターもびっくりした顔で困っている。次第に客も増えてきてるし、「あの~」野川マスターが答えようとした瞬間、百舌が口を挟んだ。さっきまでの低いしわがれた声とはうってかわった猫声で。

百舌 「まぁまぁ、目白の奧さん。尉火焚のジョーちゃんは悪気はないのよね。ねぇ~ジョーちゃん!」

尉火焚 「申し訳ございませんでした。軽はずみなこと言いまして。私も妻の母が認知症になったから妻の家で一緒に住んでいるものですから。つい・・・・。」みんな「えっ?」という感じで尉火焚を見た。みんな知らなかった話だ。

目白 「あ~ら。そう~。」
「目白さん!骨付鳥どうぞ!」野川マスターが何ともタイミングよく料理を出してきた。ご飯と味噌汁、お新香がついてる。

百舌 「わぁー、おいしそう。」「マスター、ビール出してあげて。」

目白 「私はいいわよ。何言ってるの?」

百舌 「まぁまぁ、一杯だけでも。」「マスター!」野川マスターが「はっ」としてすぐに瓶ビールを持ってきて目白 貴久にお酌した。目白 貴久は「いいわよいいわよ!」と言いながらビールの瓶を振り払おうとしたが、百舌が目白 貴久のコップを手に持たせ「お詫びですから、お願いですから少しお飲みになって。どうぞどうぞ。」と、その身のこなしは百戦錬磨を感じさせた。見事だ。すると、目白 貴久がゆっくりとビールを飲むではないか。ひょっとして、ビンちゃんは彼女がビール好きなのを知っていてすすめたのかも?と尉火焚は思った。「はぁーーーー。」コップ3分の2ほど飲んで深く息を吐いた。百舌が手を叩いて「よっ、目白さん、いい飲みっぷりですね。」緊張した目白 貴久の顔が少し和んだ。そして、しばらく沈黙が続いた。

尉火焚 「雨はどうかなぁ?」いたたまれず、独り言のように、顔をそむけるように窓の外を見る。

目白 「風はもうないから何とか帰れるかしらね。お買い物の後、雨宿りのつもりだったけど。」百舌の方に向かって落ち着いてしゃべってる。尉火焚はほっと胸をなでおろし、そして思った。「ビンちゃんのおかげで怒りが静まっている。さすがビンちゃんだ。この人は、人の心にすっと入り込む特技を持っている。地域のいろんな人間関係の中で商売をしてきたいろいろな苦労がこの人の独特の雰囲気を作っているのだろうか?」

尉火焚 「骨付鳥はいい香りがしてますね。お好きなんですか?」

目白 「・・・昔を思い出すのよ。丸亀に住んでいた頃は、子供たちはまだみんな家にいたわよ。みんなに食べさすのは大変だったね・・・けがしてきたり、病気になったり・・・高校受験だ、大学受験だの。今は、私は何のために苦労してきたのかと考えるともう訳が分からないわ。・・・大学まで行かせて、卒業だからやっと帰ってくると思っていたのに突然、姓を変えて、東北に行ってしまった息子には本当にがっかりだったわよ。あの頃はもう涙も枯れ果ててたわよ。本当に腹が立ちましたわよ。・・・四国の香川県にうちわで有名な丸亀市があって、そこに住んでいたことがあるのよ。夫が骨付鳥が好きでねぇ。」目白さんは、少し混乱しているようで話が飛んでいる。

尉火焚 「それは大変でしたねぇ。そんなことも分からずに軽はずみな事言いまして。」

目白 「嫁に行った娘が来てくれて、何日か泊ってなぐさめてくれたのよ。」「お隣のおうちは、息子さんがちゃんと帰ってきて一緒に暮らしているというのに。お隣の息子さんは偉いわ。うちの子供たちとは大違いよ・・・みんな遠くに行っちゃって。」「思い出したわ。娘のお産の時も遠いから大変だったわよ。なのに2週間たって帰ろうとしたら、もう帰るの?って泣きながら怒られたわよ、もぅぅぅ・・・。」尉火焚は、自分はなんてことを言ってしまったのだろうと、あらためて後悔した。

尉火焚 「私は、妻の家で暮らすようになって、何だか世の奧さんたちの気持ちが少し分かるようになった気がしますよ。嫁として、生まれ変わったつもりで一生懸命に尽くしてきたのに、それが当たり前みたいに思われたり、言われたりして疎外感を感じながら過ごしてくると、夫が退職を迎えた頃には、自由になりたいと思って熟年離婚する人が増えているじゃないですか。なんか理解できるというか・・・。」

目白 「あらっ、ふっふっふっ・・・」「そう?」目白さんは結構ビールを飲んでいる。少し赤ら顔になっているようだ。百舌もだいぶ酔ってきている。

百舌 「 キ~クさん!どう~ぞ。」ビールを注ぐ百舌。「その東北に行った息子さんは、貴久さんに似てるのかな?」もうこの馴れ馴れしい口調だ。先ほどの緊張感が嘘のようだ。

目白 「がんこなのは私に似てるわよねぇ。」

百舌 「じゃぁ、DNAはしっかりと引き継がれてるね。息子さんもきっと貴久さんのこと思って暮らしているでしょう。」みんな次の言葉が出てこない。「うぐっんん~」

「いらっしゃいませー」えっ?マスターの声ではない。尉火焚が厨房の方を見ると若い女の子がいるではないか。アルバイトかな?と思った。

尉火焚 「マスター、どなた?」先ほど目白さんから言われた言葉に似ている。軽はずみだ。危ない危ない。キクさんを茶化していると思われたらまた蒸し返しなのに!

野川マスター 「アルバイトのレイちゃんだよ。関西の関とお礼の礼で関 礼(セキ レイ)と言うんだよね?」レイちゃんに向かって言った。

関 礼 「よろしくお願いしま~す。」可愛い声が響き渡る。ジョーちゃんとビンちゃんの男性ホルモンがざわめきだした。

続く(不定期)


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「物語」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事