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何てこったい!「believe it♪or not」第1話フィクション

2014-03-06 19:18:12 | フィクション
何てこったい!・・「believe it♪or not」序章(第一話)


圭司は、まどろみの中から目覚めようとしていた。

痺れが全身を襲う。

頭の中で、道路工事をしているような錯覚にさえ陥るほどの騒音が脳を揺さぶっている。

左の手で顔にかかった髪の毛をかき上げながら違和感を覚えた。

きっと、酔いがまだ回っているんだ。

胸に被さる自分の右手にも感覚がない。

どれほど酒を煽れば、こんなに酔えるのか、全く瞼が開くのを拒否している。

かき上げた左手で自分の胸の右手をツネって目覚めを確かめようとしたが、痛くない。

感覚すら感じない。

寝ぼけてるのか、まだ酔っぱらってるのか、麻痺する思考の定まらない眠りの闇から右の瞼がかろうじてシャッターを開き始めた。

靄の中から胸の右手の先に赤いモノが徐々に鮮明になっていた。

カメラのピントが合うように赤いモノの輪郭がその正体を鮮明にしていく。

―――指・・・赤いマニキュア。

きっと、飲みすぎだ。悪い夢を見ているんだ。

夢ならもうちょっと、その夢の先を見ようとまどろみの中に思考を沈めた。 

その時、自らの沈む思考と身体とは、相反する動きを確かに感じた。

そんな馬鹿なことは、あるはずがない。

圭司は、右に寝返りを打って更に深い眠りに墜ちようとしたのだが・・・。

一瞬の覚醒の中に甘い陶酔の香りを鼻孔の奥に感じた。


冷水を浴びたように部屋の温度が2度ほど下がった気がした。

稲妻のような衝撃的が、脳天を直撃した。

一瞬に酔いが醒めたと同時に叫びそうな声をあげそうになるその口を思いっきり抑え込んでいた。

それも両手で。

手を口に押えながらも喉から悲鳴に近い声にならない呻きが漏れていたに違いない。

―――誰だ!!!

状況が、全く把握できない脳が混乱するとはこのことか。

これは、夢に違いない。

思わずベッドから跳ねるように飛び出して、ここがどこなのか部屋の中を両手で口を塞ぎながら見渡した。

つま先から全身を映す大きな姿見の鏡がそこにあった。

両手を口にあてがい、何とも間抜けな全裸の男の姿がそこにあった。

恐る恐るベッドに目をやると、そこには透き通るような白い陶器がシーツに美しい曲線を更に温かさを演出するかのように纏わりついていた。


圭司は、昨夜のことを思い出そうとグラグラと揺れる脳をフルに回転していた。

その時、ベッドからシーツの衣擦れの音がした。

寝返りを打った音がに飛び上がりそうになる。

いったい何があったのか・・・。

寝返りを打ったことで、長い黒髪が白いシーツに映えて、まるで白黒の映画を観ているような錯覚を微動だにせず見ていた。

口を押えたままの全裸で、後退りした。

何かを踏んで思わず倒れそうになった。

真っ赤なピンヒールに躓いたのだ。

部屋中に撒き散らされたドレスや下着は、昨夜の騒動を物語っているに違いない。

テーブルの上に飲み干したと思われるワイングラスが二つあったが、その一方には光輝くリングが放り込まれていた。

圭司は、震えながら寒いのに背中に汗が流れるのを感じていた。

―――-あっ、まさか・・。

このダビデの紋章であるペンダントなのか。

全裸の胸に輝く「六芒星」を鏡に映して見つめていた。

信じようが、信じまいが、今ここにある現実は・・・。

圭司は、気を失うのを辛うじて押さえ記憶のピースを繋ぎ合わせていた。

それは、余りにも遠い昔に逃避していたのかも知れない。







尾安圭司は、バイトから帰ってコーヒーでも入れようかと電気ポットに台所から水を入れてコンセントを差し込んだ。

その時、脱ぎ捨てたジャンバーから聞こえる懐かしい音色に心が揺れるのを感じていた。

何小節まで自分が、この音に抵抗できるのか、無視することも出来たはずなのにサビのところで、負けてしまった。

昔の彼女からの着信のメロディー。

消したはずなのにと自分の心の中で言い訳をしていたが、メモリーから消した記憶などなかったのに・・・。

―――もしもし・・・。

別にそっけない態度をするつもりもなかったが、咄嗟に言葉がでなかった。

何も答えない。

いや、違う。

泣いているのか、小刻みに途切れ途切れに吐息が漏れている。

もう何年振りかなと圭司は、彼女との別れを思い出しながらパソコンデスクの横にある埃を被った写真楯に目をやった。

そこには、笑顔の俺が、後ろから彼女を抱擁してる幸せだった記憶の証が残されていた。

―――どうしたの?

その時、何も答えないまま電話が切れた。

圭司は、そのまま折り返し電話するべきなのか、彼女からのあるかどうか分らない電話をもう一度待つのかを悩みながら携帯電話を持ったまま動けないでいた。

それは、ないよ・・・と恨めしそうに携帯電話を見つめる画面には笑顔で笑うショートカットの女性がウィンクしていた。

  「恵子・・ゴメン。」

心の中で、携帯電話に謝った。

いや、正確にはウィンクしている彼女にうしろめたい気持ちが心のどこかにあったのかも知れない。



「・・・続く」


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