「チケット高額転売」にNFTで終止符 新興チケミー、リセールも利益還元
「直近1年半で、演劇を中心に約3000公演分のチケット販売を様々な主催者から任された。“高額不正転売の根絶”と“リセールの自由度”の2点が評価され、独占販売を請け負ったケースも少なくない」。
こう話す宮下大佑氏は2022年、早稲田大学政治経済学部で勉学に励む傍ら、「NFT（非代替性トークン）チケット」の成長性を確信し、チケミー（東京・千代田）を設立。代表取締役CEO（最高経営責任者）に就任すると、自ら先頭に立って、NFTチケットの国内普及で音頭を取ってきた。
主力サービスは、NFTチケット専門のプレイガイドサービス「TicketMe」だ。約2年にわたる努力が実を結び、ようやく堅調に利用が広がりつつあると、手応えを感じている
NFTチケットとは、同じデータを持つ人は他に存在しないというNFTの技術上の特性を生かし、イベントの入場券をデジタルで流通させる新しいアイデアだ。ビットコインでも使われているブロックチェーン上で、チケットの販売から購入、保管、そして入場に至る一連のプロセスを厳格に管理する。そもそも偽造チケットが出回ることが、あり得ない仕組みが特徴だ。
重要なのは、結果として購入した人は確実に自分が所有権を持つことを主催者に対して証明でき、一方で販売した側は今誰が所有権を持ち、また転売されたらその事実を追える点にある。
19年に施行したチケット不正転売禁止法によって、主催者が設定した料金を上回る価格で転売することは法律で禁じられた。しかしながら、100％根絶には至っていないのが実態だ。
限られた会場の席数を巡って、大量のファンが争奪する構図がある以上、そこにはどうしても供給を需要が上回る構図が生まれてしまう。入場時に本人確認を厳格に実施するなど主催者は対策を進めているが、すり抜けるために購入者情報とひもづいた中古のスマートフォンをセットで貸し出すなど、“転売ヤー”はあの手この手を繰り出す。SNSを通じて、水面下で個人同士が直接売買するケースは後を絶たない。
直近では、Snow Manなど人気男子アイドルグループを多数抱えるSTARTO ENTERTAINMENTが、チケット販売サイトの運営会社に対して発信者情報開示命令を求める申し立てを東京地方裁判所に行ったことも話題になった。
こうしたいたちごっこが続く難題は、NFTチケットで終止符を打てるはずだと宮下氏は確信している。
いち早くホリプロ導入、ミュージカルで健全な2次流通
チケミーの挑戦にいち早く理解を示した1社が、芸能事務所のホリプロだ。24年3月7日～29日に同社主催で上演したブロードウェイミュージカル「カム フロム アウェイ」で、NFTチケットを採用。全公演について、1階4列目センターブロックの座席を「ファーストクラスチケット」と銘打ち、TicketMeで売り出したのだ。
会場の中でも良席だったうえ、通常より15分早く入場したり、オリジナルトートバッグがもらえたりといった特典が付いたことから、熱心なファンらが飛びつき、すぐに完売した。
演劇の世界は、多くても1000人程度と狭い会場で開催されるとあって需要が供給を大幅に上回りがちだ。ただ、この公演については転売ヤーの餌食にならずに済んだ。
というのも、TicketMeの場合、ブロックチェーン上に取り引きの様子が刻々と記録されるからだ。主催者のあずかり知らぬところでチケットは流通できず、何より身元がばれることを恐れる転売ヤーにとってはNFTチケットを扱うのはリスクが大きすぎたからだろう。
しかも、チケット所有者は会場到着時にブラウザーを開き、NFTの情報をブロックチェーンからその場で呼び出してQRコードを生成する必要がある。
これを会場スタッフに提示するわけだが、入場可能なQRコードはチケット所有者しか作れない。一定時間ごとにQRコードは無効になり、画面コピーしたものははじかれる。本人確認をすり抜けることが難しい。
実は、ホリプロがチケミーに白羽の矢を立てたのには、もう1つの理由がある。
これは有料会員限定です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます