スシロー「鶴瓶氏を削除」が完全に見誤ったワケ企業は「CM取り下げ」をどこで判断すべき?25/02/03 15:35西山 守様記事抜粋<
回転寿司チェーン「スシロー」のイメージキャラクターを務めていた笑福亭鶴瓶さんの写真が、同社の公式サイトから削除されたことが物議を醸している。
スシローを運営する株式会社「FOOD & LIFE COMPANIES」は、報道各社からの取材に対し、「この度の件は、お客さまから様々な声をいただいておりましたことを踏まえ総合的に判断し、対応しております」と理由を説明しているという。
この事態に至ったのは、元タレントの中居正広さんが2023年5月に自宅マンションで開催したバーベキューパーティに鶴瓶さんが参加していたことによる。
このバーベキューには、その後中居さんとトラブルになった女性も参加していたほか、中居さんと女性の出会いの場を設定したとされる、フジテレビの元編成幹部A氏(1月末に異動したと報道)も参加していたという。
鶴瓶さんに関しては、1月30日、鶴瓶さんの冠番組『無学 鶴の間』(BS11)の2月4日放送分が休止される旨が発表された。なお、放送休止の理由は「編成上の理由」と説明されており、バーベキュー参加が影響しているのか否かは不明だ。
これら一連の流れに「鶴瓶さんはとばっちりだ」という意見も多いが、少なくともスシローの対応は、筆者としては好ましいやり方ではなかったと思っている。
「CM取り下げ」を検討する“3つのポイント”
筆者は、2016年まで20年近く広告会社に勤務していた。後半の10年ほどは、SNSやメディアの論調を調べる仕事をしており、その関連で、CMを取り下げるか否かの助言をする機会も多かった。
その際に、筆者が強調していた「CM取り下げのポイント」は、下記の3点である。
2. 世論は重要だが、「顕在化している声=世論」ではない
3. 取り下げることのリスクも考えておくべき
最近、企業はSNS上の声を意識し、重視している。筆者自身、会社員時代はそのための方法論を開発してきた。しかしながら、「SNSの声を過信してはならない」ということもあわせて主張してきた。
CMの取り下げ、継続を検討する際も、企業にはSNSの声だけではなく、メディアの論調や消費者調査(もし行われていれば)の結果もあわせて提示し、助言を行ってきた。企業側は、そこに「お客様相談センター」など企業側に上がっている情報を加味して、継続するか取り下げを行うかを検討するのが一般的だ。
ただし、そこまでやっても、「潜在的な意見」を拾い出すことは困難で、総合的な判断を行う必要がある。
「お客様の声を聞く」、「お客様1人ひとりと向き合う」というのは重要なことなのだが、「言うは易く行うは難し」である。
多くの顧客や視聴者から理解を得るためには、「誰がどう言っているから」ということよりも、「正しい行いをしているのか?」ということのほうが重要だ。ただし、その行いの根拠をきちんと説明できることが並行して重要になる。
「少数意見」に流されるリスク
この「3つのポイント」を適切に判断し、CM継続を決めて世間から称賛を得たのが、アイリスーオーヤマだ。
昨年末に俳優の吉沢亮さんが泥酔して隣家に侵入してしまった問題。吉沢さんをイメージキャラクターに起用していたアイリスオーヤマは契約更新を発表した。吉沢さんが起こした問題がさほど深刻とは言えなかったこと、そして吉沢さんに同情的な意見が出始めていたことを判断してのことだろう。これが結果的に同社のイメージアップにもつながった。
一方、判断を見誤ったとされる例もある。
CMではないが、2015年に、東京都現代美術館に展示されていた現代美術家・会田誠さんの作品がクレームを受けて撤去された件。撤去要請のきっかけとなったクレームは1件であったことが発覚し、撤去の正当性が疑問視されることとなった。
さらにさかのぼると、2011年には、フジテレビが「韓国コンテンツ」を多く放送していることに対して、嫌韓・反韓の人たちが批判を行ったことが起点となり、フジテレビの大口スポンサーの花王に対する不買運動が起こった。
不買運動の影響力は限定的だと思うが、SNSで批判されたり、商品評価サイトに低レビューが書かれたりと、風評に対する影響は大きかったように思う。それでも花王は、スポンサーをおりなかった。
もし花王がスポンサーを打ち切ったとしたら、「差別を認めた」、「同調圧力に屈した」、「少数意見に流された」といった批判を浴び、逆効果をもたらしたはずだ。
今回のスシロー側の対応については、「少数意見に流された」と見なされても、やむをえなかったように思う。
一時的に取り下げるのであれば(筆者はそれも賛同しないが)、「実態がわからないため一旦非公開という判断を行った。実態がわかり次第、正式に対応を決定する」くらいの説明はあってもよかったように思う。
スシローが検討すべきだったこと
今回の事案に関しては、「実態がよくわからない」という状況があり、公式な情報が出てこない(出せない)状況の中で、週刊誌の記事が独り歩きしてしまっている。その中で、企業は判断を迫られているという状況だ。
鶴瓶さんの起用継続を判断するうえでは、下記の3点が関係してくる。
2. (上記に対する)フジテレビ社員A氏の関与
3. 鶴瓶氏の参加したバーベキューパーティの実態
1については、週刊誌報道が既成事実であるかのように思われているのだが、現時点では、かなり曖昧な状況だ。
記者会見をよく見ればわかるのだが、中居さんと女性との間で見解の相違がある。示談で一旦幕引きされてしまったので、加害-被害の関係も確定できていない。トラブルの内容についても、週刊誌で示唆されているような“性的なもの”だとも断定できない。そういう状況なのだ。
2についても、週刊誌報道にあった、「トラブル当日のA氏の直接的な関与」については否定されている。バーベキューパーティは「間接的な関与」に当たる部分ではあるのだが、この実態もまだわかっていない。
3に関してだが、筆者は偶然、当該のバーベキューパーティの参加者から、話を直接に聞く機会に恵まれた。
フジテレビの「やり直し記者会見」翌日の1月28日、日本テレビ系「DayDay.」に生出演したのだが、レギュラーメンバーである、タレントのヒロミさんが深刻な顔をして、バーベキューパーティに参加したことと、その実態について説明した。当事者がその場で口を開いてくれたことは貴重であったと思う。
ヒロミさんの発言は、すでにニュースサイト等でも取り上げられているので、詳しくは説明しないが、普通のバーベキューパーティであり、ヒロミさんと鶴瓶さんは途中で帰った――とのことだった。
ヒロミさんは、「一睡もできなかった」「恐怖を感じた」とまで仰っており、そのときは「ちょっど大げさでは?」と思ったのだが、その後、鶴瓶さんに起こったことを見れば、ヒロミさんがそう思った気持ちもよくわかる。
実態がわからないのはやむをえないのだが、そうであれば、企業としての態度や判断基準を明確に示すことが重要だ。
「事実関係がわからない事態」にどう対応するか?
スシローに話を戻そう。同社は、鶴瓶さんの事務所に事前確認は行わず、取り下げ後に通知したという。
現在、同社に批判が起きている状況を見れば、鶴瓶さん側とフジテレビに事前に確認を取り、「問題は確認できていない」という言質を取ったうえで、継続の決定をすればよかったように思う
それでもしクレームを受けたら、「現時点では問題は確認できなかったので継続している」と回答すればよいし、判断基準については、フジテレビと鶴瓶さんの事務所によって担保されているので、リスク回避にもなる。
今後、明らかになっていない問題が発覚する可能性もあるかもしれないが、発覚した時点で判断すればよい。
また、『週刊文春』が、一連の報道の根幹に関わる部分を訂正する問題も起きており、週刊誌記事の信憑性も揺らいでいる(「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」という部分を、第2弾以降は「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の"延長"と認識していた」とした)。
企業側も週刊誌の情報だけを基に判断することで、「曖昧な情報を基に判断した」「週刊誌の論調に加担した」といった認識をされるリスクもある。
今回の一連の問題は「VUCA」の状態にある
もちろん、継続するか取り下げるかは企業側が判断することである。ただ、スシローは取り下げるにしても、説明不足だったように思える。
ビジネスの世界でVUCA(ブーカ)という言葉がよく使われる。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、変化が激しく、将来の予測が困難な状況を指す用語だ。
今回の中居正広さんとフジテレビの一連の問題は、まさにVUCAの状態にあり、関係各所が対応方法を見極めかねている状況だ。そういう状況だからこそ、問題の本質をとらえて意思決定を行い、結果を予想しながら行動し、柔軟に軌道修正を行うことが求められる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます