街の鶏肉店から年商272億円への道筋。業界最大手に押し上げた緻密な戦略_BizHint 編集部様記事抜粋(文:蒲原 雄介様 取材:山本 拓宜様)<
商店街で家族経営を営む小さな鶏肉店が、年商272億円を誇る企業グループへと躍進を遂げました。けん引したのは、父の後を継いだ2代目の髙波幸夫社長です。社長就任直後、独自の「目標売上高算出式」を生み出し、徹底的な数字管理により年商1.5億円の家業を272億円のグループにまで成長させました。目標売上高算出式に基づいた目標と実績の誤差は1~4%という、その経営論についてお話を伺いました
株式会社プレコフーズ
代表取締役社長 髙波 幸夫さん
1958年生まれ、東京都出身。米国のブルックスカレッジを卒業後、1983年に両親が経営する有限会社 鳥利商店に入社。1994年、社長就任を機に株式会社プレコフーズに改める。鶏肉専門店から総合食品卸に転換し、首都圏の主に個人経営の飲食店約3万店に7000種類以上の食品を納める
大学を中退して渡米、家業を継ぐ気持ちは皆無だった
――まず家業を継ぐことになった経緯を教えていただけますか。
髙波 幸夫さん(以下、髙波): 当社は、父が1955年に創業した鶏肉専門店「鳥利商店」が前身で、家族経営の小さな店でした。
私は日本の大学を3か月で中退したあと渡米、カリフォルニアでファッションマーチャンダイジングを勉強するために大学に入り、卒業後は憧れのニューヨークで働いていましたが、「家業がダメになった」という父のSOSがあり帰国、家業に入ることになりました。
当時、社員は私を含めて家族5名、年商は8000万円くらいの家族経営の精肉店です。
入社後、仕事はそれなりに頑張ってはいましたが、今一つ気持ちが入らない日々。当時は今より留学経験が珍しい時代だったにも関わらず、子供のころからずっと見てきた仕事をしている自分にどこか忸怩たる思いでした。
家業の経営状況は、スーパーマーケットの台頭によりどんどん厳しくなっていくのは明らかでした。そんな中、入社から11年後のある日、突然父から「この会社をお前にやる」と言われ事業承継。アメリカへの未練はあったものの、会社経営には興味があり嬉しかったのを覚えています。そして、社長就任を機に飲食店向けの食品卸に力を入れることにしたのです。
――社長就任から劇的な成長が始まるのですね。
髙波: 最初に、当時1億5000万円くらいだった年商を10億円に成長させようと目標を掲げました。10億という数字に特別な意味はなく、当時、尊敬していた上得意の居酒屋さんの年商が10億円だったので、まずは10億を目指そうと。
目標を立ててからは、営業スタッフと配送スタッフを採用して10~20名くらいの組織を立ち上げました。特に営業部は私が先頭に立ってどんどん飛び込み営業をかけていきました。
その結果、「ささみ一本からでも届ける」きめ細かなサービスが評価され、毎年20〜30%ずつ成長を遂げました。目標の年商10億円も社長就任から7年で達成できたのです。
ただ、10億円を突破した段階でさまざまな問題も見えてきました。店の近くに建築した肉の加工施設のキャパシティも限界でしたし、朝は狭い道に配送車が沢山ならんでいて近所から苦情も来ていました。
会社を成長させるためには、経営を次の段階へ進めていく必要がありました。
私が描いていた「安全・品質・鮮度」を追求した新加工・物流センターの設立には数億円もの投資が必要でした。ただ、銀行から融資を受けるとしても私たちに担保と呼べるものはほとんどありませんから、会社の成長を理解していただくための根拠が必要でした。
そこで考えたのが、現在も会社の成長戦略の根幹を成す「目標売上高算出式」です。
「目標売上高算出式」とはなんですか?
髙波: 「目標売上高算出式」というのは私が考案した算出式です。現在の売上に新規顧客開拓した売上を積み上げ、顧客ロスト分を引くことを毎月計算し、そこに業界特有の7つの指数を加味するというものです。その計算式によりかなりの高精度で売上と利益を緻密に予測できるようにしました。
また、目標売上から逆算すれば「あと営業スタッフが2人必要だな」とか「配送トラックを4台増やさなければ」など必要なリソースを割り出すこともできます。
この算出式とこれまでの実績を携えて、なんとか銀行から融資を受けることができ、毎年確実に成長をし続ける経営基盤が構築できたのです。
そのように、あらゆる数字を管理し、年商50億円までは毎年20〜30%の成長を、100億円までは毎年15〜20%の成長、100億円を超えてからは、毎年10%前後の成長という具合に24期連続で成長を成し遂げ、コロナ禍が明けた2023年度は過去最高売上となる272億円を達成するまでになりました。
――経営では思い通りにいかないこともあると思います。どのくらい計算通りにできるものなのですか?
髙波: 目標達成度として1~4%の誤差がでることもありますが、例年ほぼ目標通りの成果を出しています。この30年で想定外だったのはコロナ禍くらいでしょうか。
その目標達成を支える一つが営業戦略です。弊社では営業スタッフが数名の時から、価格表や商品カタログを作り、パソコンも早くから1人に1台ずつ貸与して、営業活動の生産性を高めることに注力しました。
その上、弊社は新規営業、ルートセールスにインセンティブを用意していますから、多くの社員が期待した以上の成果を出してくれているのです。
ほかにも、顧客ロスト率や離職率などが想定と異なる場合は、環境や情勢の変化よりも会社の体制か現場の管理に問題が潜んでいることが多い。それらの問題も数字から推しはかることが可能です。
――髙波様は徹底的に数字に拘ると伺いました。
髙波: 経営者は、徹底的に数字を追求すべきだと私は考えています。特にグループ会社ともなると、どうしても現場に足を運ぶ時間が少なくなり、なおさら現場の実態を数字で把握すべき、と考えています。
ただし売上、利益、生産性など、当たり前に誰もがおさえるべき数字だけではなく、今後問題になり得る事実を数字によってどれだけ把握できるかが大切です。
たとえば、同じ事業所の人材が複数人離職する話を聞いたとします。待遇や仕事内容だけではなく、職場になにか問題が起きていると推測できるわけです。
私ならその社員の話を聞くだけではなく、事実を確認するために、事業所や部署ごとの離職率を調べます。その部署の離職率が明らかに高いのであれば、経営者が介在すべき重要な問題が存在していると思うのです。
そのように、経営者こそ現場の数字を把握し、課題を誰よりも早く認識する必要があると、私は考えています。
――問題点も数字から見えてくるわけですね。
髙波: はい、気になった数字はいつでも取り出せるようにする必要があります。
経営判断を下すためには、正確な情報収集と、数字から問題点を読み取る力が大切だと私は思っています。感覚や思い込みではなく、あくまで事実と向き合う。数字から物語を読み取り、その流れが悪い時には、何かしら原因があり、そこに手を打つ必要があると、私は考えています。
そのために、弊社ではかなり多くの指標が数値化されています。営業チームの状況、顧客の購買履歴、商品の販売動向、利益率などの数値を細分化して、さまざまな切り口から分析しています。
また20年以上前から自前で基幹システムを開発し、欲しい情報をすぐに引き出す環境を構築してきました。
目標達成のために社内ではどのような働きかけを行っていらっしゃいますか?
髙波: 目標売上に関することでいえば、たとえば来期、2億円の売上増加を目指すと仮定します。これは12カ月でならすと、1か月あたり1700万円の売上増が必要となる計算です。
しかし当社では「毎月1700万円、売上を上乗せしてほしい」という伝え方はしません。現場の社員を混乱させるからです。当社の予算では「来月、260万円分の新規顧客を開拓しよう」というもの。これを12カ月繰り返していきます。 当社は卸売業をしていますので、一度お付き合いが始まると、基本的には毎月取引は継続します。当社の営業実績は78マスで算出しており、4月に1マス、5月は前月継続分と今月分を追加した計3マス、6月は4月と5月の継続分を追加した計6マス…と12カ月で78マスを積み上げていき、1か月あたり260万円分の新規顧客開拓が12カ月続くと…1年では2億280万円の積み上げ。目標とする2億円の売上増を達成できます。
今後の目標をお聞きしてもよろしいでしょうか。
髙波: 目指しているのは、社長を次々に輩出する企業グループの姿です。鳥利商店からプレコフーズへと社名変更した時、企業を大きくするとともに、大樹の幹から枝葉ができるように事業ごとに系列会社を作って、育った社員の中から社長を任せていきたいという形を最初に描きました。そしていつの日か、社長たちが集まって「あの時は頑張ったな」とお互いを讃え合い、思い出を語り合うことができたなら、企業人として幸せだと考えたのです。
その想いを社名にも込めました。「プレコ」という社名は、Presidents(社長達)の「Pre」とCooperation(協同体)の「Co」を組み合わせた造語です。現在、本社機能を持つプレコフーズを事業統括会社とし、食肉を扱うプレコエムユニット、青果事業のプレコヴィユニット、水産品のプレコエフユニット、そして衛生管理サービスを提供するプレコサニオがあり、今後も次々に新たな事業を展開して、グループ会社を増やしていきたいと考えています。
――それぞれに社長がいるんですね。
髙波: 志ある社員を育て、それぞれの事業を任せていく。そうすることで組織に厚みが出て、人材の活躍の幅も広がります。
企業は人なりといいます。市場の声に耳を傾け、安全で美味しい食を追求する人、お客様の笑顔のためにひたむきに働く人、仲間を大切にしチームワークを発揮する人。プレコの輪に加わった社員が活躍の場を得て、ステップアップできる。そして新たなリーダーのもとに、次の世代を担う人がまた集まる。
いつまでも1軒ずつのお客様を大切にし、『お客様』『社員』『社会』の笑顔を創造する商売を続けていけたらと思います。