あべっちの思いをこめた雑記帳

花と音楽

 冬の昼下がり。ふと庭に目をやると水仙やスミレなどのいくつかの花が疲れた心を和ませてくれる。バラやガーベラもありがたい。
 春から秋は花には事欠かないが、さすがに今の季節は数えるほどしかそれらは姿を見せない。

 少年時代は花が美しいと思ったことはなかった。もちろんしみじみ見るなどというのは自分のその時代の歴史の中には一度もなかったかもしれない。いわば花というものは私の眼中に存在しなかったのだろうと思う。
 そんな無関心のわんぱく坊主が一番最初に覚えた花の名はチューリップだったような気がする。それも小学校に入ってすぐ学校の音楽の時間からだった。ああそういえばそんな花があったなという感じで。
 次がタンポポだったか、それから桃の花かも。タンポポはその登下校の際に知ったような。桃は「うれしいひなまつり」で、これも音楽の時間に。それとは別に、桜はなんとなくその存在を小さい頃から気づいていたかもしれないような感じはするけれど。

 その後1~2年して、次はサザンカだった。すぐ家のお隣がこの花を敷地の囲いに生け垣としてたくさん植えていたのを小さいながらに覚えている。というのも、そこらへんでよく近所の子らと相撲のまねごとをした。私は強くも弱くもなかったけれど、ほとんど相手は上級生か同じくらいの学年だったから、やっぱり敗けの方が多かったかもしれない。
 上級生と取ったとき、こてんぱんに投げられた。そしてそのサザンカの枝に頭をぶつけ、左耳の上の部分から血を出した。すぐさま病院に行って三針縫ったが、傷痕は今でも少し残っている。床屋さんに行くたびに、坊主頭のその痕を聞かれたものである。
 花にはまったく関心がなかった私でも、そのサザンカだけはいきなり覚えて、忘れられない花になった。そしてそのようにして少年時代にいくつかの花を覚えていった。
 今の花好きからはまるでウソのような、考えられない話である。

 その頃は毎日の対象は学校ではあったが、それは勉強ではなく、友だちと遊びとの二点に絞っていたのかもしれない。
 今は大きく変わって、花はやすらぐもの。つまり、花や音楽や旅や本など。他にもたくさん好きなことはあるから、少年時代に比べると、欲張りすぎる感は否めない。
 花と音楽は私の人生の主要部分と言ったら言い過ぎであろうか。それくらい好きなものは好きだ。

                      「つれづれ(55)花と音楽」

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