先日会った友人が、スターと友だちになりたいなと冗談まじりに言った。理由は、「あこがれのスターだもの」ということらしい。でも無理だろうななどと本人は決めてかかっている。
スターはファンの前では、自分のイメージをたえずつくっていなくてはいけない。いつも笑顔で愛想よく、そのうえ気に入ってもらえるように言葉にも努力している。
いわばファンの前では自分の普段の姿を出すより、いつもファンの星であらなければならない。本人にとってはそうとうなストレスになると思う。
人と会うとき、その相手が自分のファンである場合と、ファンでない普通の人の場合とでおのずと態度が変わってくることと思う。言い方を変えれば、自然と態度は変えているだろう。
ましてや、相手が先生や超先輩などなら敬礼とまではいかなくても芸のきびしい慣習に合わせなければ芸能界という世界では生きていけない。
ファンにはガードをしながら笑顔で接し、ファンでない一般の知人等には常識や謙虚な態度で接することと思う。だからか彼らや彼女らの私生活は意外な点が多い人がいると聞いている。
お笑い芸人でありながら、実は真面目なうえに酒を一滴も飲まなかった人もいるし、反面清純女優が私生活は乱れていたり。裏話をその道の詳しい人からこっそり教えてもらったことも過去にはある。現在活躍中の若手芸能人のお父さんとも友人関係なので、そこからも少しは苦労話が聞こえてくる。
今かえりみれば、青春アイドルとして一世を風靡したMさんと15年ほど前に岩手県へご一緒する機会があった。げいび渓を訪ねたとき、舟で上陸後に川面に石投げをした思い出は深い。彼は謙虚で無口で、前夜の宿でも歌一つ出さなかった。
演歌界のトップクラスのMさんSさんなどとも、とある作詞家のホテルニューオータニにおける記念パーティーに招かれたとき一言二言話す機会を得たし、作詞家の大御所のSさんとはその記念パーティーの席上、お話をうかがったりもした。
スターはスターのままでよいのではないかなと、私は思う。いつまでもスターであってほしいから、自分からは決して近づかないでいた。
青春時代は芸能というか音楽というか、私はそういうものに一直線に向かっていたからだが、今考えると若気のいたりというやつらしい。中学時代から音楽関係が好きで、いちじはその道でメシを食っていこうと本職以外に本気でずっと夢を追っていた時代を思い出している。
そして職業柄いろんな有名人と他にも対面したり、一緒にお出かけしたりしたこともあったが、自分からは一度もお友だちになろうとは思わなかった。これでよかったのだと今は思っている。
だから、いつまでたっても私の中ではその人たちはスターのままでいる。
「つれづれ(86)スターと友だちになりたい人、なりたくない人」