あべっちの思いをこめた雑記帳

菜の花畑に想いを馳せながら

 近くの公園に出かけてみた。
 日のよい土曜日の午前中にもかかわらず、人影はさほどでもなかった。桜が終わり、人々はその花びらとともに、どこかに散って行ったのだろうか。
 後には菜の花だけが、しっかりと群れをなして咲いている。

    朧月夜
 菜の花畠に 入日薄れ
 見わたす山の端 霞ふかし
 春風そよふく 空を見れば
 夕月かかりて におい淡し
           作詞 高野辰之  作曲 岡野貞一

 この朧月夜は大正3年6月の文部省唱歌。
 だから本来は他の唱歌と同じように、国のお達しで作者名は伏せられていた。だが戦後、国の唱歌に対する作詞作曲者の考え方が変わり、50年以上も経過した昭和40年代に研究によってやっと作者がわかったようだ。
 ほとんどの人は作者の知らないまま、小学生時に学校で歌っていたことになる。

 関東に生まれ育った私は、菜の花といえばすぐ南房総を思い浮かべる。それほど千葉県と菜の花の結び付きは強烈だ。千葉県の県花にもなっている。

 昔は菜種油を採るために国内あちこちで栽培されていた菜の花。
 しかしこの歌のモデルは、作詞をされた高野氏のふるさとの長野県豊田村や飯山市一帯だという説が有力だ。7~8年前の秋に、2年連続でこの地を訪ね、作詞者に想いを馳せ、その舞台や、彼の実家を訪ねたのも記憶にまだ新しい。
 また直接の作詞のきっかけとなったのは、当時彼が住んでいた東京代々木上原近郊の菜の花畑を見て、故郷を思い出し作ったともいわれている。
 そうだとすれば「朧月夜」の舞台は長野県と同時に、案外渋谷あたりの菜の花畑がモデルということにもなる。

 また作曲の岡野氏の故郷、鳥取市にも菜の花畑があり、この歌がそれぞれの故郷の思いを込めて作ったともいえる。

 この歌の詩を一語一語かみしめてみると、春のほのぼのとした言葉がたくさん、巧みに出てくる。八六調の見事な詩であるが、さらに細かくみてみると、四四三三調に詠いこんである。
 見事な日本語の美しさであり、まるで日本画をみているようでもある。


         「童謡唱歌歌謡曲など(28) 菜の花畑に想いを馳せながら」

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