少年野球の現場でよく聞く「才能ある」「センスある」の言葉の意味を専門家が解説
「あの子は才能がありそうだね」「ショートの子はセンスがいいね」。
指導陣や保護者から、こんな言葉が聞こえてくることはないだろうか。
親にとっては、自分の子がどう評価されているのか気になるところだが
具体的に「才能」や「センス」とは何を指しているのだろうか。
スポーツ科学・発達科学を専門としている
東京農業大学教授・勝亦陽一先生に話を聞いた。
「“才能”と“センス”を異なるものと定義したほうが
選手を評価しやすくなると思います」と
野球における2つの言葉の“線引き”を明確に指摘する。
“才能”とは、生まれ持った、自分では変えることの難しい要素を指すという。
たとえば、身長や筋線維組成
(瞬発力に影響する白筋・速筋と、持久力に影響する赤筋・遅筋の割合)
関節弛緩性(関節の緩さ)など、遺伝子情報に大きく影響される特徴だ。
野球では、持って生まれた身体的特徴や筋肉の質などが“才能”と称されることが多い。
「私たちは生まれた時から筋線維組成が決まっていて
基本的には大きく変えることができません。
マグロの赤身が白身になることがないように
五輪の100メートル走で優勝したトップスプリンターが
マラソンで優勝するのは現実的に難しいのは
持って生まれた筋線維の割合が違うからです」
筋線維組成は遺伝的な要素が強く
トレーニングによってある程度の変化は可能でも
根本的に変えることは難しい。
この「変えられない」要素の最たる例が身長だ。
野球の投手は背が高い方が有利と言われるが
「あと20センチ、背を高くしたい」と思っても叶えられるものではない。
恵まれた体格とよく表現されるが
それは生まれつきとか、運良くもたらされたものとも言える。
“才能”と違って“センス”は「伸ばせる」…その鍵は主体的行動
一方、“センス”は「目や耳などの五感で知覚・認知した情報を脳で処理し
状況や目的に応じて適切な行動を選択・実行できる能力」を指す。
因果関係(コツ)を理解して行動する力や、興味のあることを探求する力
必要な情報を取捨選択する力なども含まれるという。
では、野球における“センス”とは具体的に何か。
それは「試合の状況や展開を整理して判断・行動することです。
“センスが良い”選手は、アウトカウントや走者の位置といった複数の状況を理解し
ボールが来た時に瞬時に適切な判断とプレーができます。
一塁へ送球するのが基本でも、状況によっては三塁へ投げた方が良い場合があるように
野球では、数ある選択肢の中から適切なプレーを選択・実践する能力が必要です」
そして重要なのは、“センス”は“才能”と違って「伸ばすことができる」という点だ。
そのためには、「主体的に行動することが鍵」だと指摘する。
誰かに言われてやるのではなく、自分で考えて、意図を持って判断・行動する。
そこで成功と失敗を積み重ねていくことで、適切な判断・行動ができる
つまりは“センスの良いプレーができる”ようになっていく。
さらに、競技内容や体のメカニズムへの深い理解や、自ら課題を設定し
解決していく意志、技術・体力を磨いていく向上心などによってセンスは磨かれる。
その過程で培われる思考力や探究力は、野球だけではなく
普段の生活や勉強においても子どもたちの力になる。
学童野球はとかく監督・コーチの“押し付け指導”になりがちだが
それでは子どもたちの“センス”は磨かれず、将来につながりにくいともいえるだろう。
野球で「センスある子・ない子」は生まれつきか? 評価気にする親に伝える“真相”
「勉強ができることも野球が上手くなることも、基本は同じ」
現在、学校教育の現場では「アクティブラーニング」や「探究学習」が重視されている。
目まぐるしく変化する時代を生き抜くために必要な課題を自ら見つけ
主体的に学ぶ力を養うためだ。
少年野球で主体的な行動経験を積むことができれば、“センス”が磨かれるだけでなく
「生きる力」を育む絶好の機会となり得る。
たとえプロ野球選手になれなくても、この過程で育まれた力は必ず将来の財産となる。
確かに才能に恵まれた“天才”は存在するが、活躍している天才の多くは
センスを磨く努力を続けている。
「勉強ができるようになることも、野球が上手くなることも、基本的な部分では同じです」
“センス”はあらゆる分野に通じる。保護者や指導者は「才能」「センス」の違いを理解して
子どもの成長過程全体を見守っていくことが大切だ。
Yahooニュース 1/21(火) 7:05配信 大橋礼 / Rei Ohashi
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