宇宙の果ての記憶
未来を指して 刻が流れているのではない
過去を遡って 刻は流れている
父は 時の流れは螺旋を描いていると言っていた
その時自分は 螺旋を描きながら上昇する軌跡を思い描いていた
ジェイムスウェッブは 宇宙の過去を遠望する
思い出のアルバムを繰るように 宇宙の記憶を蘇らせる
しかしその記憶は 果てしなく曖昧だ
その記憶は 到底解き得ない謎を さらに思い起こさせる
亡くなった父の歳を幾つも過ぎた今
時間の流れは螺旋を描いていると 自分も思う
ただその軌跡は 上昇することもなく下降することもなく
同心の果てしない平面上の軌跡を 廻り始めたに過ぎないことに気付く
自分が宇宙と呼んでいる その同心の軌跡
その軌跡の旅の船出に
我らが銀河宇宙は 今帆を上げたところに過ぎない
時計の針が同じ時刻を指しても それは決して同じ時間ではない
永遠の直線の軌跡の目盛の一つ
循環する一年の季節も 月の満ち欠けも 一日の昼と夜も
長い一本の直線の軌跡の目盛の一つ
螺旋を描いていようとその円弧は 限りなく直線に近い
人間は 愚かな歴史を繰り返しているように見える
生き物は 生まれて死んで転生を繰り返しているように見える
全てが 反復しているように見えるけれど 反復はないのだ
父や母は 今も自分の心にいてくれるけれど
もう永遠に 刻を共にすることはない
ジェイムスウェッブは 赤ん坊の自分の姿を発見するかも知れない
そして もしかしたら僕に それを見せてくれるかも知れない
けれど彼は 彼の父や母の顔を思い出せはしないだろう
そして僕も 彼の父や母の顔を知ることはないだろう
刻は 過去を遡って流れている
父や母の顔が 遙かで果てしない僕の宇宙の果ての記憶だ