人類史

2024年06月26日 | 日記

 人類史

ゲーマーはヘッドディスプレイを装着し
コントロールレバーを指で操りゲームを楽しんでいる
画面の照準はターゲットを捉え
舌なめずりをしながら
ゆっくりと確実にそれを追う
急所を狙い定め映像は急速にクローズアップして
突然視界は絶たれる

そこには確実に幾つかの死がある
形をとどめない骸がある
ヘッドディスプレイのゲーマーは
ゲーム得点の獲得に快哉を叫けぶ爆発の煙と骸を舐める炎が
兵士の怨みと家族の悲しみとCO2を生成する
最高水準の科学技術は殺戮と破壊に費やされる
有限の地球資源は殺戮と破壊に費やされる
家族の同胞は戦死した兵士の補充要員としてさらに費やされる
最高水準の科学技術が正確無比にその兵士の頭上に費やされる

愚かさを嘆いても意味がない
戦いが終わっても次の戦いが始まる
人類というのは殺し合う生き物なのだ

素手で殺し合い
石を持って殺し合い
剣を持って殺し合い
弓矢を持って殺し合い
銃と弾丸を持って殺し合い
爆弾を持って殺し合い
ガスと細菌を持って殺し合い
ミサイルという名のより長い槍を持って殺し合い
もっとより大きな爆弾を持って殺し合い
ドローンという玩具を持って殺し合い
愛と平和という武器を持って殺し合い

殺し合うことによって進化し人類となってきたのだ
殺し合うことが人類の宿命であり人類である所以なのだ
人類は人類である限り殺し続ける
人類は人類である限り殺され続ける

人類史は殺し合いの歴史なのだ

 


梅雨の雨

2024年06月24日 | 日記

梅雨の雨

梅雨の雨は ぬれた瑞々しい葉の緑と赤いツツジの花を思い出させる
梅雨の雨は 制服の白ブラウスと紺色のスカートの女学生を思い出させる
梅雨の雨は 聞こえてくる吹奏楽部のロングトーンとスケールの音を思い出させる
梅雨の雨は 校庭の濡れた土の臭いと雨空を映していた水たまりを思い出させる
梅雨の雨は  開いた赤いタータンチェック柄の傘を思い出させる
梅雨の雨は その傘が近づいてくるのを待っていた自分を思い出させる
梅雨の雨は その傘が遠ざかって行くのを見ていた自分を思い出させる

梅雨の雨は 老いた自分の肉体を気付かせる
梅雨の雨は 子供のまま老いて行けない自分の心を気付かせる
梅雨の雨は 雨と回想の中に濡れて立つ自分を気付かせる
梅雨の雨は あと幾度思い出せるか知れないことを気付かせる


ちらし寿司

2024年06月17日 | 日記

ちらし寿司

お母さんは ちらし寿司が好きだった
お父さんは 小芋の煮っ転がしが好きだった

家族で外出して 食堂に入って食事をするとき
お母さんの注文は いつでもちらし寿司だった

お母さんの亡くなった歳より十以上多く 歳を取ってしまって
お母さんの娘時代の育ちを思う

お父さんの亡くなった歳より多く 歳を取ってしまって
お父さんの奉公時代の御膳を思う

独居老人の自炊の味つけに 近頃自分は自覚する
母親が弁当箱に詰めてくれた甘辛く煮たソーセージの味

 すっかり忘れてる
栄養バランスのとれた塩分の少ない食事など
せめて忘れないように心がけてるのは
幾種類もの食後のクスリ

食事の後にクスリを飲むのやら
クスリを飲むために 食事をするのやら
どうでもよくなる

電子レンジのお陰で いつでも暖かいご飯が頂けるけど
冷めてても好いから
病気のことは どうでもいいから 
アルマイトの弁当箱に詰まった お母さんのお弁当が食べたい

スーパーの惣菜売り場に並べられているちらし寿司を見ると
お母さんに供えたくなる
お寿司の中で ちらし寿司は一番安い
小芋の煮っ転がしはないから
お父さんには半額シールの貼ったわらび餅をお供えにする

今日はお父さんとお母さんと一緒に
ちらし寿司をいただきます


日本

2024年06月13日 | 日記

    日本

親が子を殺し
子が親を殺す

人が人を殺し
自分が自分を殺す

法は権力者のために作られ
権力を守るため執行される

罰は権力者には適用されず
弱者と敵対者のみに適用される

会社は利益のために存在し
そこに働く者は部品でしかない

会社は利益のために権力者に貢ぎ
権力者はより強い権力を持ち その構造を強化する

アメリカでは 銃で自分を守ることが出来る
ここでは果物ナイフでさえ 外を持って歩けない

かって侍は 二本の刀を腰に差し
百姓さえも 旅に出るとき脇差しを携えていた

国のために戦って死んだ英霊たちは忘れられ
彼らの人生は一括して 負の歴史の頁に綴じ込まれる

いつしかここから志しが失われてしまった
豊かさと言う言葉が金のみを意味するようになった

いつしか人々は自分を守るために 汲々とするようになり
志しに目をつぶるようになった

目をつぶり自分を守るために
志しにそぐわぬ事を仕事とし 現実とするようになった

いつしか人々は自分を守るために
志しを諦め 志しを侮り 志しを忘れた

いつしか人々は自分を守るために 世間に背を向け
自分の部屋に引きこもるようになった

英霊たちは母や父を守るために 死地に赴いた
英霊たちは子供や妻を守るために 死地に赴いた

いつしか人々は自分を守るために 父や母を殺し
妻や夫や子供を殺すようになった

ここから志しが忘れられ 失われてから
人々は自分の拠り所を失った
                
引きこもる部屋をさえ追われ
死に場所やその方法も その死にがいさえ失った

いつしか人々は 死出の旅路に赴く人に守り刀を供えなくなり
自分を守るために弔いさえ怠るようになった

いつしかここは人々が自分を守るために
人を殺し自分を殺すところになってしまった


グッドバイ ジミー グッドバイ

2024年06月10日 | 日記

  グッドバイ ジミー グッドバイ

Goodby Jimmy Goodbyという歌のメロディーと歌声が
自分のどこかにしみ込んでいる

それは恐らくラジオの音の記憶なのだ
占領統治下の日本で
占領軍のために放送されていたラジオの音の記憶なのだ

Occupied Japan で自分は生まれ
赤子である私の耳は 日本人である父と母の声と 
占領軍のラジオ放送を聞いていたのだ

赤子である私の目は
角のまるい木製ボディと 横長の窓に横にずれ動く赤い針
チューナーと音量の二つの茶色の溝を刻んだダイヤル
スピーカーの開口部に貼ってあった裂地の質感をさえ覚えている

私は 占領下の日本で
2460グラムの未熟児で生まれ
占領軍の為に流れるラジオ放送の時代に 
栄養不良の子供として育ってきたのだ

テレビの時代になって
流れてきたアメリカのホームドラマの家族は とても豊かだった
犬が駆け回る広い庭付きの白い家
奥に見える曲がった二階への階段
豪華なソファーの前には大きなブラウン管テレビ

ハンサムなパパは いつもスーツを着ていて
美人のママは  膨らんだスカートの裾を翻していた
兄弟たちは健康で明るく 
兄は成績優秀で 弟は野球チームの一員だった
…と思う

白黒テレビの時代だったから
白い家は 白かったし 庭をかける犬も白かった
パパのスーツも白っぽかったし
ママのスカートも 白地に花柄だった
…ような気がする

老人の歳の今になって私は気づく
Jimmy たちが帰っていったアメリカは
ホームドラマのような豊かなアメリカではなかった

風が吹き 雨が降り
長くて寂しい列車の汽笛が 遠く聞こえる野道を
古いトラックのホイールを軋ませながら
帰らなければならない場所だったのだ

大阪大空襲の翌朝
焼き尽くされた街をあとに
あてどなく大阪平野を東に歩くお父さんに
何度も機銃掃射をあびせかけたグラマンの
白い笑い顔のまるで子供のような操縦士の帰って行ったアメリカは
きっと ホームドラマのような健全なアメリカではなかった

何の理由もなく お父さんを殴りつけた
酔っ払いの黒人兵の帰っていったアメリカには
きっと 帰る家も
I'll see you again と言ってくれる人もいなかった

占領統治の任を終え
彼らは 陸と海を旅して 何処に帰って行ったろう

Goodbye, Jimmy, goodbye
Goodbye, Jimmy, goodbye
I'll see you again but I don't know when
Goodbye, Jimmy, goodbye

Occupied Japan で 日本人の自分は生まれた
Jimmyはどんな顔をしていたろうか
肌の色は 白かったろうか 黒かったろうか
Jimmyは 自分のはじめての友だちだったのかも知れない

I'll see you again but I don't know when
Goodbye, Jimmy, goodbye